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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

リアクション

 あっさりした湯豆腐を口に運びながら、百鬼 那由多(なきり・なゆた)は、傍らにいる魔女のほうをちら、ちらと見ていた。
 その魔女、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、ハンバーガーにフライドポテト、フライドチキンなど、身体に悪そうなジャンクフードばかりを選んで取っては、おいしそうに口に運んでいる。
「……あの、そこのちびっこさん」
 見かねたように黒髪を振って、那由多はミーナに声をかけた。ウエイブのかかった茶色いショートカットを揺らして、意志の強そうなつり目の魔女が、那由多の赤い瞳を見返す。
「うむむ?」
 口いっぱいにハンバーガーを頬張ったまま、ミーナは首を傾げて見せた。
「あのさ、君、いくら魔女だからって、そんなにジャンクフードばっかり食べたら早死にしますよ?」
「もぐ、もぐ、ごくん。んん、葉月みたいなこと言う人だね。べっつにワタシは、魔女としては短命でもいいんだよ」
 ポテトにかじりついて、ミーナは微笑んだ。
「君は長生きしたくないの?」
「いいのいいの、葉月が死ぬまで生きてればいいんだもん。あんたは? えーっと」
「ああ、百鬼那由多です。うん、私は長生きしたいよ。120歳まで生きるのが夢だし」
「へぇ、変な夢だね」
 塩と油のついた手をなめながら、ミーナはくすくすと笑った。那由多もつられて微笑む。
「失礼な人だなぁ。……と、そういえば、葉月ってのは君のパートナー?」
「うんー。さっきまでその辺に……あれ?」
 きょろきょろ、とミーナは辺りを見回すと、片手にフライドチキンを握ったまま、青ざめた顔で那由多を見た。
「百鬼那由多! どうしよう! 葉月が迷子だ!」
「あー、そっか……じゃあ私たちと一緒に探しましょうか……あれ?」
 那由多も、湯豆腐の入った鉢を持ったまま、辺りをきょろきょろと見回した。
「アティナがいない?」

 ※

 涼しい風の吹き抜ける渡り廊下を、アティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)は早足に歩いていた。
「まったく、合コンって割にはたいした出会いもなくて、がっかりですわ。空気はぴりぴりしているし、那由多はお料理ばかり食べているし!」
 ふん、と鼻を鳴らして早足に歩いていたせいか、アティナは角を曲がってきた人影に気づけなかった。
 どんっ。と思い切りぶつかり、しりもちをつきかけたアティナを、
「おっと、済まない」
 菅野 葉月(すがの・はづき)が、ぱっと手を伸ばして支えた。
「いっつつ……ちょっと、どこ見て歩いてらっしゃるの!?」
 アティナは葉月をきっと睨みつけて……その知的で端正な顔立ちに息を呑んだ。
「ごめんなさい、ちょっと僕も、上の空で歩いていて……」
「あなた、お名前は?」
「へ? ええと、菅野葉月、です」
「葉月さん、ね。見るからにしっかりした殿方。ここに来た甲斐はありましたわ……」
 アティナは抱きとめられた格好のまま、葉月の手をぎゅっと握った。
「葉月さん、あなた、彼女はいらっしゃいます? もしいなければ、私のパートナーで那由多って言う女の子がいるのだけれど……」
「あ、あの……」
 たじろいだように、葉月は苦笑した。
「ぜひパートナーさんの彼氏に、って思ってくれたのはうれしいんですが、その、僕、女なので……」
「へ?」
 アティナは、きょとん、と首をかしげた。
 そんなアティナの足元に、
 ごろん、と、スプレー缶のようなものが転がってくる。
「へ?」
 葉月とアティナが、そろってそれを呆然と眺めて、
 ばしゅうっ、という音とともに、大量の催涙ガスが噴出した。

 ※

「だーかーらぁ、料亭の中に武器は持ち込めないんですってば!」
 女性としては圧倒的に高い身長、それに大きな胸とお尻を、ぴちぴちの制服で包んだ志方 綾乃(しかた・あやの)が、料亭の玄関前で叫んだ。
「だから! 護衛のためだって言ってるだろ! このわからずやの重戦車!」
 頭ひとつ分高い綾乃の顔を、迫力に欠ける童顔できっと睨みつつ、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)も怒鳴り返す。
「じゅっ、重戦車はやめてください! こっ、このお、ちち、ちび!」
「言ったな!」
 姉弟ゲンカのような二人を薄く笑って眺めつつ、シャローン・レッドアイ(しゃろーん・れっどあい)は、揺れる空気に耳を澄ましていた。
 たくさんの、獣のうなりのような低い振動が、料亭に向かって近づいてきている。
 やがて、ぱぱぱっときらめく、百はあろうかという大型バイクのヘッドライトが、料亭の玄関からでも見えるようになったころ、シャローンはやっと、綾乃とレイディスのケンカにストップをかけた。
「綾乃。それに、レイディス坊や。新しいお客さんのお出ましよ」
 ぴくっ、と、二人の言い合いの声が止まった。ぎぎぎ、油切れのロボットのようにゆっくりと、二人の視線が料亭の外……ずらりと並んだ、百台近いバイクの列を捕らえる。
「えーと、遅刻してきた人たちかな?」
 綾乃がめがねをずり上げながら言って、
「んなわきゃねえだろ! どーみてもありゃパラ実の暴走族だよ!」
「なんで早く言ってくれないのシャローン!」
「あははっ、だって聞かれなかったもの」
 各々の叫び声は、料亭の目の前で制止した百台のバイク、その脈動するエンジン音にかき消された。
『おうおうおうっ、聞いてやがるか! 料亭にいやがるブルジョワども!』
 どでかいスピーカーをキーンと鳴らして、一団のヘッドらしきモヒカンの男が吠えた。
『とある学校の校長様の依頼でなァ、今日はこの料亭を、オレたち【マケドニアンズ】の専用レース場に改造しに来たぜェ!』
 獣の雄たけびのような声に、綾乃はびくっと身をすくませ、シャローンは妖艶に微笑み、レイディスは、背中に背負ったカルスナウトに手をかけた。
「あ、私っ、何とか説得して……」
「バカヤロウ! 口開く前にぺちゃんこだよ! 頼む、戦える連中を呼んできてくれ!」
 レイディスは、ずらりとカルスナウトを抜き放った。
「それまで、俺が食い止める!」
「……っ!」
 綾乃はその場から動かず、ケータイを開いた。
「バカ! 避難しろ!」
「私だけ逃げ出すなんてイヤよ! シャローン、お願い!」
「まったく。守ってあげるのは綾乃だけだからね?」
 シャローンが、すいと流れるような足取りでレイディスの隣に歩み出た。
「待っててね! 今、波音ちゃんとカズマ君に連絡つけて、【ひまわり組】も【白き盾】も【白百合団】もみんな集めてもらうから!」
『手前ら! 更地にしちまえ!』
 非情な声で、モヒカン男が吠える。
 それに呼応するように、バイク百台のうなり声と、【マケドニアンズ】メンバー全員の、突撃の咆哮が響き渡った。
『アアラララァ――――ララライッ!!』