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リアクション
第二章:イコン格闘大会一回戦をお送りいたします!
「さて、みなさんお待たせ! パラ実極西分校収穫祭、イコン格闘大会の第一回戦を始めるぜぇ!」
抽選会からしばしの休憩を挟んで、大会の開始が宣言された。
「ひゃっはーーーー!」
満員の観客席から元気のいい掛け声が返ってくる。皆心待ちにしていたのだ。
審判役を買って出た柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は、最初から忙しく駆けずり回っていた。
出場イコンのボディチェックから舞台の整備まで、一人で取り仕切らなければならないのだ。比較的真面目なパラ実生がボランティアで手伝ってくれているので、彼らの力にも期待したいところだった
「……」
上空からは、パートナーのアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が、イコンウィスタリアから大会を監視し審判する。
会場近くにウィスタリアが現れると日が遮られ会場に大きな影が落ちた。何しろこのイコン、全長300mの機動戦艦なのだ。イコンが戦うリングよりもはるかに大きい。
ウィスタリアは、とある遺跡の奥で建造途中で放置されていた物を桂輔とアルマで修復し完成させたという経緯を持つ。特殊なワンマンオペレーションシステムを採用しており一人でも操船が可能になっており、アルマだけで動かせるのだ。ある意味怪物級のイコンと言ってよかった。
「もうちょっと離れてよ。影で舞台が暗くなるし、観客たちにも威圧的だ」
桂輔は地上からアルマに指で指示する。
「なんですか、偉そうに。お祭りだからってはしゃぎすぎると撃ちますよ」
ちょっとムッとしながらも、アルマは素直にウィスタリアを旋回させた。大会運営に支障がなく、かつ審判が出来る場所まで遠ざかっていく。
それを見計らって、桂輔はマイクを取った。
「第一試合は、ゲシュペンスト VS 壌璽倭神遁(ジョージ・ワシントン)だぁ! 両者、舞台へ!」
対戦相手が紹介されると、会場には歓声が沸き起こった。
ジャジャジャ〜ン! と力強いBGMが流れ、スモークが炊かれる。
リングの両サイドから、二機のイコンが姿を現した。
ズズズーーーン! と巨大な地響きを立てて、規格外の影が近づいてくる。
「Heeeeeeeey!」
雄たけびを上げてリングに上がったのは、極西分校の“大統領”の異名を持つ、壌璽倭神遁(ジョージ・ワシントン)だ。
パラ実のイコンといえば、喪悲漢か離偉漸屠が普通なのだがこいつは違う。パラ実の誇る超弩級イコン『量産型饕餮』であった。
その大きさたるや、100m四方のリングに上っただけで行動範囲がほとんど無くなるほどだ。立っているだけでリングの大半を占めてしまいそうな存在感。通常サイズのイコンなどオモチャにしか見えない。その図体の大きさとパワーで押し切るつもりのようだ。
「Hello everybody! I’m President! I’m Champion! I’m awesome! Come on boy! Defeat me if you dare!」
さすがはワシントン大統領、英語だった。HAHAHA……、meを倒せるものなら倒してみな! と陽気にアピールする。
「いいぞ、ヒャッハー!」
極西分校生たちの間では、優勝候補の一角として上げられているらしい。一斉に応援が巻き起こった。
「GO! TO! HELL!」
壌璽倭神遁はどこからか引き抜いてきた太い桜の大木を手にしていた。ワシントンといえば、桜の逸話が有名なので、あやかったのだろうか。己の力を誇示するべくやすやすと大木を丸ごと捻りつぶして見せた。割り箸を折るより簡単な作業だ。
次はお前がこうなる運命だ! 壌璽倭神遁は、対戦相手にそう指差す。
「おいおい……ワシントン(?)ってお前。桜の木を折ったら謝れよ。パパも許してくれないぞ」
こりゃ、しょっぱなからイロモノが出てきたなぁ、と対戦相手の斎賀 昌毅(さいが・まさき)はゲシュペンストのコックピットで溜息をついた。LLサイズのイコンの登場に驚いたというよりも、ウザい感じでちょっとイヤだ。
「パフォーマンスはもういいよ。さっさと片付けるから、合図してくれ」
ゲシュンペストでリングに上がった昌毅は審判役の桂輔を促した。こんなところで“大統領”と遊んでいるつもりはなかった。優勝商品の米と乾燥椎茸を獲得して、空京で海鮮丼パーティーをするのだ。
デカイだけでは勝てないという現実をパラ実生たちに教えてやろう。
「オッケー! レディー、ゴー!」
桂輔の掛け声と同時にゴング代わりの銅鑼がゴーン! と打ち鳴らされた。イコン格闘大会の始まりだ。
歓声がひときわ大きくなる。
「You shall die! (死ね)」
壌璽倭神遁はいきなり『饕餮パンチ』で、力任せに殴り下ろしてきた。ボディが大きすぎて、少し動くだけでリングから踏み出しそうだ。
ドゴォォォ! 強烈な打撃がゲシュペンストの居た場所をえぐっていた。リングの石畳が砕け散り地面が揺れる。
ドドドドドドドド! 壌璽倭神遁は容赦なく続けざまに『饕餮パンチ』を繰り出した。逃げ場のないほどの打撃の嵐は、標的を木っ端微塵にするには十分だ。
ゲシュンペストは『饕餮パンチ』の残像と砂煙に包まれて見えなくなった。これは、壌璽倭神遁のクリティカルヒット連続の前に無残に破壊されたか? と観客たちは息を呑む。
桂輔もリング際でマイクを手に興奮気味だ。
「おおっとぉ! これは凄い攻撃だぁ! 勝負あったか!?」
「お祭りだしノリノリなのはいいが、勝手に勝負を決めるなよ」
ゲシュンペストは機動力を生かして『饕餮パンチ』の連打をかいくぐり、あっさりとかわしていた。飛行は場外扱いになるが、ブースターを噴かすのは問題ない。
昌毅は当初の計画通り、絶妙に距離をとりながら素手で攻撃を加え始めた。アウトボクシングの要領でコツコツとダメージを与えていく戦法だ。
「What?」
壌璽倭神遁は標的を見失ってゲシュンペストの姿を探し始めた。足元をちょこまかと動き回る敵に苛立ちの声を上げる。
「HAHAHA! パラ実生が調子に乗っちゃってるねぇ。機体の大きさに自惚れて他校に喧嘩に売りまくってると、痛くて切ない目に遭うんだぜ」
昌毅の操るゲシュンペストは、鏖殺寺院のシュメッターリンク?がベースとなっている。飛行戦が得意な機体だが、地上での戦いもこなせないわけではない。パワーだけが取り得の『量産型饕餮』が相手ならちょうどいいハンデだろう。以前鹵獲したものの、使う機会のなかった鏖殺寺院機の慣らし運転にはもってこいの機会だ。
「【スルガアーマー】装備してきました! 足元がお留守になってますよ、大統領!」
サブパイロットはパートナーのマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)だ。是非とも海鮮丼を食べたいので、こんなところで負けるつもりはなかった。静岡名産ウェポンでただひたすらに蹴るべし!
