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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

リアクション



第五章



「――結局、首謀者には逃げられてしまった、ってことだな」
「ああ、すまない。あのあと一通り探したけど、それらしい痕跡は何も残っていなかった」
「ごめんね、エメネア」
あれからしばらくして、エメネアの元に戻ってきた面々は事の顛末を説明して頭を下げた。
結局、信長の放った炎でアジトである廃墟はすっかり灰と化してしまったのだ。
怪我人こそいなかったが、首謀者本人も、痕跡も残らなかった。
けれど話を聞いたエメネアは、ふるふると首を振った。
「頭を上げてください! みなさんのおかげでアクセサリーが戻ってきたんですから、それだけで充分ですよぅ」
「エメネア……」
「それに幸い皆さんに怪我もなかったし……本当に良かった……」
戻ってきたアクセサリーと、皆を交互に見ながら、エメネアは泣きそうな顔で笑った。
「エメネア」
「はい」
「今回のことはもちろんエメネアのせいじゃないが、こんなことを二度と起こさないようにすることも大事だ」
そう言って前に進み出たのは武神 雅(たけがみ・みやび)だった。
軽くぽんぽんとエメネアの頭を撫で、雅はパソコンを開く。
訝るエメネアに、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が提案する。
「俺たち考えたんだ。エメネアのアクセサリーのことはもうグールに届くくらい有名になってるだろ? だからさ、セキュリティ面も考えて、ネットショップをやってみないか?」
「えっ?」
「納品の時に空京に来るようにして直接渡せば喜ばれるし、エメネアの好きなバーゲンだって行ける」
「それに製作時間も確保しやすいだろうしな」
雅がそう言いながら、立ち上げたパソコンを見せる。そこにはインターネットショッピングのページが出来ていた。
「土台は作ってあるし、操作方法もメモしてある。これで買う人間はゆっくり選べるし、流通も安全だ」
「ほええ……」
「ファッションに合わせてアクセサリーを買う人もいるだろうからな、もしよかったらそういう仕立てが出来る人と一緒にやってみるのもいいね」
心当たりがある、と牙竜が笑う。以前知り合った魔女なら喜んでエメネアに協力してくれるだろうと。
「あ、それならさ、あたしも提案があるんだけど」
そう言って手を上げた朝野 未沙(あさの・みさ)は、笑顔でアクセサリーを指差した。
「あたしにもこのアクセサリーの作り方を教えてよ。エメネアさんのアクセサリーが狙われたのって珍しいからでしょ? だからね、いっぱい作り手が増やして希少性を少しでも低くすればこんなこともなくなると思うの」
未沙の言葉にエメネアが首を傾げる。
「教えるのは構いませんけど……」
「それにね、エメネアさんが望むならエメネアさんの作った分も一緒に販売するのってどうだろう? ネットショップの受け取り店をアサノファクトリーにするとか!」
「なるほど、それは悪くない考えだね」
「でも、いいんですか?」
「うん、もちろん!」
「――みんな」
盛り上がる未沙たちの言葉を遮ってエメネアの前に立ったのは皐月だった。
「今日のところはそこまでにしよう。みんなも、待っていてくれたエメネアも疲れてるだろうし」
「皐月さん」
「色々話はあるかもしれないけど、それはまた今度な。まずはしっかり休んで、アクセサリーを持ち主に返しに行かなきゃいけないんだし」
「そう、だね」
皐月の言葉に同意を示した皆はその場をお開きにすることにした。
なにはともあれ皆が無事で、アクセサリーも戻ってきたのだ。異論はなかった。
皆がそれぞれエメネアに励ましの言葉をかけて去っていく。
「じゃあ、エメネアさん、またアクセサリーのこと教えてね!」
未沙が手を振って去っていくのを最後に、ファクトリーには静寂が戻った。
「……それじゃあ、オレも帰るよ」
「あ、はい。本当に色々ありがとうございました」
「どういたしまして。……はい、これ」
皐月は静かにつけていたネックレスを外すと、エメネアの首にかけてやる。
囮に使うからと作ってもらったそれは、シンプルだが可愛らしい、美しいものだった。
「えっ、さ、差し上げますよ!」
ネックレスをかけられたエメネアは、慌てたように外そうとする。
それを指先で制して、皐月は首を振った。
「そうじゃなくて、このアクセサリーはエメネアにつけていてほしいんだ」
「え……」
「他人の事ばかりで、自分の事省みた事もないだろ? こんなに綺麗なアクセサリーを作れるんだから、それをもっと楽しむべきだよ」
「皐月さん……」
「それじゃ、これからもがんばって」
おやすみ、と言い残して、皐月もその場を後にする。
ぱたりとドアが閉まる音がして、エメネアはやっと我に返った。
ゆるゆると歪んだ口元は、次第に笑みを形作る。
「えへへ……ありがとうございます、……みなさん」
人知れず浮かんだ笑顔は、穏やかで明るいものだった。

「――んー、いいねぇ」
背後から声をかけられて、エメネアはハッと振り返る。
いつの間に侵入したのだろうか、そこにはフォン・アーカム(ふぉん・あーかむ)が立っていた。
「だ、誰ですか!」
「僕はシリウス二世…泥棒ですよ。お嬢さん」
「泥棒!?」
思わず大きな声を上げそうになるエメネアの唇を人差し指で押さえて、アーカムは歌うように口にした。
「しーっ、静かに。さて、泥棒なので盗みたい物がある……アクセサリー? そんな、僕にとって価値のない物はいらないよ。欲しいお宝は、皆の心の暖かさに触れ、笑顔になったキミの髪を一房……」
そのまま流れるようにエメネアの髪を手に取り、そっと口付ける。
身構えたまま動けないエメネアを見て、アーカムはそっと微笑んだ。
「とは言え、無理矢理盗るのは美しくない。だから、今回は本物は諦めるとしよう。女性は苦手だけどお宝なら別…いずれ、キミの方から盗んでくださいといって貰えるときに、盗ませて頂くよ」
「アーカム、さん……?」
どこからともなくアーカムがとりだしたデジタルカメラ。
そこには先ほどのエメネアの笑顔が映されていた。
「うん、いい笑顔だね。今日のお宝はこの写真だ。……それじゃ、またね」
「あ……、待ってください!」
窓辺に寄ったアーカムを追いかけたエメネアだったが、すでに夜の闇の中に消えてしまったアーカムを見つけることは出来なかった。
まるで夢でも見ているかのような短い邂逅。
エメネアは首を傾げながら、それでも愛おしげにアクセサリーに目をやるのだった。



その出来事が夢ではないと知るのは数日後。
「笑顔のキミがつくるアクセサリーがみんなに笑顔をもたらすのだ」と記された、笑顔のエメネアの写真がエメネアの元に届いた日のことだった。




担当マスターより

▼担当マスター

奏哉

▼マスターコメント

こんにちは、奏哉です。
まずはじめに、リアクション公開が遅れてしまって申し訳ありません。

今回はアクセサリー奪還&盗賊団撃退シナリオ、ですね。
皆さんのリアクションを読んでエメネアを励ましたり、動機となる心情の部分を読んで改めてエメネアは愛されているなぁと心があたたかくなりました。
名言もあったのですべて使いたかったのですが、場面にどうしてもそぐわないものがあったりして残念でした。
それでもこの場面で言ってほしい、と少しだけ変わっているものもあります。

それから、今回のアクセサリーはアイテム化はされませんので、一度回収という形にさせていただきました。
クエスト中めいっぱいおしゃれを楽しんだ、ということでひとつ、お願いいたします。
今回も楽しい執筆でした。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。