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【裂空の弾丸】Recollection of past

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【裂空の弾丸】Recollection of past
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第1章 移動要塞への激戦 2

 相沢の小型飛空艇が大爆発を起こした、ちょうどその時――
 近くでその様子を見ていた清泉 北都(いずみ・ほくと)は呆気に取られて、その顔をぽかーんとさせていた。
 それはそうだろう。なにせあれだけ無茶な突貫戦法を繰り広げたのだから。
 味方ながら、出来れば関わり合いになりたくないと思っても、仕方なかった。
 すると――
「北都? どうしましたか?」
 そこに声をかけてきたのは、クナイ・アヤシ(くない・あやし)だった。
 北都が最も信頼するパートナーにして、恋する相手である。もちろん、クナイ自身も北都を愛している。
 愛の形は千差万別数あれど、これほど愛される自分は幸せではないかと北都は思う。
 まあ、もっとも――
「ううん、なんでもないかな……」
 それをわざわざ口に出したりは、しなかったが。
 首を振った北都に、クナイは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、すぐにそれは毅然としたものに変わった。

 ギャオオオオオォォォ!

 こちらにも、空中生物たちが接近してきたからである。
 この浮遊島周域の空において、最も素早い動きを可能とするミルバスを装着する二人は、すぐにその気配と動きを察知した。
「北都!」
「うん、わかってるよ」
 クナイの呼びかけに答える北都は、弓を構える右手をぶおんと振った。
 すると、辺りにあった魔力が輝きを発し、次の瞬間――

 ごおおおおおおおぉぉぉ!

 突如として一面に猛吹雪が吹き荒れた。
 それにはさすがの空中生物たちも驚きを隠せない。
 翼竜も、ハーピィも……そして、グリフォンに乗る機晶兵さえも、
「ヌオォッ! ナ、ナンダ、コレハ!」
 突然の天候変化に戸惑いを覚え、その場に立ち止まった。
 しかもそれだけではない。猛吹雪に見舞われたグリフォンや翼竜の翼は次々と凍りついていく。完全に翼を動かすことの出来なくなった敵は落下していき、かろうじて動ける敵も、その動きが鈍くなった。
(かかったね……)
 北都は心中でそうつぶやいた。
 そう、これは北都の罠だった。次なる攻撃の手段はすでに決まっている。
 相手の動きが鈍くなっている隙を狙って、北都はすかさず百獣拳を叩きこんだ。

 ズガガガガガガガッ!

 無数の拳の殴打が翼竜とハーピィを襲った。
 狙いはその胸にある機晶石である。空中生物たちの能力を極限まで高めていた代物だった。北都の拳によって埋め込まれた機晶石を叩き割られると――
 ぎゃおっ……ぎゃおおおぉぉ……!
 パワーを失った空中生物たちは次々に堕とされていった。
 だがもちろん、死したわけではない。空を飛ぶほどの力をなくして、落下していっただけだった。
(命を奪いたくはないからねぇ……)
 それが北都の信条だった。
 グリフォンを使った高速機動部隊も、操縦者である機晶兵がいなくなれば逃げ去るものも出てくる。
 出来るだけ空中生物たちの命は奪わずに、北都は戦力の無力化を計った。
 同時に――
「こちらもにもいることを、お忘れなきよう!」
 クナイが融合機晶石フリージングブルーをその身に宿して、部隊へと突っ込む。

 ザシュッ! ザッ! ズバァッ!

 すれ違いざまに振るった剣が、フリージングブルーの氷の力を得て、グリフォンや翼竜の翼を切り裂いた。
 切り口を凍結させられた空中生物たちが落下していく。
 さらに横で――

 ズガアアアァァン!

 同じように、融合機晶石ライトニングイエローをその身に取り込んだ北都が、雷を放つ。
 グリフォンに乗っていた機晶兵たちも、その雷に撃たれて、爆発。機能をストップさせた。

● ● ●


 ガッ! ググググ……――ザシュッ!

「おりゃああぁっ!」
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)の振るった光明剣クラウソナスが、グリフォンに乗っていた機晶兵を切り裂いた。
 剣同士による押し合いの末の、気合いの一撃である。

 ごぉんっ!

 切り口から爆発と火花を起こした機晶兵は、グリフォンから落鳥して落下する。
 それを見届ける暇もなく、なぶらは次なる敵部隊に向けて視線を動かした。
「おぉ、おぉ、次から次へと!」
 迫りくる空中生物たちの姿を見て、なぶらは驚く。
 その横で――

 ズガァンッ! ドゴォッ!

