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7.コンテスト

 部室へ行くと、そこには誰もいなかった。
 篤子たちはどこへ行ってしまったのだろう、と思うヤチェルだったが、ルカルカを連れてカーテンの内側へ入る。
「可愛い女の子を探すのはいいことだし、似合う服を実験するのも悪くない」
 でもね、と、ルカルカ。
「あなただって、もっと綺麗になれるのよ」
 と、姿見の前にヤチェルを立たせ、セミロングの髪をまとめると髪留めで上げる。
「こうしただけでも、雰囲気変わるでしょ?」
「……う、うん」
 ヤチェルは慣れないことに戸惑っていた。今までは着替えさせる方だったのに、逆の立場になってしまった。
「貴女のシックな茶色の髪は、どんな色の服でも着こなせる」
 と、持ってきた服を当てて見せるルカルカ。
「私みたいな金髪じゃ、似合わない和服もね。うらやましいわ」
 そう言って笑ってみせる。
 ヤチェルは何だか、ドキドキしていた。

 コンテストの始まる十分前だった。
 見るのは無料ということもあり、興味を持った生徒たちが客席を埋めつつある。
 恭司は、審査員席に一番近い席に座っていた。
 万が一のことを考え、叶月とともにヤチェルの監視をする予定だ。
「悪いな、こんな時まで」
 と、叶月が恭司の隣へ腰を下ろす。
「いえいえ、俺も心配ですから」
 スタッフの生徒たちが最後の調整に入っていた。
「ところで、先ほどから会長の姿が見えないんですが」
「は?」
 審査員席にはまだ誰も座っていない。
「他の二人は見かけたんですけどねぇ」
 叶月も恭司と同じく、会場のすぐ外にソールとどりーむの姿を見た。二人ともコンテストの審査のことでパートナーにとやかく言われている様子だった。
「……探してくる」
 と、叶月は立ち上がる。

 部室へ入った叶月は驚いた。
 ちょうど着替えを終えたヤチェルが、カーテンを開けたところだった。
「……ぁ、どうしたの?」
 ヤチェルは恥ずかしいのか、いつもよりもそっけない。
「もうすぐ、五時になるぞ」
 と、叶月は目を逸らした。
 ヤチェルは襟が大きく開いた白と黒のボーダー柄のシャツに、太い黒ベルト、白のミニプリーツスカートを履いていた。
「え、もうそんな時間!?」
 慌てて出て行こうとするヤチェルに、ルカルカが白のジャケットを差し出す。
「これでバッチリよ」
「ありがとう、ルカルカちゃん」
 ジャケットを羽織り、部屋を出ていくヤチェル。
 叶月がルカルカを見ると、彼女はただ満足そうににっこりしていた。

   ×  ×  ×

「本当にボク、出るの?」
 苦笑するカリンへ朔は言う。
「だってカリン、ショートカットだし、可愛いし……」
「行かなきゃダメ?」
「……うん」
 朔の目がキラキラしていた。顔を逸らし、カリンは「不幸だ」と、呟く。
 舞台袖では何十人もの少女たちが出番を待っていた。
 その様子を写真に収めて回っている者がいた。勇とニセフォールである。
 ニセフォールは勇の助手として傍にいたのだが、コンテストが始まってしまうと、やることがなくて退屈していた。
「……大丈夫、舞台に出て、帰ってくるだけだから」
 と、朔が言う。
 ニセフォールはふと二人の方に目を向けると、歩み寄った。
「リボン、曲がってるわよ」
 と、カリンの頭に着いた黒のリボンを直してあげる。
「あ、ありがとう」
 ニセフォールがにこっと微笑むと、司会がカリンの名を呼んだ。
 朔とニセフォールに見送られ、ゴスロリファッションに身を包んだカリンが舞台へ出ていく。

「エントリーナンバー9番、御茶ノ水千代」
 少女たちに混ざって現れた千代に、会場のテンションは一気に下がった。
「おばさん……」
 と、ヤチェルが小声で呟く。
 舞台写真を撮っていた里也も、やや気が引けてしまった。
 ショートカットは素晴らしいが、セクシーな赤いドレスを着こなせていないのが残念だ。
「おばさんは引っ込め!」
「ぺったんこ!」
 次々に客席から罵声が飛び交うと、千代はキレた。
「うるさーいっ! 人が気にしていることをわざわざ言うな!」
 怒鳴り散らす千代だったが、スタッフによって裏へ連行されていった。
 ……コンテストにそぐわない発言および観客への罵声で減点

「エントリーナンバー17番、九条院京」
 そこかしこに花模様を散りばめたミニのワンピース姿で、京は舞台を颯爽と歩く。
 全体が淡いピンク色でまとまっていて、とてもよく似合っている。
 しかし、袖へと消える間際に京はケーブルに躓いた。
 直後、歓声が沸き起こる。
「見えた!」
 京はすぐに立ち上がった。そして赤い顔を隠すように、さっさと袖へ向かう。
 どりーむ的には高得点だったが、コンテストのルール上は減点だ。

「エントリーナンバー25番、栂羽りを」
 青いトレーナーに白のミニスカート、中に七分丈のレギンスを着用したりをは、まさにボーイッシュだった。
 中でも目を引いたのはスニーカーで、原色を使用した派手なものだ。
 スカートは大きめのチェック柄でトレーナーとの相性も抜群。
「可愛い……」
 客席からはそんな声まで聞こえてきた。
 りをは観客へ笑顔を振りまき、イメージを崩すことなく袖へ消えて行く。

 大和を連れた篤子が会場へ到着したのは、終わりに近づいた時だった。
 大和に合う服が見当たらなかったため、必死で探しまわり、それから着替えさせ、髪の毛も丁寧に整えてやったのだ。時間がかからないはずがない。
 篤子は他のスタッフに大和を預けると、大急ぎで会場を出て行った。
 今度は自分が着替えるためである。

「エントリーナンバー36番、ヤマコ」
 舞台へ出た大和は、まるでお人形さんのようだった。白いワンピースに身を包み、頭には同じ色の花飾りが付いている。
「うおおおおおおお!!」
 客席が沸いた。
「なんて可愛いの!!」
 審査員席も沸いた。
 大和はにこにこと微笑みながら、くるりと回って見せる。
「かーわーいーいー!!!」
 その愛らしさに、誰もがヤマコの優勝だと思った。
 大和自身も勝利を確信していた。
 しかし。
 袖へ向かって歩いていると、突然幼女は大人になった。否、男になった。
「あ」
 会場内が静まり返る。
 先ほどまでそこにいた愛らしい少女は消え、全裸を晒す立派な男性が立っていた。
「おや、ばれてしまいましたね。これが俺の――」
 言いかけて、スタッフに強制連行される大和。
 ――性別詐称および公衆での猥褻行為の為、失格

 篤子が再び会場へ戻ってきた時、司会は「これから審査に入ります」と、告げていた。
 せっかく着替えてきたのに、と、肩を落とす篤子。
 京とりをが篤子へかけ寄って来る。
「大丈夫? あっちゃん」
「ええ、ええ、大丈夫です」
 泣きそうなのをこらえ、篤子は唇を噛みしめる。
「きっと次があるよ」
 と、りをは篤子の肩を叩いた。
 すると、京がふと思い出したように言う。
「ってゆーか、これは蒼学生限定のコンテスト。つまり、篤子ちゃんは教導団の生徒だから参加資格はないのだわ」
「……え?」
 
 そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!

 ――会場内に、悲痛な叫び声が響いた。