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リアクション
午後の部、開始の前に『応援合戦』
昼食も取り、図書室へ駆け込む者やグラウンドにノートを広げて復習する者がいる不思議な体育祭。
その空気を体育祭へ戻すべく、瀬島 壮太(せじま・そうた)が高らかに叫ぶ。
「てめぇらッ! 午後は、この他校総合チームの圧勝だ! 薔薇学になんざ、負けるなよっ!!」
そのかけ声を聞き、椎名 真(しいな・まこと)が団旗を掲げると、そこには蒼空学園、イルミンスール魔法学校、シャンバラ教導団、百合園女学院、そして波羅蜜多実業高等学校と5校の校章を記されており、参加者は各学校の代表ではなく総合チームとしての意識が高まった。
どんな団旗が良いだろうかと相談したが、やはり各々が代表ではなくチームなんだと思って貰うためにはこれがいいのではないかと、真と京子が作成したのだ。
そして、ミミ・マリー(みみ・まりー)と双葉 京子(ふたば・きょうこ)が各校の校歌から抜粋した応援歌の歌詞カードとメガホンを配り盛り上げるためのお願いもしてまわる。
こちらは、やはりみんなが口ずさみやすいようにと各校の校歌をベースにミミが作成した。
壮太も長ランなど必要な物を準備し、4人とも必死に頑張ったのだ。
――ドンッ!
壮太が太鼓を叩いて合図をすれば、そこへ集まる他校応援団。
人数こそ4人そ少ないが、黒い長ランとハチマキ、白手袋で統一し、唯一女の子の京子もサラシを巻くことで全員凛々しく揃った。
「みんなー! 気合いれていくよ――!!」
京子がペットボトルを叩きながら観客席を上手く盛り上げ、壮太が太鼓を叩きながら応援歌を歌う。
真も地面スレスレのところと掲げられる高い所を往復させながら、大きく団旗を翻した。
絶対に地面へ着かないようにと気を遣いながらも、風の抵抗で重さを増す団旗の扱いは見た目以上に難しい。
けれど、余裕のない表情は見せず、あくまで凜とした顔で支える姿は執事らしい振る舞いなのかもしれない。
歌詞カードを見ながら着いてきてくれるみんなに負けじと、ミミも大きな声で歌い出す。
普段は大人しいミミにとって、人前で大きな声を出すことなどほとんどない。初めこそ壮太に怒られてしまうからとビクビクした様子で声を出していたのだが、段々とこの雰囲気に飲まれ、良い方向に変わっていく。
歌い終わると、長い袖を折り動きやすくして手早く演舞を舞う準備。休み時間や放課後、時間が合えば休日だって揃って練習したことが自信に繋がり、キッチリと舞えるようになった。
盛り上がりを見せる観客にペットボトルを叩くのを止めた京子もミミと並んで揃った動きを見せ、両サイドにいる壮太と真が観客席に檄を飛ばす。
「他校生の意地、みせてやろうぜ!」
「みんな! 声出していこうっ! せーのっ」
「いけいけ蒼学!」
(いけいけ百合学!)
「押せ押せイルミン!」
(押せ押せシャンバラ!)
「ゴーゴーレッツゴーレッツゴーパラ実!」
(ゴーゴーレッツゴーレッツゴーみんな!)
観客と合わすのは初めてのはずなのに、息のあったタイミングでチームとしての一体感が高まった。
そこに真が団旗を掲げて観客席を走り抜け、大きなウェイブが起る。
沸き上がる観客に士気が高まったのを感じると、4人は揃って薔薇学へ向かって一礼。
「勝負は譲らねぇが、互いの健闘をたたえて……おらっ!」
――ドンッ! ドンッ! ドンドンッ! ドンッ!
壮太の太鼓に合わせて演舞を舞い、また一礼をする4人。全校生徒から拍手が沸き起こる。
そして、藍澤 黎(あいざわ・れい)が数歩他校応援団へ近づき団長として一礼。ここで応援合戦は後攻の薔薇学へと移った。
団長が白ランなのに対し、他の団員は全て薔薇学の制服を基調とした長ランにハチマキ、白手袋と下駄、たすきをかけている。
副団長のシャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)が団員を見渡して微笑んだ。
「うん、みんなよく似合ってるね。サイズは大丈夫?」
ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)はぐるりと腕を回しながら、パートナーのティア・ルスカ(てぃあ・るすか)と視線を合わせ、問題無いことを知らせるように演舞の型を決めてやる。
そうすると、胸をなで下ろしたようにリアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)も穏やかな表情を見せた。
「採寸、裁断までは良かったが……我らが縫うと仕上がりのサイズが変わってきそうでな」
繊細な見た目と違い、ティアもパートナーのリアンもお裁縫は大の苦手だった。応援団の衣装として身につけている手袋は、日常でも付けていようかと言うくらい、お互いの手が絆創膏だらけになってしまったが、無事に完成したのなら問題無い。
午前中は陣に掲げてあった団旗をしっかりと握りしめ、ラズー・フレッカ(らずー・ふれっか)も感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた。
「この団旗も、お2人が作られたと聞いた。大切なこの旗で、皆の士気を高めようではないか」
「観客にも、合わせて欲しい部分の伝達終わりました! 行きましょう、団長っ!」
火藍が戻り、揃った薔薇学応援団。黎が団員を、そして薔薇学生を見渡す。
「我らが文武両道であること、他校生に示してみせるぞっ!!」
――ドドンッ! ドンドンッ!
黎の声を合図にヴィナが太鼓を叩き、5人が揃った演舞を舞う。団旗を翻すラズーも、重さを感じさせないリズミカルさだ。
緩やかなスピードから、やがて俊敏な動きへと変わっていく様子を見れば、皆がどれほど練習してきたのか伝わるようで、新入生達は言葉を失ってしまう。
教師たちが全て準備をしていた体育祭、続けざまにある催事。自分たちはそれを楽しみにするばかりで動こうともしなかった。
しかし、同じ薔薇学生である彼らは、日々の学業に加え体育祭を盛り上げそして自分たちを応援するために率先して行動を起こし、完璧な舞いをみせてくれている。
「ほらほら、それじゃあ負けてしまいますよっ! 皆さん、ご協力をっ!」
火藍の合図に、観客席でウェイブが起る。それを追いかけるように、ラズーも旗を持って走った。
気落ちしている暇などない。今は体育祭を盛り上げ、抜き打ちテストに勝たなくては!
次第に新入生も含め全員の声が出るようになり、その声に応えるよう黎も張り上げる。
「ハイ、ハイ、ハイハイ、セイヤァ!」
掛声と太鼓で周囲に拍手を求め、陣形を変えながらリズムを速める。両端に団旗のラズーと太鼓のヴィナ、その間にシャンテと火藍、黎とティアが1列に並び、大柄なリアンが1歩前に出る形で間に立つ。
演舞の速度が増し、グラウンドの砂が巻き起こる。そして――
――ドンッ!
一際大きな太鼓の音が響き、5人は一斉に上段回し蹴りの型を放つ。そこから一糸乱れぬ演舞の三連激が続き、構えを解くと盛大な拍手が沸き上がった。
「本日、全ての参加者に敬意を表し、エールを送る」
他校総合チームの陣へ向きなおり、応援返しの演舞を舞う。全校からの拍手を受け、壮太が中央まで歩み寄る。
「午後も、気合い入れていこうぜ!」
「お互い、正々堂々戦おう」
高く掲げられた右手に黎が同じように右手を掲げてハイタッチを行い、応援合戦は終了した。
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