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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

リアクション

「なあなあっ、キミ、今一人? 良かったら俺と一杯飲まない?」
 ショートの銀髪に縁取られた童顔を、ヤンチャにほころばせて、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は両手に持ったグラスを掲げて見せた。
 対する遠野 歌菜(とおの・かな)は、座椅子に座り、テーブルに頬杖をついたまま、狩人のまなざしで、鋭くウィルネストを見定める。足元から、頭のてっぺんまで。そうして最後に、奔放そうな顔へ視線を固定すると、ぱっと、おもちゃを見つけた猫のように微笑んだ。
「やっと見つけた!」
 だんっ、と勢いつけて立ち上がり、歌菜はウィルネストの腕をがっとつかんだ。グラスに満たされた、真っ赤なノン・アルコールカクテルが、ぱしゃっと跳ねる。
「キミも、恋人探しにここへ来たの?」
 ウィルネストの腕をつかんだまま、歌菜が詰め寄るように聞いた。
「あ、ああ。俺はイルミンスールのウィルネスト。きみは?」
「あ、あたしもイルミンスールだよ。遠野歌菜、よろしくね。いやあ、あたしもここに恋人探しに来たんだけどさあ、なんかみんなぴりぴりしちゃって、声かけづらいのなんのって……。だからここで、キミみたいにガツガツ声かけてくる王子様を待ってたんだー」
「そうなのか? んじゃ、良ければ俺と……」
「おっと、これはこれは、かわいらしいカップルの誕生ですね」
 妙な巻き舌の発音で、エドワード・ショウ(えどわーど・しょう)が二人の間に割って入った。
 ラメのぎらっぎら入ったスーツに、明らかに欧州系の顔立ち、まぶしいほどの金髪。純和風の料亭にあっては、むしろもう地球を一週回って「ありなんじゃないか」と思わせるほどド派手なショウを、ウィルネストと歌菜は呆然として見上げていた。
「あ……あんた何者? てか、何事?」
 呆けた声で聞いたウィルネストに、ショウはさらりと答える。
「私、トマス・エドワード・ショウといいます。普段は記者などしているのですが、ぜひ小さなコラムにでも載せてしまいたいほどの、初々しい春の訪れに惹かれて、ついお二人の仲を邪魔してしまいました」
「はあ、あの、コラムは勘弁してくれ」
 たじろいだように言ったウィルネストの横で、いまだ呆然と、歌菜がショウを見上げている。見開かれた青い瞳の中で、ラメがきらきら瞬いていた。
「すっげえ、サタデーナイトフィーバーって感じ……」
 ぽつり、歌菜はつぶやいた。
「ねえ、ショウさん。えとえと、おしゃれのセンス、超ズレてますね!」
「……え?」
 ぴきっ、とショウの笑顔が固まった。
 けれど、なにやら妙に勢いに乗っているらしい歌菜は、凍りついた空気を気にせず言葉を続ける。
「ショウさん、白馬に乗ったりします!?」
「は? え、ええ。そうですね、乗馬は英国紳士のたしなみです」
「おい、遠野? なんかおかしいぞ?」
 ウィルネストが制止をかけても、歌菜の瞳にはラメが瞬いたままだ。
「そうか、そうよね……これっくらいセンスのズレている人じゃなきゃ、いまどき白馬になんて乗らないわ……ああ、白馬の王子様、バカらしくも、なんて素敵な響き……」
「あの、お嬢さん?」
 長身をかがめて、顔を覗き込んできたショウを、歌菜はがっと掴んだ。
「キープ!」
「……はい?」
「エントリーナンバー2番! ショウさん、白馬の王子様候補です!」
 右手にウィルネスト、左手にショウを捕まえて、歌菜は会場を歩き始めた。
「おい、キープって……まさか俺も?」
 ウィルネストが恐る恐る聞いて、
「だって合コンじゃん! こう、もうちょっと、恋愛に積極的な男女をたくさんあつめて、みんなでわいわい騒いでだねぇ……」
「……そん中で一番いいのを、おまえがゲットするわけか?」
「さあ! 恋人募集中の学生はおらんかねー?」
「うわ、無視しやがったこいつ! ええい、俺は納得してねえぞー!」
 叫びつつも、両手にグラスを持っているせいで、暴れることさえままならないウィルネストであった。

