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【四州島記 完結編 一】戦乱の足音

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【四州島記 完結編 一】戦乱の足音

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第四章  足止め

「お待たせしました」

 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、足早に皆の席の後ろを通り過ぎると、一番奥の席に陣取った。

「おや?御上さんは来ないのですか?」

 座を見回して、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が言う。

「ええ。色々と忙しいみたいで。それで、上申書を提出した私が代わりに、この場を取り仕切る事になったの」 
「上申書なんて出したのか?」

『へぇ』という顔で、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が言った。

「セレアナは《防衛計画》のエキスパートだからね〜」

 自分の事でもないのに、何故かセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が胸を張る。
 ちなみに、重綱からのたっての希望により、セレンはここ数日、ビキニ姿を自重していた。
 重綱曰く、『士気に拘わる』らしい。

「お陰様で、西部方面軍の総参謀長にも任命されたわ。『長』っていっても、部下の参謀なんて一人もいないけど」

 セレアナは、肩をすくめて言った。

「ではこれより、軍議を始めます」
「アレ?『作戦会議』じゃないんだ?」
「重綱様たちもいらっしゃることですし、ココはひとつ、四州風に行こうかな、と」

 セレンのツッコミに、笑って応えるセレアナ。

「お気遣い、痛み入る」

 大倉 重綱(おおくら・しげつな)とその家来たちが、慇懃に頭を下げる。
 セレアナの冗談にも、全く気付いていないようだ。
 重綱は、この西湘方面軍の総大将である。

「――では、改めて。時間もないことですし、手短に」

 セレアナはその一言で座の空気を締めると、作戦計画の説明を始めた。


「西湘軍の狙いは、我が本隊が反乱軍を撃滅するよりも早く、広城に辿り着く事。そのため、この主街道を通って――セレンが、テーブルに広げられた地図を差し示す――広城へ向かうと思われます。主街道は道幅も広く整備も行き届いているため、迅速な移動が可能だからです」

 ここでセレアナは、一旦言葉を区切る。

「これに対する我軍ですが、戦力的に言って、野戦をコレで足止めするのは不可能です」   
「ゲリラ戦はどうでしょうか?」

 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が挙手する。

「それも考えたけど、太湖から広城へと続くこの地域は、東野でも随一の田園地帯。土地は既に開墾し尽くされ、隠れる場所もロクに無いわ。伏撃には、不適な土地柄なのよ」
「そうですか……」
「そこで――」

 セレアナは再び、地図上の一点を示した。
 そこには、小高い丘が双子のように二つ並んでおり、その丘の間を縫うようにして街道が走っている。
 更に、その二つの丘の外周に沿うようにして、川が二本流れている。
 つまり、街道を通るには丘の上からの攻撃を覚悟せねばならず、街道通らずに進むとなると、丘も迂回せねばならないために大回りになるばかりか、渡河中の無防備な姿を、敵に晒す事にもなる。

「この丘と丘の間に関を築き、足止めを図ります」
「そこには、儂も目をつけておった。足止めに陣を張るとなれば、そこしかあるまい」

 ウンウンと頷く重綱。彼は、東野の地理を知り尽くしている。

「関を作るって言っても、間に合うのか?敵はもう太湖を渡り始めてるんだぜ」

 酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、当然の疑問を口にする。

御神楽 舞花(みかぐら・まいか)さんの指揮の元、既に建設が始まっています。一両日中には、完成の予定です」

 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の命で、四州島に渡って数ヶ月。
 その、ほんの数ヶ月の間に、舞花は心身ともに大きく成長し、今では何人もの部下を指揮するまでになっていた。

「しかし、随分手回しがいいですね」

 小次郎が、感心したように言った。

「元々、舞花さんの発案なのよ」
「さっすが、土木屋さんの子孫♪」

 未来人である舞花の、遠い先祖に当たる現代人、御神楽 陽太と御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、カゲノ鉄道会社を経営している。セレンは、その事を言っているのだ。

「関って言っても、敵の攻撃に耐えられるつくりなのか?木造じゃ話にならん」

 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が心配そうに言った。

「その点もご心配なく。関は特殊鋼板とコンクリートを組み合わせた堅牢な作りです」
「特殊鋼板って……、そんなモンどっから持ってきたんだ?」
「御上さんが予め、日本から取り寄せておいたそうよ。内戦になるのは必死だろうと、予測していたのね」
「しかし、敵が丘のずっと手前から街道を外れて、大回りしたらどうするのじゃ?」

 重綱が、地図の上を大きく指でなぞる。

「その時は、決死の覚悟で野戦に臨むより他ありませんが……。そうならないよう、ニセの情報を流して、敵をこちらに誘導します」
「ニセの情報?」
「ハイ。『東野軍は兵も少なく、苦し紛れに関を気づいたものの、急造の粗悪品で、コレを抜くのはたやすい』と」
「《情報撹乱》は私の得意分野ですから!任せて下さい♪」

