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聖なる夜に奴らは群れでやってくる!!

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聖なる夜に奴らは群れでやってくる!!

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序 章 白銀の世界

 パーティーの始まりから遡る事、十数時間ほど前。
 あれほど美しかった新緑の草原が色めき朽ちる季節が過ぎ、パラミタの地には冬が訪れていた。
 それにしても、雪山の朝は想像を絶する寒さである。
 僅かに差し込む日差しはあるものの、その蒼天の空はグレーに染まっていた。
 その下で黒く長い髪の毛を束ねたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は白い息を吐きながら、各地に散らばる風の旅団に彼らの足取りを尋ねていた。
 しかし、深い雪の中での情報活動はそれほど甘くはない。
 旅団たちは皆一様に首を横に振るとウィングは金色の瞳を細めて、空を見上げた。
(風の旅団が駄目だとすると……)
 ウィングの脳裏に最悪の結末がよぎる。
 だが、そんな彼の肩に手が置かれた。

「諦めるな、ウィング。私たちの考えは間違ってないはずだ」
「イレブン……」
 そこにはイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が立っていた。
 もちろん、この絶望的な状況下では慰めにしかならないかもしれない。
 しかし、ウィングは僅かにホッと一息つく事が出来た。
 状況が状況だけに仲間の優しさが嬉しいのだ。
「この辺りには敵はいないようですね……」
 どうやら斥候に出ていた橘 恭司(たちばな・きょうじ)も戻ってきたようだ。
 その丁寧な口調は優しげだが、彼はウィングと同じく高位の魔剣士である。
 イレブンも腕利きの魔獣使いであり、同じ目的を持った彼らが偶然にも出会うとは運命とは何と不思議であろうか。
「フッ、私たちもお人よしですな」
 イレブンたちは自嘲的に笑うと新雪を踏み鳴らし歩いていく。
 だが、その平穏も僅かな時でしかなかった。
「……それにしても運命は私たちにとんでもない苦難を与えてくれたようだ」
「ですね」
 恭司とウィングは腰に差した妖刀村雨丸を抜く。
「やれやれ、これは人類の危機ですな」
 イレブンもライトブレードを抜くと不快な電子音を奏でる。
『ガアアアアッ』
 なぜなら、彼らの目の前に立ち塞がったのは巨大な熊だったのだから……


 ☆     ☆     ☆


「なかなかやるじゃない……化け物!!!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は声高に叫ぶと、その悩ましげな足を大きく動かして敵の正面に立ち塞がる。
 魔獣ガルム……冥界の様々な悪意から産み堕とされた魔犬である。
 犬といっても、狼などとも比較にならないほど大きい。
 焼け爛れたようにも見える醜悪な皮膚。
 口から零れる臭気はこの世のものとは思えなかった。
「美羽!! 気をつけて! そんなに急いで倒さなくてもいいから!!」
 パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は注意を即すが、美羽は逃げようとしない。
 初弾の雷術を使用したベアトリーチェが、次弾を唱えるにはどうしても時間がかかってしまう。
 すでに美羽の肩はざっくりと裂け、真っ白な雪の上にはいくつもの血痕が広がっていた。
「クスッ、これくらいじゃないと賞金が稼げないじゃない。せっかく、ネットで賞金首を捜したのにさ」
 美羽はペロリと舌を出すとポケットに忍ばせた電動車椅子のチラシを見る。
 それを買うには後、何匹の獲物を狩ればいいのだろか?
 だが、その油断の隙をついて、ヘルハウンドは飛び掛ってきたのだ。
 剥き出しの牙に長い爪が襲い掛かってくる。
「美羽っ!!!」
 ベアトリーチェが悲鳴をあげると、美羽はコケティッシュな表情を引き締めて敵を睨むつけながら叫んだ。
「小鳥遊 美羽、格闘技マニア!! 尊敬している格闘家はムトゥ……って、魔物如きが私より目立つなんて許さないんだからね!」
 唸り声と打撃音が辺りに交差する。

――何か聞こえました?」
「……いえ、何も聞こえませんよ」
 ユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)がパーティの一行に声をかけると、八神 瞬(やがみ・しゅん)が申しわけなさそうに答えた。
「…………そんな事より、モンスター狩りだ!!」
 ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は内に溜まった鬱憤を吐き捨てるように大きな声を張り上げた。
 その後ろで天王寺 雪(てんのうじ・ゆき)は居心地悪そうに風景を眺めていた。
 ――チグハグ。
 この一行にはそのような表現がよく似合っている。
「もう少し仲良く歩きましょうよ。せっかくみんなで歩いているんですから、歌でも歌いますか?」
「……別に」
「そういえば、天王寺さんは綺麗な髪してますね?」
「…………別に」
 雪は揃った前髪をかきあげるとぶっきらぼうに答える。
 偶然出会った雪たちとのモンスター狩り。
 だが、ニコは明らかに雪を嫌っていた。
 それが肌で伝わるのであろう。
 元々無口な天王寺はさらに無口になってしまっている。
「火術!!!」
「ちょっと、ニコ。周りを見てスキルは使用してください!! モンスターと一緒に仲間も巻き込まれてしまいますよ!!」
「うるせー! うるせー! よければいいだろ! よければ!」
 ニコは他人と関わらず育ったために協調性は皆無だった。
「……火術……」
「雪も張り合わない!!」
 瞬も雪を抑えるので精一杯だったようだ。


