リアクション
そのよん ハーフハイム 第一クォーターを静とすれば、第二クォーターは動の展開となった。 四十六枚の札の内、すでに二十三枚が取られた。序盤でリードした鬼崎 朔チームが六枚。D地点スタートのチームが少ないという利点と、序盤での入念な絵札チェックにより橘 カオルチームが五枚と一歩抜きんでている。 そのほかのチームは、このような結果になっている。 影野 陽太チームが二枚 一式 隼チームが二枚 仲國 仁チームが一枚 ロッテンマイヤー・ヴィヴァレンスチームが一枚 リカイン・フェルマータチームが二枚 水神 樹チームが二枚 朱宮 満夜チームが一枚 篠北 礼香チームが二枚 残る札は二十三枚。このまま朔チームがリードを保ったまま逃げ切るのか。 ボランティアスタッフは、ハーフタイムに入って一気に忙しくなった。 橘 恭司と相沢 美魅はそれぞれ分担して参加者たちに甘酒やお汁粉を配っている。 「はい、熱いので気をつけてくださいね」 美魅が甘いものばかりでは、と持ち込んだお茶を差し出す。 「お嬢さん、ありがとう! よかったらお礼に今夜あたりディナーはどうかな? 空京のホテルの展望レストランを予約してあるのですが」 アーク・トライガン(あーく・とらいがん)が美魅の手を取り耳元でささやく。 闇咲 阿童(やみさき・あどう)はパートナーの狼藉には気付かぬ様子で、十二杯目の汁粉にかぶりついている。 「失礼、ボランティアスタッフには仕事がありますので」 さりげない様子で道明寺 玲がアークと美魅の間に割ってはいる。 「アークはん、甘酒いかがどす?」 振り袖姿のイルマが、甘酒を入れたお銚子を少しだけ傾けてみせる。その背後では美魅が礼に目礼している。 「ほう、こちらのお嬢さんも美しい! 鮮やかなお着物があなたをより美しくみせているぜ」 「いややわぁ」 イルマはまんざらでもないという様子で身体をなじりながらアークを突き飛ばす。 「うわっちっ」 「あ、これを」 ユーディット・ベルヴィルが濡れタオルを差し出す。 「ぬっふっふ、ハーレムだぜぃ」 「あ、汁粉お代わり」 阿童は十三杯目のお汁粉に取りかかり始めた。 突然、あたりの音を圧するようなバイクの排気音が響いた。 パラ実生の百々目鬼 迅だ。しかし、徒歩でグラウンドの中央に歩み出る。バイクの排気音は、グラウンドの音響設備によるものらしい。 本当はバイクで颯爽と登場するつもりであったが、バイクに変形する能力を持つパートナーをうっかり置いてきてしまったのだ。 (新年早々おっちょこちょいさんだぜ!) 迅は内心で焦りながらも、マイクを持って自分に注目する全員を眺める。 「あ、どうも」 迅は、自分のしよう大きな鍋とそれを置くための台を準備してくれた橘 恭司に頭を下げる。恭司は軽く会釈して素早くグラウンドの中央から退く。恭司の顔には「あんなものどうするんだろう?」という表情が張り付いていた。 「テメェ等ぁ! 正月といえばカルタか?違うだろ!!! 正月といえば……かくし芸大会だろぉがァ!!!」 迅のマイク越しの声が、会場中に響く。しかし、会場からの反応は芳しくない。半分以上はパラミタ大陸出身者で占められているこの場において、隠し芸大会をうまくイメージできるものもまた少ないのだ。 迅はめげずに鍋から熱々のオデンを取り出す。定番中の定番。タマゴだ。 「みさらせ、これがパラ実魂じゃぁ!」 マイクが迅の声に耐えきれずハウリングを起こす。そして次の瞬間! 「はふっ、はふっ」 地味! おいしそう! それが迅のアピールを眺めていた者たちの大方の感想であろう。 「げふ……が……」 タマゴの黄身がのどに詰まったらしい。迅はしゃがみ込んでえづく。 「……食べ物を粗末にするのは感心しないわね」 珍しく常識的なことを口にした環菜が携帯電話操作する。ぼよよん君二世が発動し、迅は宙を舞う。タマゴの次に食べようと持っていた串オデンとともに。 遠くに霞んでいくその姿は、二十世紀後半のエイリアンと少年との友情物語を思い起こさせるものであった。 「あのオデンどうしましょう?」 「食べたりない人がいるみたいだから、その人たちに任せましょう」 ルミーナと環菜が話していると、そこにグラスを持った神代 明日香(かみしろ・あすか)が現われる。 「会長、お疲れさまですっ!」 天使のような笑顔で明日香はグラスを差し出す。グラスの中には透明な液体がなみなみと注がれている。 「ありがとう」 環菜が滅多にみせない笑顔を見せてグラスを受け取る。 「私が禁猟区を使っていることは知っているかしら?」 環菜は受け取ったグラスを手の中で弄ぶ。明日香はこの時点で自分の中の本能的な部分がここから立ち去れと叫んでいるのに気付いていた。 「私に害をなそうとするものを、逃がしはしない」 環菜はグラスを空高く放り投げる。光銃エルドリッジを抜き放ち、一息にグラスを打ち抜く。グラスは砕けることもなく溶解し、中に満たされていたアルコール度数九十を超えるウォッカは一瞬で気化する。 「もう一度言うわ。決して、一つの例外もなく逃がしはしないわ」 光銃エルドリッジが陽光を受けて鈍く輝く。 「うふふ」 明日香は可愛らしい笑みを浮かべる。 「さよならっ!」 不思議の国のアリスの三月ウサギもかくやというスピードで逃げ出す。環菜もあえて後ろから撃つということはしない。 「はふはふ……汁粉や甘酒もいいが、このオデンという奴もまた格別だな!」 イルマ・スターリングは、迅の残していったオデンにかぶりついている。玲はそんなイルマの姿を見てため息をつきながらも、したいようにさせている。 「お、俺も貰うぞ」 すでに十八杯の汁粉を平らげた阿童はまだ食べたりないようでオデンに手を伸ばす。 その場があたかも大食い大会の様相を呈してきたとき、4ビートのリズムが鳴り響いた。 シャンバラ教導団の望月 鈴子(もちづき・りんこ)だ。教導団の制服ではなく、純白のコスチュームに身を包んでいる。ミニのプリーツスカートが揺れる。 「「フォオオオオオオオオ!!!! Fuuuuuuuuu!!」」 山葉 涼司を初めとして数名の男子生徒が、理性を疑うほどにヒートアップした歓声を上げては、パートナーに肘鉄を食らったり冷め切った視線を送られたりしている。 鈴子はポンポンを振って軽快な音楽の乗って身体を動かす。側転したり宙返りしたりとかなりの運動量だが、辛そうな表情はまったく見せない。 「GOGO! Victory!」 鈴子は満面の笑みですべての選手にエールを送る。 「「おっしゃやるぜ!」」 鈴子がターンする度にちらちらとのぞくものが、『見えてもいい用』としらない男子生徒達は、沸騰寸前のテンションで後半戦に臨むのだった。 |
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