 ※

「桜井静香は不参加……だと……?」
 片付けられた立体映像再生装置の前で、葛葉 翔(くずのは・しょう)はがっくりとひざを着いた。
「く……くそ、俺の逆玉の輿計画が、こうもしょっぱなから躓くだなんて……」
 うなだれた頭からこぼれるショートの黒髪が、端正な顔立ちを覆い隠す。
 ふるふると絶望に震える肩を、ぽん、と叩く手があった。
「キミ、キミ、絶望するのはまだ早いよ。この灯梨さんが、恋に敗れたキミの救世主になってあげよう」
 はっと振り返った翔に、小日向 灯梨(こひなた・あかり)はとがった八重歯を覗かせてにこっと笑った。
「救世主……?」
「そうさ。なにせあたしは生粋のラブ・キューピット。カップルを作ることにかけちゃパラミタ一と噂されたりされなかったりするくらいの腕前なのさ」
「それは……本当か。いや、本当ですか!?」
「そりゃもう、鋼鉄の船に乗ったつもりでいなさい!」
「灯梨さん! 鋼鉄の船は沈みま」
「さて! じゃあ、あのあたりのグループに混ざってみようか! イルミンスールの遠野歌菜たちの集まりさ。この会場じゃ、一等ラブのにおいがする連中だよ!」
 翔のツッコミを軽くスルーして、歩きだそうとした灯梨。けれど、その場に立ち止まったままの翔に気づいて、ふと首をかしげた。
「どうしたの? ええと」
「あ、俺、翔です。葛葉翔。いや、あのね」
 葛葉の熱い視線の先には、幾人かの取り巻きに囲まれた高原瀬蓮の姿があった。
「高原瀬蓮も、結構お金持ちなんだろうなーと」
「いやあ、葛葉君。今回、百合女はやめといたほうがいいと思うけどねー」
 ぽりぽり、こめかみを掻いて、灯梨はあいまいに言った。
「高原瀬蓮のお見合いの件で、百合女はみんなぴりぴりしてるよ。【白百合団】はもちろんだし、ほかの一般生徒も……ね?」
「……そうですか」
 ふっとうなだれた翔の手首を、灯梨が不器用に、きゅっとつかんで引いた。
「葛葉君、チャンスはきっとまたあるさ。恋愛は、一度や二度の失敗で諦めちゃあ、もったいないよ」