 ☆     ☆     ☆


 ところ変わって、ここは蒼空学園の図書室の中。
 薪ストーブが焚かれた暖かな部屋である。
 アーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つゔぁいんぜふぁー)は一冊の本を読み終えるとため息をついた。
「ふぅ、読んでおいてよかった」
 彼は戦場で育ったために様々な教科書を持ち歩いていた。
 そんな彼が高等部の化学教師になれたのだから、相当な勉強をしたのだろう。
「では、準備にかからねば……」
 アーキスは生徒達の喜ぶ顔を思い浮かべながら、一人で科学室に向かったのだ。
 その途中、アーキスはルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)とすれ違う事となる。
 美しい大きな羽根が特徴の彼女は軽く会釈をして歩いていく。
 窓の外を眺めると山間ほど雪はないものの、例年稀に見る雪景色が広がっていた。
 校庭では鈴木 周(すずき・しゅう)が、椿 薫(つばき・かおる)影野 陽太(かげの・ようた)と何かを話している。
 ラッピングされた包みから取り出した本を見せている事から、今夜の打ち合わせでも行っているのだろう。
 何とも微笑ましい姿ではないか。

 そして、ルミーナは先に進もうとすると、長く白い廊下の先に風祭 隼人(かざまつり・はやと)の姿が見えた。
「あらっ、風祭さん。何か用ですか?」
 その言葉に隼人は照れながら答えた。
「ルミーナ。今日のクリスマスパーティの……か、買いだしに行かないか?」
「……? 別にいいですよ」
「えっ?」
 その即答ぶりに隼人の方が驚いた。
 断られるの覚悟しての告白だったのだが……
「クリスマスパーティには色々と必要ですしね。それに男の方もこられた方が助かりますし……」
「えっ?」
 隼人はさらに驚いてしまった。
 すると、廊下の向こうから少女の元気な声が聞こえてきたのだ。

「ルミーナ、お待たせですぅ」
 それは小さなサンタさんの格好をした神代 明日香(かみしろ・あすか)神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)のコンビだった。
 明日香はルミーナに駆け寄り、そのまま彼女に抱きつくと嬉しそうに言った。
「早く、買い物に行くですぅ」
「えぇ、わかりましたよ。それに風祭さんも一緒に来てくださるそうですから……」
 ルミーナがチラリと隼人の方を見ると夕菜も隼人に頭を下げた。
「え? えぇ?」
「おっけ〜ですぅ」
 戸惑う隼人にとっては想定外の出来事だったようだ。

 その反対側の廊下での出来事。
 黒色のコートをまとった銀髪の魔剣士クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は戸惑いの表情で立ち止まっていた。
 校長(御神楽 環菜(みかぐら・かんな))の言葉をどう受け取るべきなのか、悩んでいるようにも見える。
「……とにかく楽しい事か……あの校長らしいが……どうするべきか……」
 すると、そんな彼の思考を邪魔するかのようにユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が声をかけてきた。
「あはは……確かに無茶苦茶ですけど、少なくとも誰かの為を思ってやっている事ですし……ま、まぁ、楽しみませんか?」
 環菜の性格を考慮して、語尾に多少の疑問を残しつつもユニはクルードに進言する。
「フッ……簡単に言ってくれるな……ユニ……それよりもアイシアはどこだ?」
 クルードはアイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)を探した。
 すると、アイシアは雪の降り積もった校庭で雪と戯れているいるではないか。
 白い雪に浮かび上がる氷雪の妖精。
 それを見たクルードはほんの少し目を細めて呟く。
「……やはりこれだな……」
「何がこれなんです?」
「……またつまらない物を斬る事になるが……それも悪くない……」
「何を斬るんです?」
「……うるさい……」
「ちょっと待ってくださいよ」
 そして、まとわりつくユニから離れるようにクルードは廊下を歩き出す。


 ☆     ☆     ☆


「もう冬だねぇ」
 深々と降る積もる雪の中、校舎の入り口で傘を差していた永式 リシト(ながしき・りしと)は上空を眺めながら呟いた。
 静かに舞い落ちてくる淡雪はリシトの隣で立つ山時 雫(やまとき・しずく)の頬を撫ぜながら地面に落ちていく。
「そうですわね」
 静かで知的な物言いの雫だが、左手に巻きつけられた可愛らしいリボンはどこか幼さを感じさせる。
「ケーキか、上手く作れるといいなぁ」
 そんな彼女の美しさに照れたのか、リシトは校舎側を向いて精一杯背伸びをした。
「よー、もしかして、待った?」
「おはよー」
 すると、リシトに瀬島 壮太(せじま・そうた)ミミ・マリー(みみ・まりー)が声をかけてきたではないか。
「いや、オレたちも今、来たばかりだしぃ」
 リシトが持ってきた紙袋をたちに壮太見せると、壮太は微笑んだ後、周りを見渡しながら口を開いた。
「そっか。それよりもあいつらはまだかな?」
 どうやら、彼らはここで待ち合わせをしているらしい。
 静かで穏やかな学園生活の日常。
 しかし、ミミはいぶふかしげに壮太に言ったのだ。
「……ねぇ、壮太。何か静かすぎない? いや、静かすぎるのが駄目じゃなくて、何というか……」
「? 何を言ってるんだ。いつものことだろ。あっ、エメたちが来た。おーいっ!」
 壮太が手を振るとその方向にエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)らが、ケーキの土台を持って歩いてきていた。
「いやぁ、壮太君。リシト君。手伝ってください。ケーキの土台が重くて」
「………………」
 そう、その日は始まりはあまりにも静かすぎたようだ。