 得意気に、重綱にウィンクするセレン。 

「う、ウン。そうか。ならば、よろしく頼む」

 咳払いしながら、着座する重綱。
 わずかに、頬が赤らんでいる。

「基本、この関で敵の足止めを図りますが、敵が関に到達する以前から、夜襲など、遅滞行動は積極的に取っていきます」
「夜襲は、元々やろうと思ってたんです。私にやらせて下さい」
「俺もだ」

 小次郎と陽一が、次々と名乗りを上げる。

「わかったわ。それじゃ、詳細は後で打ち合わせましょう――どうでしょう。ここまでで、何か質問のある方はいらっしゃいますか?――では、この方針で」

 挙手の無いことを確認すると、セレアナは早々に軍議の終わりを告げた。
 皆は足早にそれぞれの持ち場へと戻っていく。
 今は、一分一秒が惜しい時なのだ。
 セレアナは早速、夜襲について打ち合わせを始めた。



『どうだ、リース?』
『いえ、敵に気づかれた様子はありません。すっかり、油断しているようです』

 彼方の敵陣を見やりながら、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)は、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)の質問に、ささやくように答えた。
 《危険感知》にも、皆にかけた《禁猟区》にも、何の反応もない。
 夜襲の成否は、敵に気づかれずに接近できるかどうかにかかっている。
 その意味では、今回の作戦は九割方成功したも同然だ。
 これから小次郎たちは、野営中の西湘軍に夜襲を仕掛けようというのである。

 戦部たちは、日が沈むとすぐに行動を開始した。
《博識》で周囲の地形を完全に把握している戦部が、一番敵の警戒の薄そうな、夜襲に最適な地点を指定し、アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)が《パスファインダー》を用いて、一行をそこまで導く。

 今彼等は、野営地を見下ろす崖の上にいた。 

『いいか。この夜襲は、あくまで敵を疲労させ、士気を低下させるのが目的だ』

 小次郎が、小声で二人に語りかける。

『だから、派手に一騒ぎしたら、すぐに撤退する。深追いはするな。敵陣を一気に駆け抜けるんだ。絶対に、振り返るんじゃない。敵陣を突破したら、例の待ち合わせ場所で待て。いいな』
『わかりましたわ』
『オッケーよ』

 リースとアンジェラの答えに頷くと、戦部は行動を開始した。

 わずかな月明かりの元、小次郎は敵陣めがけて走る。《ダークビジョン》を持つ彼には、周囲の様子が手に取るようにわかる。

(見えた――!)

 《兵は神速を尊ぶ》で、一気に加速した小次郎は、野営地の端に立つ歩哨を目視で確認すると、思い切り地面を蹴った。
【アルティマレガース】の力で、小次郎の身体が大きく宙を舞う。

 小次郎はその姿勢のまま【グレネードランチャー】を構えると、敵陣の中央目がけて一射目を見舞った。
 たちまち辺りが、爆音と土煙と、火薬の燃える独特の匂いに包まれる。
 そのまま、《五月雨撃ち》にグレネードを見舞う小次郎。

 
 混乱した敵陣に、遅れてリースとアンジェラが突入する。 

「ほらほらっ!ボーッとしてると死ぬよ!」

 ようやく夜襲に気づいたものの、未だ戦闘態勢の取れない敵兵を、《なぎ払い》や《アナイアレーション》を組み合わせた、アンジェラの【梟雄剣ヴァルザドーン】が襲う。
 彼女が一太刀振るうたび、何人、何十人の命が失われていく。

「召喚獣よ!我が求めに応じ、姿を現せ!」

 リースのつぶやきと共に姿を現す、【不滅兵団】【サンダーバード】【フェニックス】の3種の召喚獣たち。

「かかれ!」

 号令一下、敵兵に襲いかかる召喚獣。
 敵軍は、混乱の度を増す一方だ。

「あの女だ!あいつが召喚獣を操っているぞ!」

 リースに気づいた幾人かの兵が、彼女に殺到する。
 だが、彼等がリースの身体を槍にかけるよりも早く、その身体は逆巻く炎に包まれた。
 悲鳴を上げる暇すら無く、絶命する敵兵。

「丸腰の女であれば、簡単に始末出来るとでも思いましたか?愚かな……」

 リースは、《ファイアストーム》で消し炭になった敵兵に、嘲るようにそう言うと、【ベルフラマント】で気配を消す。
 リースはその後も、敵兵に気付かれぬよう巧みに立ち回りながら、召喚獣を暴れさせ続けた。
 

(そろそろ、潮時だな……)

