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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第3章 天空の騎士 1

(これは……何なんだろう……?)
 完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)が見ていたのは、崩壊しきった天空城であった。
 辺りは火の海と化している。そこかしこで爆発が起こり、建物が瓦礫の山と化している。
 それらをもたらすのは感情というものを持たない飛行機晶兵たちだった。
 立ち向かうのは、機晶石で出来た鮮やかな剣を手にする騎士たち。
(これって――――)
 ペトラの胸に現実とそうでないものの感情が渦巻いた。
「ぐあああぁぁぁぁっ!」
「!?」
 近くにいた騎士の一人が、機晶兵の手刀に胸を貫かれた。
 ペトラは慌てて駆け寄った。
「ねっ、ねえっ! 大丈夫!?」
 しかし――
「!?」
 触れようとしたその手はすり抜けた。
 だけ、ではない。騎士はペトラの姿にはまったく気づいていないようだった。
 まるでそこに初めから誰もいないかのように。
(これは……夢……?)
 ペトラは戸惑いを隠せず、その場に立ち尽くした。
 と、そのとき、その傷ついた騎士は傷む身体でなんとか身体を持ちあげた。
「ペ……トラ……」
「え……」
 その唇が紡いだのは、なぜか自分の名前だった。
 ペトラは呆然とした。しかし、彼女はすぐに、それが自分を呼んだわけではないことに気づいた。
「ペトラ…………」
 騎士の目線は彼女の向こう側にあった。
 振り返る。するとそこにいたのは、一人の少女であった。
「………………」
(僕……?)
 顔を覆っているフードは違う。
 しかし姿形はペトラとまったく同じ少女がそこにいた。
 少女は騎士の近くにまでゆっくり歩んでくる。
 死に絶える寸前の騎士は、彼女を慈しむような目で見ていた。
「ペ……トラ……おま……えだけ……でも…………」
「…………」
 それが騎士の最後の言葉になった。
 事切れた騎士を、今のペトラではない、別のペトラはじっと見つめていた。
(この人は誰……? キミは誰なの……? 僕は……僕は、誰なのっ!?)
 ペトラは少女を見つめた。
 少女が振り返った。その目は確実に、今のペトラを捉えていた。
「――――忘れたの?」
「え?」
「こんなにたくさん、愛してくれた人がいたのに」
「し、知らない! 僕、そんなの知らないよっ!」
 ペトラはまるで現実から目を背けるように頭を振って叫んだ。
「僕は、何も知らないもんっ!」
「逃げちゃ駄目」
「えっ……」
「逃げたらなにも始まらない。みんな立ち向かってる」
 気づけば、ペトラの周りは真っ白な世界になっていた。
 天空城も、瓦礫も、飛行機晶兵も、騎士も、なにもかもなくなっている。
 白い世界に、二人のペトラだけ。
 そして一方のペトラが、じっと自分を見つめているだけ。
 フードの奥に隠れた、哀しげな目で。
「思いだして、自分を」
「キ、キミは誰なのっ!? 僕のことを知ってるの!? ぼ、僕は……一体……!」
 瞬間、白い世界は輝きに包まれ、ペトラの視界はまぶしさに覆われた。
 消えようとしているもう一人のペトラが、最後につぶやいた。
「思いだして。キミのことを。自分のことを――」
「ま、待ってっ! 教えてよ! キミは、一体……っ!」
 そして、全てが輝きに包まれて……
 ペトラは意識を失った。



「ペトラさんっ! ペトラさんっ!」
「へっ!? あ、イ、イブさんっ? あれ? 僕、なんでこんなところに……」
 イブに揺り起こされたペトラが目覚めたのは、天空城に空いた大穴の真下だった。
 きょとんとした顔をしているペトラに、イブは微笑みながら言った。
「仲間の飛空艇で城に突っ込んだは良いですが、その衝撃で気を失ってしまってたんですよ」
「そ、そうだったんだ……」
 ペトラはつぶやいて、周りをきょろきょろ見回した。
 どうやら他にもまだ意識を失ってる仲間はいるらしい。
 瓦礫の上に転がってる仲間たちを、他のメンバーが揺り起こしていた。
「僕……どれぐらい寝てたのかな……?」
「さあ、分からないが……ほんの一瞬だったと思いますよ。すぐに起こしましたからね」
「そっか……」
 ペトラにはとても長い時間眠っていたように感じられたが、それは夢だったからかもしれない。
「あれ、そういえば……」
「ん?」
「イブさん、そんなしゃべり方だったっけ?」
 ペトラはふと気づいて、首をかしげた。
 イブは自分でもようやく気づいたのか。ハッとした顔をして、それから苦そうに笑った。
「機晶石の影響でしょうね。元の記憶が呼び起こされているんだわ」
「元の記憶?」
「…………なんでもないわ。それより、早く行ってあげなさい。向こうで心配してる人もいるわよ」
「え?」
 イブが視線を動かした先にいたのは、一人の青年だった。
「ペトラっ! 無事だったか!」
「マスターっ!」
 言うまでもなく、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)である。
 ペトラは急いで彼のもとに駆けつけ、その胸に飛びこんだ。
「まったく、無茶をして……心配したよ」
「ごめんなさい。でも、無事にこうして天空城に入れたから、結果オーライだよね!」
「そうだな。とりあえず、は」
 アルクラントは微笑み、ようやく仲間たち全員が意識を取りもどしたのを見た。
「みんな無事ね!?」
 ベルネッサが呼びかける。全員がうなずいた。
「イブ、ここは?」
「ちょうど最上階に当たる部分の二階分ほど下だな。偶然とはいえ、運が良かったです」
「……なんか、しゃべり方が変よ?」
「むぅ……口調が安定せん。……気にしないで。すぐに元に戻るはずだから」
「元って……どっちの元よ」
「…………さあな。私にもわからないわ」
(…………)
 はぐらかされたような気がするが、ベルネッサはそれ以上追求しなかった。
 教えてくれる時があるなら、本人の口から聞けるだろう。
 無理強いをするつもりは、ベルネッサにはない。
「それじゃあ、早く最上階まで行きましょう! アダムを止めるのよ!」
「おうっ!」
 仲間の返答を受けて、ベルネッサたちは一斉に階段へと向かった。