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【裂空の弾丸――ホーティ盗賊団サイド――】綺麗な花には何がある?

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【裂空の弾丸――ホーティ盗賊団サイド――】綺麗な花には何がある?

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バルクまでの距離、残り20メートル

 契約者たちの助けを受けながら走り続けるルニ。
 その視界に暴れるバルクの姿。
「バルク」
「ガ、ガアアアア……」
 本来、対峙することのなかった『剛力』と『純白の幼鬼』。
「止まって」
「アアアアアッ!!」
 ルニの制しも虚しく、バルクの攻撃が始まる。
「……ッ」
 強烈な攻撃を紙一重でかわすルニ。だが攻めに転じない。
 契約者達の強烈な攻撃をも耐え抜いたバルクがルニの一撃だけでどうにかなるとは思えない。
 そう。ルニはバルクへ刃を向けることを躊躇っていた。
「まあ、そうだと思ったよ」
「……だれ」
「なぁに、ただの迷い猫さ。視界が悪くて紛れ込んじまった」
「邪魔」
「そう言うな。気まぐれで手を貸してやるってんだから」
「……?」
 身なりに似合わず粗暴な口調。テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)に憑いたマーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)がルニの前へ現れた。
「嬢ちゃん、刃を向けなきゃあいつは助けられない。だが斬るのはそいつじゃない、そうだろう」
「……」
「ガ、ガアア、アアアアアアッ!!」
 ルニの間近まで来たバルクが両の腕を天高く振り上げる。
 だがルニは何もしない。防御も、攻撃も。
「バルク」
「アア、アアアア、アアアアッ!!」
 今にも攻撃が開始されるその時。
 ピタリと、バルクの動きが止まる。体はガラ空きのまま。
「今、助けるっ」
 それを見たルニの虚ろな瞳に、少しだけ光がともる。
 ガラ空きになった鳩尾に柄の先端を思い切り穿つと、バルクがよろけ距離が開く。
「覚悟はできたみてぇだな。いい面だ」
「……」
「さあ、やってやろうぜ。伸るか反るかの大勝負だ!」
 二人は走る。よろけたバルクのもとへ。
「ウ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 暴走したバルクも最後の力を振り絞り仁王立ち。
 距離が縮まる。

バルクまでの距離、残り2メートル。

 刹那、辺りの景色が晴れ渡っていく。三人分の『ホワイトアウト』の効果がようやく切れたのだ。
 そしてお天道様が現れる。光に晒されて、バルクの影もルニたちのほうへと伸びていた。
「頃合だと思っていたぜ!」
 【狂血の黒影爪】を使ってバルクの影へと移り背後へ回るマーツェカ。
「ちょいと失礼っ!」
 足払いを掛けられたバルクは体勢を崩す。
「今だ、お嬢ちゃん!」
 掛け声と同時に躊躇なくバルクへ飛び込むルニ。
「バルク……!」
 大きな斧を振り被り、鈍く光る緑色の機晶石めがけて思い切り振り下ろす。
「目を、覚まして!」
 叫びと同時に、斧が機晶石を捕らえた。

バルクまでの距離、0メートル。

ピキィ……ピキィ、ピキィ……!
パリーンッ!

 音と共に機晶石は砕け散った。ついでにバルクとルニもそのまま倒れこむ。
「はっは、思い切りが良すぎるぜお嬢ちゃん」
「別に」
 今までマスクをつけていたマーツェカがマスクを脱いだ。
「楽しかったぜ。ちゃんとデカブツの保護者になってやれよ。じゃあな」
「……助かった」
 メーツェカは笑顔のまま言い去っていった。
 そして意識のないバルクの上で、助けられたことにほっと一息つくルニだった。

「ん、ああ? 何で俺は倒れてるんだ? あとなんでルニが俺に乗っかってるんだ?」
「ばか」
 気がついたバルクと悪態をつくルニ。今はそのやりとりも微笑ましい。
「思い出せねぇ。思い、だせねぇ……?」
「どうしたの?」
「いや、殺気まんまんの奴らがこっち来ていてだあああああ!!」
 ルニを抱えたまま殺気たっぷりの攻撃を避けるバルク。
「あら、意外とすばしいこいのねぇ。うっとおしいわ」
「大人しく始末されてください」
 混乱収まりつかぬこの隙に、バルクを始末しようとする陽子と芽美。
「いやいやまてまてまて! 俺は何もっ」
「ここまで暴れてそれはないでしょう?」
「大人しく死んでください」
「させない」
 対峙する四人(うちバルクだけは何が何だかわからない様子である)。
「これはこれは、危ないのぅ」
「……!」
 飛び退く陽子と芽美。
 もといた場所には『毒虫の群れ』と『しびれ粉』が充満していた。
 見やれば、刹那とアルミナが姿が。二人は、バルクとルニの救援にきていたのだ。
「邪魔をしないで」
「それはできん、依頼主から二人を助けろ、と言われているのじゃ」
「へぇ、それじゃ戦うんだ? 勝てると思う?」
「それも骨が折れる。だから、全力で」
「全力で?」
「逃げさせてもらおう。ほれホーティの、逃げるぞ」
「バルク」
「な、何が何だかわからんが逃げるぜ!」
 てだれの二人からさっさと逃げるバルクとルニ。
 向かうはホーティのいる美女コンテストだ。
 逃げる最中バルクは思った。一人だったら確実に殺されていた、と。
 仲間がいてくれて本当によかった、と。