 上空を滑空する小次郎は、もうもうと土煙に包まれる敵陣から、何機かの飛空艇が姿を現したのを確認すると、一気に高度を落として着地した。
 そして、ケータイでリースとアンジェラに連絡を取る。

「私はもう、敵陣の端まで来ておりますわ。後は召喚獣を喚び戻すだけです」
「こっちも、いつでも抜けられるよ!」
「よし、撤退だ!」

 小次郎は【ベルフラマント】で気配を消すと、素早い動きで戦場を離脱した。 


 この日の夜襲は、大成功に終わった。
 しかし、夜襲がこれ程の戦果を上げたのは、後にも先にもこの日だけだった。
 その後も、小次郎や酒杜 陽一(さかもり・よういち)たちが代わる代わる夜襲を仕掛けたが、敵陣に辿り着く前に敵に発見されてしまう事が度々あった。また、運良く夜襲を仕掛けることが出来ても、敵軍は十分な防御を整えていて、大した効果を上げる事が出来なかった。

 
「単に、敵が警備を厳重にしているというだけじゃない。恐らく敵軍の契約者が、何か探知系の術を使っているんだろう」
「俺も、そう思う。それ以外に、失敗する理由が思い浮かばない」

 敬一と陽一は渋い顔で、大倉 重綱(おおくら・しげつな)や仲間たちにそう報告した。

「それでも、敵に緊張を強いているのは間違いない。敵を疲労させるという目的は、達せられているはずじゃ」

 二人をいたわっての重綱の言葉にも、二人は不満の色を隠さなかった。



 その数日後――。

 西湘軍はついに、関を臨む地点に辿り着いた。
 関はその2日前には完成しており、その地形から「二岡関(におかぜき)」と名付けられた。
 二つの丘には、名前がなかった為である。

 西湘軍は、関と正面から向かい合うように、布陣した。

 中央奥が、本陣である。
 その布陣からは、兵力にモノを言わせて一気に関を落としてしまおうという、強い意志が感じられた。


「お疲れ様、エリシア。どうだった、敵の様子は?」

 セレアナ・ミアキスが、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に訊ねた。
 彼女はたった今、敵軍を偵察してきたばかりだった。
 【光学モザイク】で姿を隠した上で、【アクロバットウィング】で一気に敵陣まで到達。
 さらに《隠形の術》を使って敵陣に潜入し、《エセンシャルリーディング》で敵軍の状況を分析して来たのである。

 既に重綱や他の仲間たちも軍議の準備を整え、彼女の報告を今か今かと待ち受けている。

「なんだかんだ言っても、夜襲はそれなりの効果があったようですわ」

 エリシアは、疲れ一つ見せずに答えた。

「兵たちには、少なからぬ疲労の色が見えましたわ。ですが、多勢と言うコトから士気は高いです。もっとも、その半分くらいはニセ情報を信じているせいでしょうけれど」
「敵が総攻撃の構えを見せているのは、それが理由ね。疲れている兵の士気は、長持ちしないから」

 セレアナが、報告を分析する。

「敵の本陣はどうでしたか?」

 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が訊ねた。

「本陣の周辺は警備が厳重で、総大将のいる所まで近づけませんでしたわ。単に人が多いだけではなく、複数の契約者が警戒に当っているようでした」

「そうか……」

 そういったきり、唯斗は黙りこんでしまう。

「申し上げますっ!」

 軍議の場に、伝令が駆け込んできた。

「敵軍が、攻撃を開始しました!」

 その声に呼応するように、皆の耳に、ライフルの連続した射撃音が飛び込んでくる。

「ついに来たな!」
「よっし、出番か!」

 酒杜 陽一(さかもり・よういち)レン・オズワルド(れん・おずわるど)が、待ってましたとばかりに立ち上がる。

「みなさん、くれぐれも無理はなさらずに。この戦いはあくまで時間稼ぎ。本当の戦いは、雄信様の本隊が到着した後なのですから。特に重綱様の軍には、これが初陣という方も多いと聞きます。生き残る事を第一に、心掛けて下さい」

「心得た」

 セレアナの言葉に、重綱と家来たちは頭を下げた。



 今しも戦が始まろうとしている、その戦場の遙か上。
 空の上から、彼等の戦いをまじまじと見つめている、一人の少女がいた。
 少女は、その目を黒い目隠しで覆っているにもかかわらず、眼下で起こっているコトの全てが見えているかのように、あっちに目をやり、こっちに目をやりしては、クスクスと笑っていた。
 彼女の名は、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)
 『世界の傍観者』を自称する彼女は、ただ両軍の戦いを見守るためだけに、はるばるパラミタから、この小島へとやって来たのである。

