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第2回ジェイダス杯

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第2回ジェイダス杯

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第三章 絶対に諦めないっ!


 一方、渡航手段を持たないものの、勝負を諦めない者達もいた。白馬に乗った薔薇学生金城 一騎(かねしろ・いつき)とパートナーの百合園生ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。
「ナビは頼むぜ、ミルディア!」
「まっかせといて〜!」
 ミルディア嬢と言えば、第一回ジェイダス杯唯一の百合園生として知られる選手だが、どうやら前回は猫を被っていた様子。今回は王子様というよりも海賊と言ったほうが良さそうな風貌のパートナーを得て、素の自分で勝負をすることにしたらしい。風でスカートが舞い上がるのも気にせず、手綱を握る金城選手の肩に手をかけ、馬の尻に立ち乗りしている。
 二人はゴンドラを足場にして渡ることが出来ないと分かるや否や、土地勘のあるミルディア嬢のナビで進路を変更。遠回りになることは分かっていたが、騎士の橋から住宅街を通ってチェックポイントである倉庫街へ。再び住宅街を抜けて第三のチェックポイント、はばたき広場へ向かうことにしたらしい。
「細けぇことは良いんだよっ。とりあえずゴールまで突っ走るぞ!」
「全力疾走こそアスリートの本領だよっ! 行っけぇえええ、一騎様っ!」
「任せておけっ。力尽きるまで頑張るぞ。馬がっ」
「って、馬がかいっ。一騎様も負けずに頑張れっ!!」
 まさにお似合いの猪突猛進コンビ。この勢いのまま走りきることができるのか?! 


 渡河を諦め、陸路を選んだ選手達。しかし、彼らの行く手を阻んだのは、大運河だけではなかった。
 最短距離で騎士の橋へと向かうため、細い路地へと愛馬を走らせた雪催 薺(ゆきもよい・なずな)アピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)の前に立ち塞がったのは、樽や廃材を組み合わせたバリケードだった。
 バリケードは二階の高さくらいまで積み上げられている。これではさすがに馬で飛び越すことはできない。
「ちっ、こしゃくな手段を使いやがって」
 一見女の子に見えるような秀麗な顔立ちとは対照的に、舌打ちをする雪催選手の口調は些か荒っぽい。大概の者はその見た目と中身の違いに驚くが、同行するアビス嬢は気にしてないようだった。
「私が排除します」
 言うや否やアビス嬢は、素早く馬から飛び降りる。可憐な乙女が持つには無骨すぎる長大な槍を構えた。
「あなた、邪魔だわ。どきなさい」
 気合とともに身長の1.5倍はある槍を一閃。バリケードを薙ぎ払う。
「百合園のお嬢様もやるもんだな…」
 吹き飛んだ瓦礫の山を呆然と見つめる雪催選手に、槍を背に背負ったアビス選手が淡々とした様子で声をかけた。
「行きましょう」
 恐るべし、百合園生。その華奢な身体の中にはどれほどの力を秘めているというのか。以後、百合園生をナンパしようと企んでいる者達は、注意されたし。


 力業の激走を続ける陸路組と相反するように、小型飛空挺で出場したチームの道行きは平穏そのものだ。
「予想外に平穏ですわね〜」
 あくびを噛み殺しながら操縦桿を握っていたのは、蒼空学園の荒巻 さけ(あらまき・さけ)選手だ。さすがは良家のお嬢様達が集う百合園生達。事前にトラップを仕込むことが認められていても、卑怯な手段を使うような者はいないようだ。先ほど、同行する百合園生アイシア・セラフィールド(あいしあ・せらふぃーるど)嬢が禁猟区のスキルでバナナの皮を発見したが、飛空挺に乗った荒巻選手たちにとっては、無駄なトラップだ。「もしかして香辛料的なトラップがあるかも?」と警戒し、念のためゴーグルまで用意しておいたのだが、今のところ無用の長物となっている。これでは気も抜けるというものだ。
「さけさん、油断は禁物ですよ。今回は、可愛らしいお嬢さんをお預かりしているのですから、本気で挑まなくては」
 そう言って荒巻選手を窘めたのは、併走している日野 晶(ひの・あきら)選手だ。
 日野選手の飛空挺に同乗している神薙 光(かんなぎ・みつる)も同意する。
「出場するからには万全の準備で挑むのが当然です。もちろん妨害がないに越したことはないですけどね」
 アイシア嬢の忠実な執事である神薙は、女物の衣服を違和感なく身にまとい、百合園女学院に在籍してはいるものの、実性別は男性だ。いざとなったら身を挺してアイシア嬢を守るつもりである。
 付き添い役とも言える二人が慎重先を急ぐ中、お嬢様達は相変わらずマイペースだ。
「光さんが淹れるお茶は、すごく美味しいんですよ、さけさん。ゴールをしたら、ティータイムを楽しみながら、他の方達を待ちましょう」
 まだレースは中盤だと言うのに、余裕で優勝する気満々である。
 と、そのとき。アイシア嬢の禁猟区が激しく反応をはじめた。のほほんとレースを楽しんでいた一行に緊張が走る。
「見てくださいっ! あちらの住宅で火災が起きています!」