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【裂空の弾丸】Recollection of past

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【裂空の弾丸】Recollection of past
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第1章 移動要塞への激戦 5

「フハハハハハハッ! 契約者どもめ! このドクター・ハデスを出し抜こうとしても、そうはいかんぞ!」
 飛空艇の外に、けたたましい笑い声をあげる男がいる。
 その名は――ドクター・ハデス(どくたー・はです)
 彼は左右に空賊や戦闘員など100名余りの部下を引き連れ、一大隊を彷彿とさせる集団で飛空艇に進軍していた。
 そもそも契約者なのはお前も一緒じゃないか、と言いたくなるが、そこは気にしてはいけないところである。彼はあくまで自称悪の秘密結社オリュンポスの刺客として現れているのだ。台詞など便宜上のものでしかなかった。
「フハハハハハハハハハ! この悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデスから逃れられるはずもあるまい! 飛空艇を落とし、その艦に装着されているという三つの力を奪ってやる! フハハハハハハハハ! ハッ、ゴホッ! ガァッ……喉につまったぁぁ!」
 言うまでもないが、この男――バカであった。
「はわわっ! だ、大丈夫ですか! ご主人様!」
 ハデスの傍にいたヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が、甲斐甲斐しく彼の傍にひざまづく。
 彼女はドジっ子であるが、その恭しさといったら、世の男を虜にして止まないといっても過言ではないだろう。
 にもかかわらず、ハデスは、そんなヘスティアに横柄な態度を取るのだった。
「でぇい、ご主人様ではないわぁ! ハデス博士と呼ばんかぁ!」
「す、すみませんですぅ〜、ご主人……ああ、いや、ハデス博士ぇ!」
 泣きながら懇願するヘスティア。
 なぜかそれを見て、羨ましそうにしていたペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が混ざってきた。
「むむ〜! ヘスティアちゃんだけハデス先生にかまってもらってずるいですぅ〜! 先生! 私も! 私も!」
「でええぇぇい、くっつくなぁ! はなれんかぁ〜!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ〜〜〜!」
 ペルセポネはハデスに抱きつき、いまだに怒られていると思っているヘスティアは泣き続ける。
 その様子は、飛空艇のモニターにも映っているのだった。

● ● ●


「なんじゃい、こりゃ……」
 飛空艇の乗組員たちはぽかーんとする。
 目の前で妙なコントを見せつけられている気分で、ついついその手が止まってしまっていた。
 それが隙となったのだろう。
「いまだ! 全軍、攻撃を開始せよ!」
 ハデスが叫んだ途端、彼の部下である空賊や戦闘員たちが、一斉に飛空艇を攻撃してきた。

 ズガアアアァァァァンッ! ドゴオオォォォ!

「きゃあああぁぁ!」
 砲撃を受けた飛空艇ブリッジがぐらぐらと揺れる。
 ローザマリアは立ち上がり、しかし、歯がゆい思いに唇を噛んだ。
「くそっ……どうすれば……! 向こうに回すほどの人手も足りないし……!」
 そうなのである。戦闘部隊はすでに空中生物たちとの戦いに駆り出されており、圧倒的な人手不足だった。
 まさに絶体絶命。バカななりにも攻撃力は確かなハデスの軍団に、このままやられてしまうのか……!?
 と、思ったその時――

 シュン――

「応援なら来ますわよ」
 ブリッジのドアが開いて、豊満な胸を目立たせた女性が現れた。
「ユーベル!?」
 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)その人である。
 彼女は外の様子を映しだしている正面の巨大スクリーンを見つめて、妖艶な微笑を浮かべながら言った。
「――とびっきりのやつがね」
 その意味は、間もなくローザマリアたちも知ることとなった。

● ● ●


 ワアアアアアアアァァッ!

「ハ、ハデス様! て、敵の増援が!」
「なにぃっ!?」
 部下の戦闘員から受けた報告に、ドクター・ハデスは驚きを隠せなかった。
 不幸なことにそれは真実だった。ふり向くと、飛空艇とは反対側の空から、無数の人影がやって来る。
 その数は300名をゆうに越えていて、ハデスの部下の数を凌駕するほどだった。
「い、いったい何者だ……!」
 愕然とつぶやいたハデスの言葉に答えたのは、部下ではない。

 ドズウウゥッ!

「ぐあああぁぁ!」
 ハデスの部下を矢で射貫いたその相手が、ニヤリと笑って叫んだのだった。
「シャーウッドの森空賊団、参上! 待たせたわね!」
 それは空賊団を従える団長の、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)だった。
 噂には聞いたことがある。シャーウッドの森を守る空賊たちの集団がいるという噂だ。
 しかし、まさかこんなところで現れるとは……。愕然とするハデスに、さらなる追い打ちがかかったのはそのときだった。

 ズガアアアァァァンッ!

