百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

リアクション公開中!

御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

リアクション



そのよん 第三クォーター


 闇咲 阿童はハーフタイムでさんざん食べ、ようやくエンジンがかかってきたようだ。
「アーク。食後の運動だ.やれるな」
「うーん、あのチアの子かわいかったなぁ」
 アーク・トライガンは思い出し笑いをしながらも、阿童の言葉に頷く。彼らがスタートするのはB地点。B地点側のフィールドには七枚の札が残っている。悪くはない配置だ。阿童は横目で影野 陽太チームを観察する。B地点のチームの内もっとも注意するべきなのは彼らだろう。陽太のやる気は、万事にやる気のない阿童だからこそ強く感じる。
「さて、後半戦一枚目、行くわよ」
 環菜が読み札を選び出す。
「闇咲 阿童君の案ね。し……死ぬ前に 一度は食べてみたかった 白いご飯」
 阿童は自分の名が呼ばれた時点で走り出す。陽太チームもそれに続くように駆け出すが、初動での優位はなかなか動かない。『し』の札は、B地点にほど近い場所にある。自分の出した読み札案ということで阿童の記憶に強く残っていたのだ。
 B地点のチームには他チームの妨害を指向しているチームもない。
 最初のリードを保ったまま、阿童が『し』の札をゲットする。
「まぁ、こんなものだな」
 余裕綽々の阿童を見て、密かに焦っている者があった。
 D地点スタートの天城 一輝(あまぎ・いっき)ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)だ。D地点スタートのチームは3チームだけだが、一輝はその優位をうまく生かせなかった。前半は焦らずあることを確認していたのだ。
「よし! 覚悟は決まった! やってくれ!」
 一輝は【かがやけ!黄金水☆】なる異名を雪ぐため、不退転の決意でカルタ取りに望んでいるのだ。
 環菜が次の読み札を取り出す。
「天城 一輝君の案。か――勘違い してもバレなきゃ 英雄だ――まぁ、その通りよね」
 一輝の目が輝く。狙っていた自分の札だ。
「ローザ、やってくれ!」
「どうなってもしりませんよ!」
 一輝とローザがバーストダッシュで一気に踊り出る。札の少なくなる後半戦でなければ使えない戦術だ。そしてローザが一輝の襟首を掴む。
「飛べええええええ!!」
 そして、投げた。北欧神話のオーディンを思わせる見事なフォームで、神槍グングニルならぬ天城 一輝が放たれる!
 二人をつなぐローブは、バンジージャンプにも使われる特殊なゴムを用いたものなのだ。
 文字通り弾丸の速度で飛んでいく一輝。グラウンド中央の『か』まであと数センチ――しかし、無情にもゴムロープは伸びきりそこで停止してしまう。
「――バンジー!!!!!」
 悔し涙を滲ませながら、ゴムの力でローザの元に飛ばされる一輝。
 しかし、想定外の事態が起きた。重力である。
「ごごふぅ!」
 受け身も取れず地面をすさまじい勢いで引きずられる一輝。神槍グングニルは、狙ったものを必ず貫くという。奇しくも、一輝は狙った札を取ることはできず、傷だららけになりながらもローザの元に戻ってくることとなった。
「七枚目……」
「獲得であります!」
 鬼崎 朔が冷静に札を獲得する。あるボランティアスタッフを買収して事前に情報を持っていた朔チームは、やはり強い。
 参加者にはさまざまなタイプがいるもので、朔のように事前に根回しをして優勝を狙う者もいれば、そもそも勝敗はほとんど気にせず楽しめればいいという者たちもいる。
 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)ふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)のチームは後者の最右翼といえるだろう。
「残りの札も少なくなってきたわね」
 環菜がボックスから次の読み札を選び出す。
「どりーむ・ほしのさんの案。う――うしろすがたがびしょうじょ じつはおとこのこ。あぁ。こういう人、一人知ってるわ。その子は前から見ても美少女だけど」
「どり〜むちゃん、わたしたちの札だよ! がんばろうね」
「うん!」
 ふぇいとがどりーむの手を握りしめる。彼女らはC地点からのスタートだが、この時点ですでにスタートラインに立っているのは彼女らだけだ。
「たいへん、急がなきゃ」
 どりーむたちは駆け出す。どりーむはこっそりとロープを規定のものより短いものに換えていた。走る度にフェイトの育ちつつある胸が指先に触れたりする。
「あそこですよ!」
 ふぇいとが前方の札を指指す。真っ先に飛び出した朔チームが今にも札に触れようとしている。
「させないもん!」
 どりーむはすさまじい勢いで、手にしたほうきでグラウンドを掃く。そうして生み出された風が、絵札を浮き上がらせる。
「きゃ!」
 風に飛ばされた札を追おうとしたどりーむが足を絡ませて転倒する。ふぇいともバランスを崩し、二人は絡まり合うようにして地面に倒れ込む。
 地面は泥と、ロッテンマイヤーとリカインが撒き散らした炭酸カルシウムとで奇妙なマーブル模様になっている。
 ふぇいとの服もまた、茶色と白にまだらに染まっている。
「いたた、ごめんなさい、あ…………………………」
 どりーむは自分の下敷きになってしまったふぇいとにあやまる。
(やわらかい…成長してるのね)
 偶然、ふぇいとの胸に手をついてしまったどりーむは、自分の手に付いた泥が染みとなってふぇいとの服に残ることに気付く。
(この気持ちは、なに――好きなのに、汚したい……)
 どりーむはわざと自分の手に泥を付け、それをふぇいとの服になすりつけていく。
 言葉にならない異様な感覚がどりーむを貫く。
「ど、どり〜むちゃん?」
「も、もうちょっとこのままで……」
「ふあっ! なにしてるの? 人前じゃ……だめ」
「そこの二人―、スタート地点にもどりなさい」
 メガホン越しの環菜の声に、どりーむは我に返る。二人だけの世界に浸っている間に、すでに篠北 礼香チームが札を獲得したようだ。

「っち、デコが邪魔しやがって……」

 殺気さえこもったどりーむの声は、すぐそばにいたふぇいとにすら届かないのだった。