 ※

「お! 灯梨ちゃん、カッコイイ子連れてきたね! 彼氏?」
 翔の手を引いてやってきた灯梨を見て、歌菜がハイテンションに言った。
「まさか。あたしは人の恋路を求めてさまようエグザイルだよ。この人は葛葉翔君、不純な恋愛に敗れたラブ・ローバーさ」
「ふ、不純な恋愛とか言わないでくださいよ」
「えー、だって逆タマ狙いでしょ?」
 ねー、と灯梨は無邪気に笑った。
「さて、これで五人か。んじゃあ、そろそろ合コンらしいことができるってモンだね!」
 ぱん、とひとつ手を打ち鳴らすと、歌菜は手近なテーブルから割り箸を五本引き抜いた。そのうち一本を、ウィルネストが持ってきたカクテルにちょんとつけて、先っぽを赤く染める。
 ほかの四本には、懐から取り出したマジックで、1〜4まで数字を振った。
 歌菜は、それらを先っぽが見えないようにぎゅっと握りこむと、すっと差し出す。
「さあ、みんな知っているだろうね。合コンの定番にして最大の戦い。王様ゲームさ」
 ごくり、と、歌菜以外の四人がつばを飲み込んだ。
「赤いしるしのついた割り箸を引いた人が、この合コンで絶対王政をふるえるってわけ。周りはそれに、絶対服従!」
「……なんでも、だな」
 ウィルネストが、歌菜をじろりと睨みながら、噛んで含めるように問うた。
「もちろん」
「じゃあ、俺が王様になったら、このミニ合コンを今すぐ解散して、おまえと二人きりで話しても?」
「もちろん」
 不敵に笑って、歌菜は頷いた。灯梨がぱあっと顔を輝かせて、歌菜とウィルネストの顔を見比べる。
「王様ゲーム、ですか。はじめて聞きました。私が最初に引いてもよろしいですか?」
 すっと手を伸ばして、ショウが割り箸を抜き取った。続いて、灯梨と翔も割り箸を引き、三人とも、ハズレ、と小さくつぶやく。
 歌菜の手元に残った割り箸は二本。手を伸ばすは、ウィルネスト。
「覚悟しやがれ」
「残り物には福があるって、知ってるかい?」
 鋭い視線と不敵な笑みが、火花を散らす。伸ばされたウィルネストの手が割り箸をつかみ……。
 1、と書かれた割り箸が、ウィルネストに引き抜かれた。
「チクショ―――!」
 がくっ、と崩れ落ちる。あっははははは、と歌菜が高らかに笑って、自分の手元に残った赤い割り箸を剣のように掲げた。
「私がキングだー!」
 うなだれたウィルネストを尻目に、ひとしきり高笑いをしてから、歌菜は赤い割り箸をがじっとかじって、四人を見渡した。
「ではキングの指令……名指しはつまんないから、2番と3番がキスしてください!」
 びくっ、と、灯梨がばね仕掛けのように飛び上がった。翔が、手の中にある割り箸を掲げてみせる。
「あ、俺2番だけど、3番は……えっと」
 顔を真っ赤にして、ふるふる震えている灯梨の割り箸を、翔は覗き込もうとして、
「だめっ……!」
 灯梨は割り箸をぼきりとへし折って、手の中に隠した。その代わりに、と、ショウが自分の割り箸をまわりに見せる。4番だった。
「あー、その、ラブ・キューピットさん?」
「いや、いやいやいや。あたしはその、キューピットであってね、決して恋愛当事者じゃなくって、だからその、キスとかは、ちょっと」
「ほほう、このキング遠野に逆らうと申すか?」
「う、う、う……」
 二の句の告げなくなった灯梨の肩に、翔がぽんと手を置いた。
「なあ、嫌がってるんだしさ、俺が罰ゲームでもするから、それで勘弁……」
「翔クーン? べそかいた女の子に迫って、何やってるんですかー?」
 ふーふーふー、という笑い声とともに、人ごみから姿を現したのは、ぶかぶかのプレート・アーマーに身を包んだアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)だった。
「うおわ!? アリア!? なぜここに!」
「翔クン言いましたよね。百合女の生徒で逆タマ狙うって」
「あ、いや、その……」
「なのに、その子はどう見ても蒼空学園の生徒さんじゃないですか! 逆タマはどうしたんですか!? お金なんてどうでも良くなっちゃうくらい、その子のことが好きになったんですか!?」
「ちょ、言ってることおかしいぞ! 逆タマならいいのか!? いや、そうじゃなくって、やめろ、ヒカリモノを抜くのは待てー!」
 真っ赤になってへたり込んだままの灯梨と、アリアに追い回される翔、それを、微笑みながら眺めているショウ。
 そんな光景をしばし眺めてから、歌菜はもう一度、がじっと割り箸を噛んで、ウィルネストの横にしゃがみこんだ。
「思わぬ伏兵がやってきちゃった。王様の指令はやり直しだね」
 勝手にしろ、とウィルネストは短く言った。
「じゃあ、1番さん。王様にチューしなさい」
 ふと、顔を上げたウィルネストに、歌菜はふっと微笑んで見せた。