ドゴドゴドゴドゴ! といい打撃音が響き渡った。
根が正直な昌毅とマイアは、格闘大会と聞いてイコンに武装をさせて来ていなかった。銃火器も刀剣類も外してイコン裸一貫で臨んでいたのだ。
抽選会では、他校生のイコンがバリバリに武装を充実させてやってきていたのを見てちょっとビビったもんだ。今更装備を取りに戻るわけにも行かないし……ぐぬぬ、と唸っていたのだが、この相手なら殴り合いで間に合いそうだ。
「Shiiiiit!!」
壌璽倭神遁は吼えた。威力抜群の『饕餮パンチ』も当たらなければ意味がない。踏み潰してやろうにも、むやみに脚を動かすとリングから出てしまいそうだ。
壌璽倭神遁は、小刻みなダメージに半身はぐらつき、後ずさっていく。
「パラ実の雑魚に見せ場など不要だろ!」
昌毅は、スリル満点の熱戦やドラマチックな展開など繰り広げるつもりはなかった。
実のところ、本当の敵は、この後の対戦で待ち構える他校生なのだ。海鮮丼にありつくためには、トーナメントを勝ち抜かなければならない。取っておきの決め技も繰り出すことなく勝負をつけたいところだ。
「ジャンプは飛行に含まれません! ……ですよね?」
マイアの掛け声でゲシュンペストはブースターを最大出力にした。脚部への集中攻撃を食らってよろめいていた壌璽倭神遁にとどめのとび蹴りを食らわせる。
「Oh my god!」
壌璽倭神遁の巨大がグラリと傾き、ゆっくりと倒れていく。
「わあああああっ!?」「きゃーーーーー!!」
観客席から悲鳴が上がった。
ズズズ〜〜ン! 轟音を響かせてパラ実の“大統領”は転倒した。大きすぎるのも玉に傷。手をついた所が場外だった。見物していたパラ実のモヒカンたちまで巻き込んでの大惨事だ。まあ、契約者ばかりだし死人は出ないだろう。
「勝負あり! 勝者はゲシュンペスト!」
桂輔は、第一試合の決着を宣言する。歓声と拍手が沸き起こった。
「まあ、こんなもんだろ。肩慣らしにはちょうどよかったな」
ゲシュンペストは勝ち名乗りを上げて、舞台から降りる。派手な戦いではなかったが、パラ実生に現実を見せてやるには十分だった。勝つべき者は、堅実に勝つのだ。
「畜生! 俺様の“大統領”が敗れるとは!」
「次は、こうはいかねえからな!」
背後では、壌璽倭神遁から降りてきたパラ実生の操縦士たちが悔しがっている。
どうやら、本人たちは英語が全く話せず、壌璽倭神遁に搭載されていたコンピューターが喋っていたらしい。まあ、どうでもいいことだ。
「お疲れ様だな」
少し離れたところで、第二試合に出場するトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が帰ってきたゲシュンペストを出迎えた。すでに次の試合のために準備は整っている。
トマスはパワードスーツ隊、フィアーカー・バルでパラ実のイコンと戦う。勝ち上がれば、二回戦では昌毅のゲシュンペストとぶつかることになるのだ。
「君たちとの対戦を楽しみにしているぜ」
パラ実のイコンなどに遅れを取るつもりのないトマスは、不敵に笑う。
「じゃあ、俺たちはゆっくり待つとするかな」
本当の勝負はこれからだ、と昌毅も表情を引き締めた。パラ実のイコンに勝ったくらいでは優勝できない。ここからが大会の山場、それは皆同じだ。宿命のライバルのように、二人の視線がぶつかり合った。
それ以上の会話は交わさず、ゲシュンペストとフィアーカー・バルはすれ違う。絵になるシーンだった。
「ん〜、燃えますねぇ。まあ、多分」
上空から見守っていたアルマが無表情で呟いていた。
「でも、後片付けが大変です。次の試合まで30分待ちですね」
これ、今日中に決勝まで終わるのだろうか、とアルマは思った。
脚部が破損している壌璽倭神遁をワイヤーで引っ張って退場させなければならない。一部粉砕した舞台や客席の修繕も必要らしかった。運営ボランティアが総出での事後処理だった。
「では皆さん。この辺で一旦お別れです。さようなら〜」
ウィスタリアは壌璽倭神遁を引き上げ、ぶら下げたままどこかへ飛び去っていった……。
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