「さぁ皆様……。皆様の大切なモノのため、己の命を掛けて、戦って下さいな」

 綾瀬は、戦場に立つ戦士一人ひとりに語りかけるように言った。

「そして、私が決して退屈する事の無い、素晴らしい物語を紡いで下さいませ」

 口元に微笑みを浮かべながら、誰に言うでもなく、呟いた。


「そこのあなた。そこで、一体何をしてらっしゃるの?」

 突然の誰何(すいか)の声に、振り返る綾瀬。
 そこには、背中の【アクロバットウイング】を羽ばたかせながら彼女を見つめている、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の姿があった。

「何って……。これから起こる戦いを観ようと、ワクワクしながら待っている所ですわ」
「つまり、文字通り『高みの見物』という訳?」

 エリシアは、綾瀬の事を、咎めるような目で見つめている。

「そうですわ。……それが何か?」

 不思議そうに小首をかしげる綾瀬。

「確かに、嘘はついていないようですわね。あまり、いい趣味とは言えないと思いますけど」

 《エセンシャルリーディング》で、綾瀬の言葉に嘘の無い事を確かめたエリシアが、軽くため息を吐く。

「そうですか?私は、これ以上ない優雅な趣味だと思うのですけれど」

 綾瀬は、心底不思議そうだ。

「……まぁいいですわ。くれぐれも、戦場に近づき過ぎないようにして下さいね。間違って、攻撃してしまうかもしれませんから」

 エリシアは、それだけを言った。

「ええ。その辺りは心得ておりますので、ご心配なく」

 ニッコリ笑って応える綾瀬。

「あ!エリシア様、そろそろ戦が始まるようですわよ!」

 ゆっくりと動き出した西湘軍を指差して、嬉しそうに言う綾瀬。

「大変!もう戻らなくては!」
「エリシア様もご活躍、期待しておりますわ」
「私は、舞花様と仲間のために力を尽くすだけですわ。それでは――」

 エリシアは、淡々とそう答えると、戦場へ向け急降下して行った。



「なんだって!プリンが無いだと!?」

 魔王 ベリアル(まおう・べりある)の驚きの声が店内に響く。

「は、はい。当店には、『ぷりん』はおいてございません」

 応対する店員は、取り敢えずベリアルにそう返答を返しながら、『何事?』という顔で二人の方を見る他の客に、ペコペコと頭を下げている。
 
「何故プリンが無いのだ!ここは甘味処だろう!」
「は、はい。確かに仰るとおり当店は甘味処にございますが、ですが、なにぶん『ぷりん』などという名前は、初めて耳にするモノでして……。もしや、異国のお菓子か何かで……」
「そんな、ドコの国のモノかなどどうでも良い!プリンはプリンだよ!薄い黄色で、こう――山の様な形をしていて、ふるふると震えて、口に入れたら噛むまでもなくトロけてしまう、甘〜い食べ物だよ!」
「やはり……当店にはございませぬ。いやそれどころか、四州のドコを探しても、そんな食べ物は無いかと……」
「なん……だと……」

 あまりのショックに、がっくりと地面に膝をつくベリアル。
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)のお供で四州島に来たはいいものの、そもそも目的も無く来たものだし、綾瀬はさっさと一人で何処かに行ってしまうしで、

(取り敢えずこれから何をするか、プリンでも食べながら考えよう)

 と手近な甘味処に入ったのだが――。

「ま、まさか……。この世の中にプリンの無い甘味処があるなんて……」
「だ、大丈夫ですか、お客様?」

 俯いたままフルフルと肩を震わせているベリアルを心配して、店員が声をかける。

「ふ、フフフ……。フフフフフフ……」
「お、お客様!?」

 不穏な笑い声をあげながら、ゆらり、と立ち上がったベリアルのただならぬ雰囲気に、店員が思わず後退る。

「そうか……。そういう事か……。わかった、わかったぞぉ……」
「お、お客様?ようやく当店に『ぷりん』が無いことが、わかって頂けましたか?」
「ちがーーう!」
「ひ、ヒィィ!す、スミマセン!!」

 訳も分からず怒鳴りつけられ、平謝りに謝る店員。
 もはや、涙目になっている。

「お前、調理場を貸せ!」
「は?ちょ、調理場――でございますか?」
「そうだ、調理場だ!この僕がプリンが作って、お前たちに食べさせてやる――いや、食べろ!
「は、ハイッ!」 

 いきなり胸倉を掴まれてスゴまれた店員は、反射的に返事を返す。

「そして崇め奉れ、甘美なるプリンの虜になれ!この僕が、四州に住まう人間全てをプリンの虜にしてやる!」

 プリンの神の啓示が降りたか、はたまた単なる思いつきか。
 ともかくベリアルは、壮大な野望を胸に、調理場へと向かった。

 しかし、ベリアルのこの野望はこの後、『四州島には電気が普及しておらず、従って電気冷蔵庫も普及していない』という厳しい現実に直面するコトになるのだった。