 ハイパーガントレットを装着した拳で機晶兵を貫いた木之本 瑠璃(きのもと・るり)と、覇剣ランドグリーズで翼竜を切り裂いたフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)が、なぶらのほうを向いた。
「数は明らかに向こうの方が勝ってますからね。これは総力戦になりそうですよ」
 と、フィアナが言う。瑠璃はそれに対して嬉しそうに全身を震わせた。
「フフフッ! 戦いはこうでなくては始まらないのだ! 吾輩に任せるのだ!」
 そう。困ったことに、瑠璃は戦いが大好きな守護天使だった。
 誤解のないように言えば、ヒーローに憧れていると言えば良いか。
 ともかく正義のために戦うことは瑠璃にとって素晴らしき目標なのである。
 そのために日々鍛錬を積む彼女は、こうしてその成果を発揮出来ることに興奮を覚えていた。
 なぶらがそのことに感心し、うんうんとうなずいた。
「あいかわらず瑠璃はノリノリだよなぁ。……よしっ! その気合い、無駄にはしない! 行けぇ! フィアナ! 瑠璃!」
「なに言ってるんですか、なぶら! あなたも行くんですよ!」
 ちゃっかり二人に大役を押し付けようとしたなぶらに、フィアナが怒りを露わにする。
 瑠璃が武者震いで目をキラキラさせるのと同じように、これもまた彼らのいつもの光景であった。
「わ、わかってるって。そんなに怒るなよぉ」
「どーだか。そのまま気づかなければ、私たちにやらせていたと思いますけど?」
「(ぎくぅ!?)」
 すっかり図星を突かれているなぶらであった。
「ま、まさかぁ……そんなことないって。なはははははっ」
 誤魔化すように笑うなぶら。
 それを呆れたように見て、フィアナは迫ってきた空中生物に剣を構えた。
「まあ、それはともかくとしても……戦わないといけないのは事実ですからね。二人とも、いきますよ!」
「ちょ、ちょっと待つのだ! 準備が必要なのだ!」
「準備ぃ?」
 突撃しようとしたフィアナに瑠璃がストップをかけ、なぶらが怪訝そうに声をこぼした。
「来るのだ! ソウクウオー!」
 すると、突如として、

 キラーンッ!

 空の彼方から鳥が飛んできた。
 いや、これは単なる鳥ではない!
 超テクノロジーの金属で出来たその装甲は何者にも撃ち砕くことができない。
 瑠璃が従える頼もしき相棒、超合金DXソウクウオー(という名の、ギフトを改造したもの)だった!
「蒼空合体!」
 瑠璃のかけ声とともに、ソウクウオーは変形。続けて、翼状の乗り物となった。
 瑠璃はその乗り物に乗り込むと、バババッと、妙に慣れたモーションでポーズを取った。
「空の彼方からやってきたこの蒼き空を守るもの! ストライカー瑠璃ウィズソウクウオー! 我等が魂に正義がある限り、この世に惡が飛ぶ空は無いと知るのだっ!」

 ジャキーン!(効果音)

 どこぞから鳴った効果音と一緒に、瑠璃のポーズが止まる。
(ふっ……決まったのだ……)
 本人はご満悦。だが、なぶらとフィアナはすでに戦闘モードへと移行していた。
「ほら、んなことやってないで、とっとといくぞ」
「うわわっ、待ってなのだぁ!」
 ちょっぴり羨ましそうななぶらが突き放したように言ったのを見て、瑠璃は慌ててその後を追った。
「はあああぁぁぁっ!」
「うおおおぉぉぉっ!」

 ズシャッ! ドゴォ!

 なぶらも、フィアナも、気合いの一閃で次々と敵を切り裂いていく。
 ソウクウオーに乗る瑠璃も、拳が相手をふき飛ばしていった。
 すると、ふいに瑠璃がフィアナに呼びかけた。
「そうだ! フィアナ殿、フィアナ殿、折角の機会だし、吾輩達の合体技「真・鳳凰落し」を試してみるのだっ!」
「…………ほう、あの技を試してみますか」
 瑠璃の提案に、フィアナも満更ではない笑みを浮かべた。
「おいおい、なんだよそりゃ」
 一人だけ話がわかっていないなぶらが問う。
 フィアナが不敵な笑みを崩さずに答えた。
「実は以前、なぶらが瑠璃と一緒に合体技「鳳凰落し」をやったことがあったでしょう? その時から、私たち二人でもなにか新しい技が出来ないかと、考えていたのです」
「それが、「真・鳳凰落し」! なのだ!」
 瑠璃が満面の笑みで言った。
 「鳳凰落し」とは、なぶらが瑠璃を掴んで垂直に叩き落とし、質量爆弾として瑠璃自身を叩きつける自爆技である。言わば人間爆弾を投げつけると言えばすんなり理解されるか。闘気を自在に操る瑠璃だからこそ、出来る技だった。
 なんと、「真・鳳凰落し」とは、それに更なる改良を加えた技だという!
 迫ってくる高速機動部隊を見据えて、フィアナがさっそくその準備に取りかかった。
「いきますよ、瑠璃!」
「了解なのだ!」
 準備といっても、実に単純なものである。
 フィアナが横向きに構えた大剣、覇剣ランドグリーズの刃の腹に、瑠璃が飛び乗った。

 ぐわんぐわんぐわんぐわん!

 それに、瑠璃を落とさないように回転を加える。
 ぐるぐる回って遠心力が極限まで達したとき――
「飛んでけええええぇぇぇ!!」

 ドウッ!

 フィアナが剣を振り抜き、瑠璃をぶっ飛ばした。

 シュゴオオオオオオォォォ!

 凄まじい勢いで飛んでいった瑠璃は、そこに機晶アクセラレータによる加速を加える。
 自在に操る闘気が瑠璃を包みこんだとき、その身はまるで炎のような赤いエネルギーに覆われた。
 そして――

 チュドオオオォォォン! チュドチュドチュドドドドォォォン!

 グリフォンに乗っている機晶兵たちが一直線に貫かれたとき、戦場にはいくつもの爆発が混ざり合った大爆発が起こった。
 偶然にも一列になっていた機晶兵たちを、瑠璃がまるごと破壊したのである。
 その爆発を見て、なぶらが一言。
「む、無茶苦茶だ…………」
 まさにその台詞が的確であろう。意外と常識派だったのか、なぶら!?(ひどい)
 ただ、彼のつぶやきなど聞こえぬ場所で――
「ブイなのだ!」
 黒いすすだらけになった瑠璃は、Vサインを見せつけてるのだった。