「なにっ!?」
 ハデスの指揮する飛行機晶兵部隊が、ある人物によって破られたのだ。
「オレもいるぜ! 忘れるなよ!」
 それは、空賊団の遊撃隊を指揮するフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)だった。
 レベル的にも他の空賊や機晶兵をぬきんでている者だけを集めた、精鋭部隊。フェイミィはそれを従えていた。
 もちろん、愛馬として駆るは空賊団に従うワイルドペガサスたちの長、ナハトグランツである。気性の荒いペガサスは唸りをあげ、同時に、空賊や機晶兵たちを乗せたペガサスたちが、ハデスの部隊へと突っ込んでいった。
「どわあああぁぁぁ!」
 切り込み、切り込み、さらに切り込む!
 絶え間なく突貫してくる空賊たちと、ハデスの部下たちとの攻防戦が始まった。

● ● ●


「あれは……!」
 スクリーンに映し出されている外の様子を見ながら、ローザマリアたちが驚く。
「リネンから増援をいただいたのですわ。間に合ってよかった……」
 ユーベルはほっと胸をなで下ろして、そうつぶやいた。
 そう。これらはすべて、ユーベルがリネン・エルフト(りねん・えるふと)に連絡を取って裏回ししていた策なのだった。
 移動要塞と戦いを繰り広げるなら、人材はどれだけあっても困るものではない。
 リネンと連絡を取り合ったときのことが、ユーベルの脳裏に思い出される。

『……わかったわ、ユーベル。ヘイリーとフェイミィに回ってもらう。もうしばらく、飛空艇をお願い』
『えぇ、こちらはお任せを。必ず、ベルネッサを助けだしてみせますわ』
『ありがとう。あ、それと……ユーベル。ベルネッサに一言だけ。大切なのは“自分が何者だったか”じゃなくて“今どう生きて、これから何をするか”って……。これをあなたに言うのも、恥ずかしいけどね』
 ユーベルはくすっと笑った。
 それはかつてユーベル自身がリネンに言った言葉だったのだ。
 リネンはそれを知りながら、あえて、その言葉をベルネッサに伝えて欲しいと思っていた。
『わかりましたわ。――必ず』
 最後にユーベルがそう告げて、二人の通信は切れた。

(そうですわ。あの言葉を伝えるまで、決して負けてはいられませんもの!)
 ユーベルは決然とした意思を表情にし、顔をあげた。
 通信機を手にして、ハッキリとした声音で叫ぶ。
「艦内空賊団の者たちに告げる! ダメージコントロール・チームの指揮に従い、艦内の応急処置に回れ! 急いで!」
 ダメージコントロール・チームとは、機械修理工3人をチーフにした艦内修理の応急処置専門チームだった。
 ユーベルからの命令を受けて、飛空艇に駐屯していた残りの空賊たちが奔走を開始したのだった。

● ● ●


「ぐぬぬぬ……なんということだ!」
 ハデスは自らの部下たちとシャーウッドの森空賊団が戦う様を見て、歯噛みした。
 まさかこれほどまで危機的状況に陥るとは思っていなかったのだ。
 彼の計画では、飛空艇に強襲をかけ、一気にその装備を奪って終わりになるはずだった。
 そこに現れた見事な反撃に、もはや残されている手段は数少ない。
「こうなったら――ペルセポネ、ヘスティアよ! 機晶合体をおこない、一挙に飛空艇を沈めてしまうがいい!」
 ハデスは戦況を見抜き、そのように命令を告げた。
「は、はいっ! かしこまりました、ご主人さ……いえ、ハデス博士!」
「わかりました、ハデス先生! 機晶合体です!」
 二人の機晶姫は迷いなく合体モードに突入した。

 ガシャンッ! ガシャッ……――ジャコーンッ!

 背面のウェポンコンテナからミサイルユニットを展開させ、空いた空間に体育座りするヘスティア。
 そのまま彼女は、ペルセポネの背中にドッキングした。
「機晶合体オリュンピア!」

 ジャキーン!(効果音)

 どこかの合体ロボのようにポーズを決める二人同時の一体。
 そのまま――
「ヘスティアちゃん、全ミサイル発射ですっ!」
「了解! とんでけえええぇぇぇ!」
 機晶合体オリュンピアは、無数のミサイルを発射したのだった。

● ● ●


 チュドオオオオォォンッ! ドオオオオォォンッ! ドガアアアアァァァッ!

「うああああぁぁぁっ!」
 無数のミサイルが着弾し、飛空艇のブリッジは大きく揺れた。
 コントロールを一手に担うアルマが、苦痛を感じている表情で叫ぶ。
「飛空艇破損率60%突破! 左舷砲手室、破壊されました!」
「なんですって!?」
 警報ランプによって真っ赤に染まったブリッジで、ローザマリアの悲鳴めいた声が轟いた。
 このままではマズイ。それはローザマリアでなくとも、ブリッジにいる全ての乗組員にとって明白だった。
 飛空艇は、現在の状態ではその能力の全てを発揮できていないのだ。
 つまり、シールドも、攻撃手段も、従来の半分程度の力しかない。
 本来なら耐えきれるはずのミサイルの着弾も、シールドを全展開出来ない今、驚異的な攻撃となってしまっているのだった。
 もちろん、それはなにも今すぐに飛空艇が墜ちる、というものではない。ユーベルが呼んでくれた空賊や機晶兵の応援が、ハデスの勢いを削いでいるからである。
 しかし、このまま戦っていれば、いずれ陥落するのは時間の問題だろう。
(せめて、ベルネッサがいれば……!)
 ローザマリアの脳裏に浮かぶのは、要塞に連れていかれたこの飛空艇の本来の持ち主だった。
「エネルギーシステムダウン! 飛空艇の機動力が低下していきます!」
 オペレーターのトマスが叫ぶ。
(早く……ベルネッサ……っ!)
 飛空艇はいまや、窮地に晒されていた。