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リアクション
アジトのとある部屋。
時計塔の爆破、虎の子であるルクスの死亡、詰所の防衛成功……自分達が負けている映像を画面越しに見て、アウィスは声を失う。
「嘘だろ……なんで、なんでだよ! ふざけんな!!」
そこに乱世がやって来る。
足を撃ち抜かれ、羽をもがれた虫のように地べたをうごめいてわめき散らす。
「気分はどうだ? 他人に、自分の心臓を握られてる気分はよ」
「……っ!」
短いが、重い一言がアウィスにのしかかり、汗が噴き出る。
脳裏をよぎるのは、今まで自分が殺してきた人間の最後の顔。
助けを乞う奴。
覚悟を決めながら顔を真っ青にした奴。
泣き叫ぶ奴。
今、自分がそんな奴らと同じ位置まで来てしまったことで全身から血の気が引いて、呼吸が浅く短くなり、まるで犬のようにハッハッ……と呼吸を繰り返す。
乱世はそんな姿を見ても慈悲の心は髪の毛一本ほども動かず、しゃがみ込むようにしてアウィスの耳元に顔を近づけ、
「お前が殺した奴らが迎えに来たぜ」
ポツリと呟いてから、その身を蝕む妄執をかけた。
「あ……ああああああ! な、なんでおまえら……ま、まて話を聞け……よせ、やめろ……俺のそばに近寄るなああああああああああああああああああ!!!」
喉が破けて血を出しそうな程、アウィスは叫んで動かない足を必死に動かしてのたうち回る。
「誰か! 助けろ! 望む物はくうれれてえやう! だうぇわ! だずげ……で!」
叫びすぎで舌を噛んだらしい。アウィスの口元から血が溢れ、溺れたような声が漏れる。
ただ、正常に叫べたとしても構成員はグレアムの手で眠らされている。彼の叫びにはすでに発音が良いか悪いかくらいの違いしかない。
「ああああー! ああ……! ああ、あああああ……」
すでに声に力はなく、喉から漏れる声は母音のみ。
人が、本当の意味で壊れた瞬間と言えた。
「後は任せたぜ」
「承知しています」
白竜は乱世に後を任せると部屋を出て行ってしまう。
乱世の背中を見送ってから白竜はアウィスの脳天に銃口を向けると最上階の部屋から出てきた明人と会った。
「白竜さん……すいません、こんな……」
「いいんです。気にしないでください」
白竜は淡々とそう述べてから、
「もう終わりました」
なんの感情もなく引き金を引いた。
腐ったスイカが爆ぜるような音が響き、アウィスは頭から血を吐き出しながら動かなくなってしまう。
「グレアムさんも……」
「いいよ僕の事は。……だけど明人、人を殺す、人が壊れるというのは、こういうことなんだよ。
君の中の『感情』は、その重みと悲しみで君を苛むだろう。それでも光を求めるなら、その痛みを忘れるな。君を待つ人がいるなら、僕のようにはなってはいけない」
「……はい」
言葉の真意をしっかりと吟味してから、明人は頷いた。
それを見てグレアムが肩の力を少しだけ抜くと、明人の携帯が鳴り響いた。
明人は不審に思いながらも出る。
「やっほー、初めまして……かな?」
「……誰、ですか?」
「ヴィータ・インケルタ、と言えば分かってもらえるかな?」
明人の携帯を握る手に思わず力が籠もる。
それを知ってか知らずか、ヴィータはキャハと笑いを洩らし、話し出した。
「あっちゃもこっちゃもみーんな御破算。さぁて、願いましては――」
耳元でやかましい口上をヴィータが述べる。
その時──突然、爆音がここまで聞こえてきた。
それと同時にヴィータが弾けるような笑い声を上げる。
「何をしたっ!?」
「きゃは♪ そろそろクライマックスよ。わたしたちのターンね」
意とするところを聞き返す前に、再び爆発音。
ここからでも騒ぎ音が聞こえ、煙が見えた。
新しく上った煙は、メインストリートからだった。