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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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――死体の転がる廊下に、数体のマガツヒがいた。
 何かを探しているようにも見えるが、その姿は亡霊の如く彷徨っているという表現が的確だろう。
 ゆらりと身体を揺らしながら、廊下を通り過ぎていく。転がる死体等には眼もくれずに。

「……行ったみたいだな」
 マガツヒが通り過ぎ、死体の一つ――メルキアデスが身体を起こす。
「おい、大丈夫みたいだぞ」
 メルキアデスの言葉をきっかけに、転がっていた死体――詩穂、さゆみにアデリーヌ、天泣にラヴィーナにムハリーリヤ、吹雪にコルセアといった面々が身体を起こす。
 メルキアデスを始め、全員が血にまみれた姿であるが、実際に怪我をしたさゆみとアデリーヌを除きそれは自身の血液ではない。転がっている本物の死体の血液である。

――メルキアデスを除いた者達は皆、見つかって追われていたのだ。その途中メルキアデスに会い、死体のふりをするという事で逃げ切ったのである。
 メルキアデスは監房で隠れる場所がないと判断すると、あちこちに転がっている死体を集め、所々に散らす様に配置した。
 そしてある程度配置をした後、死体の血を手に取り自身に塗りたくる。後は混じって横たわるだけである。
 死体は看守だけでなく囚人の物もある。上手く死体に紛争する事が出来、更にマガツヒ達は大して死体に興味は持たないようで、何とかやり過ごす事が出来ていた。
 いざという時には看守から拝借した警棒を使うつもりであったが、その様な状況にならなかったことに内心ほっとしていた。
 連絡が来るまでの間、メルキアデスはこのまま隠れ通すつもりでいたが、時折通りかかった追われている者達を見つけると呼び込み、血を塗らせ死体のふりをさせていたのである。

「ふぅ……あの時はどうなるかと思いました」
 詩穂が安堵の息を吐く。
 ロッカーに隠れていた詩穂であったが、そこにマガツヒが現れたのである。
 実は部屋に駆け込む姿を、詩穂はマガツヒに見られていたのである。
 だが入ってみても詩穂の姿を見つけられなかったマガツヒは、何とロッカーに片っ端から噛みつき出したのである。
 一度噛みつくだけで抉られるロッカー。その様子を中から見ていた詩穂は、中にいる事は危険と判断。隙を見て飛び出したのであるが、見つからないわけがない。そのまま追われる羽目になったのである。

「うぅ、くさいよぉ……汚いよぉ……リーリちゃんお風呂入りたい……」
 血とゴミに塗れ、半べそをかくムハリーリヤを「もう少し我慢してください」と天泣が宥める。
「でも、流石にこれはキツイね」
 ラヴィーナが苦笑する。鉄の様な血液の臭いと、ゴミの異臭が混ざり合い異臭となって嗅覚を襲っている。
「……そういや聞かなかったけど何でゴミにまみれてたんだ?」
 事情を知らないメルキアデスが眉を顰める。それに対し「色々あったんですよ」「そうそう、色々とね」と天泣とラヴィーナが苦笑する。
 ゴミ捨て場に隠れようとした天泣達であったが、運の悪い事にゴミ捨て場を徘徊していたマガツヒが居たのである。
 ばったりと鉢合わせてしまい、慌ててラヴィーナが拾った紙ごみに火を点け、投げつける。
 それ自体には全く効果は無かった。だが、偶然にも点火したゴミの着地点に引火物があったようで、凄まじい勢いでゴミに火が回り、更に危険物も混じっていたのか爆発したのである。
 飛び散るゴミを浴びつつ、天泣達はマガツヒが爆発に気を取られている事に気付き、そのまま逃げだしたのである。
 
「まあ、いいけどな。ダンボールが走ってきたなんていう超珍しい例もあったし」
 メルキアデスがちらりと目を横に向けると、そこには「相棒が真っ赤になってしまったでありますぅ!」とダンボールに血が付き嘆いている吹雪と「だから騒ぐなって言ってるでしょうが!」と後頭部を殴りはっ倒すコルセアが居た。
 吹雪とコルセアはダンボールを手に入れ、浮かれている時(浮かれていたのは吹雪だけだが)にマガツヒに襲われたのである。

 背後から忍び寄る白い影――マガツヒ。口を開き、鋸の刃のような歯を見せる。
「ん? 何か嫌な予感……ッ!?」
 コルセアが背後を振り返り、目に入った時マガツヒは二人に食らいつかんと大口を開けて飛び掛かっていた。
 咄嗟に「ひゃあッ!?」と悲鳴を上げ、屈むコルセア。その頭上を跳び越し、マガツヒは吹雪に食らいついた。
「ちょ――え?」
 確かにコルセアの目には吹雪の身体にマガツヒが食らいついたように見えた。だが、改めてみるとマガツヒが食らいついているのはダンボールであった。
「何をしているでありますかコルセア! 奴がダンボールを食っている間に早く逃げるでありますよ!」
 振り返ると、ダンボールを被っており足しか見えないが恐らく(というより間違いなく)吹雪がいた。
 ハッと気づいたコルセアは立ち上がるや否や、駆け出す。
「ところでなんでアンタ無事なの?」
 走りながら、確かに食らいついた姿を見たはずだというのに無事な吹雪に対してコルセアは疑問をぶつける。
「残念だったな、トリックであります」
 勝ち誇ったように吹雪が言う。ダンボールで見えないが恐らくドヤ顔だろう、『ドヤァ……』という擬音がつくくらい。
 実際は咄嗟に【空蝉の術】を使いダンボールを食わせただけである。
「ふっ、やはりダンボールは至高であります。奴もダンボールの味に魅了されたに違いないであります。中華まんの具にもなるダンボールでありますからな、今頃夢中になってムシャムシャと」
「してるわけないじゃない! 追って来てるわよ!」
「カモフラージュが足りないのです! コルセアもダンボールを被るであります!」
「被るかぁッ!」
 そんな追われている状況の中、メルキアデスに助けられたのであった。

「とりあえず奴らは離れたみたいだ……さっきの通信、聞いたよな?」
 メルキアデスの言葉に、全員が頷く。ナオシの仲間がエレベーターを動かしたという連絡である。
「いつまでもここで死体のふりしてるわけにもいかねぇからな。この隙にさっさと向かおうぜ……動けるか?」
 メルキアデスがさゆみとアデリーヌに声をかける。「何とか」とアデリーヌが笑みを作るが、痛みからか引き攣ってうまく作れていない。だがさゆみを支えながら、覚束無い足取りであるものの移動することに問題は無さそうである。
「何とか歩けそうだな……見つかる前に行くぞ」
 そう言ってメルキアデスが先頭に立ち、エレベーター前まで向かうのであった。