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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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第四章



「――首尾はどうかしら」
闇の中から問いかけたのは、誘いこむように甘美な声だった。
その声に、グール達は一斉にひざまずく。
ひらり、と手を差し出されて、前に進み出たグールがそっと盗品のアクセサリーを献上するように掲げた。
それを指先でつまみ上げながら、眼前にかざすその口元は、緩やかな微笑を浮かべていた。
手にしていたアンクレットを自らの足首に巻いて、眺め満足そうに頷いた。
「悪くないわね」
女の声が笑みを交えてそう口にする。
そしてもう一つを手にとってかざしたところで、女の口元から笑みが消える。
指先がそっとアクセサリーを弄り、黒い小さな機械を外す。発信器だ。
「これは……」
女はそれを床に落として踏みつぶすと、アクセサリーをグール達へ投げ返した。
そしてそのまま立ち上がり踵を返す。
「無粋な輩が乗り込んできそうね……興醒めよ」
言うが早いか、女の姿は再び闇に紛れてしまった。



「――?」
「どうしたんだ、ダリルさん?」
モバイルを弄っていたダリルがふと手を止めたのを見て、正悟が問いかける。
「いや……消えたんだ」
「うん?」
「発信器がひとつ、壊されたらしい」
「壊された?」
「ああ。同じ場所に集っていたはずの光が、ひとつ消えた」
「――それは」
もしや、と正悟は思いいたって息をのんだ。ダリルも頷く。
「きっと、気付かれたんだろう。おそらく、『首謀者』に」
「首謀者……」
「あれだけのグールを好きに扱えるんだ、おそらく力の強いネクロマンサー……だろうな」
「え……」
「いや、だが決めつけもよくないか……。術者の集団という可能性もあるからな」
「……すべては行って戦ってみるまでわからないってことだね」
そういうことだ、とダリルが頷く。
時折入る通信に位置を連絡しながら、ダリルは広がる違和感を抑え込んだのだった。





「アクセサリーを出しなさい。押収よ」
斬り伏せたグールに刀を向けながら、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が冷淡な声で告げた。
差し出されたアクセサリーを受け取って眺め、ポケットへとしまう。
(もっと欲しいな)
ガートルードはグール達を斬り、蹴り飛ばしながらそんなことを考えた。
判官として秩序を守るべくアジトに入り込んだガートルードだったが、美しいアクセサリーを見て自分も欲しいと思わなかったわけではない。
むしろ強く欲しいと思ってしまった。
ひとつだけ拝借したらあとのものはすべて返すつもりだったが、噂の機晶石のアクセサリーは想像以上に美しかった。
だから、もっと、と願ってしまったのは無理のないことだと自分に言い聞かせ、ガートルードは奥へと進んでいった。
だが、それがいけなかった。単身乗り込んでいったガートルードに対して、相手はモラルも常識もないグール達。
集団に取り囲まれるのに、そう時間はかからなかった。
次第に防戦一方になっていくガートルードは、それでも隙を見て逃げようとする。
けれど逃げる先からグールが向かってくるのだ。舌打ちをして角を曲がると、ある部屋から荒々しい銃声が聞こえてきた。
「ヒャッハー! 捕まえたぜ!」
銃口をグールに突きつけながら、秋月 九蔵(あきつき・きゅうぞう)はにやりと笑んだ。
「てめぇらに言葉が通じるとも思えねぇ。だからさっさとその手に持ったアクセサリーを寄越しな」
言ってグールの手からアクセサリーを奪いながら、距離をとって頭部に狙いを定める。
取り返そうと向かってきたグールを片っ端から撃ちながら、次の部屋へ金庫を探しに行こうと敵の合間を抜けようとする。
けれど、いつの間に仲間を呼んだのか、グールの数が目に見えて増えていった。
「チッ、何でこんなにいやがるんだよ」
「奴らの数はかなり多いですよ!」
背後に回ったグールを斬り伏せながら、ガートルードは叫んだ。
一瞬驚いた様子だった九蔵だったが、すぐにそれどころではないと悟ったらしい。
銃弾を再装填して撃ち放しながらじわじわと退路へ向かう。
しかし、多勢に無勢。一人が二人に増えたところでさして変わりはなかった。
が、その瞬間。
轟音が辺りに響き渡って、壁が壊された。
「悪者は此処か!!」
……豪快な登場をした三船 敬一(みふね・けいいち)によって、グールどころか九蔵たちの動きも止まる。
それを意に介した風もなく、敬一はグール達に機関銃を向ける。
それが放たれる寸前に九蔵とガートルードはその場を離脱。無作為に放たれた銃弾はグール達を貫いた。
「……もっと穏やかに『侵入』すべきだと思うけどね」
「だがそのおかげでわらわたちがやすやす侵入できるのであろう」
敬一の開けた穴から這入り込みながら、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)はさっそく技を放つ。
「うじゃうじゃいますね……」
サイコキネシスで足止めさせながら紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は呟く。
頷いた唯斗が足止めされたグールを鳳凰の拳で一撃に付し、通りに出て辺りを見回した。
「ほら、おぬしたち平気か?」
ガートルード達を助け起こしながら、エクスが問うた。
「ここから先は少数では無謀だ。せめて皆が合流するまで共に来るのだな」
「上手くやってくれてるといいんですけどねぇ」
どこかのんびりとした口調で言いながら、先に進んで行ってしまった敬一を追っていく。

「っ、くしゅ!!」
時を同じくして、別経路で侵入していた氷室 カイ(ひむろ・かい)が小さなくしゃみをした。
「マスター、風邪ですか?」
「いや、噂でもされてんだろ」
心配そうに問うサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)に手を振って答えながら、カイは剣を構えなおした。
「それより、気を抜くなよ。どれだけ化け物がいるかわからないんだからな」
「もちろんです」
「カイ様、前方から気配が」
レオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)の言葉に頷いて身構えながら、先へ進む。
飛び出してきたグールを一閃、すかさず次の攻撃へ態勢を整える。
その隙を逃さず飛びかかってきたグールはベディヴィアが刺突し、その上体をカイが切り捨てる。
態勢を立て直しかけた二人の背を狙う一体はレオナが撃ち止める。次いで前方から集団で向かってくる足元へ威嚇射撃。
瞬時怯んだ数体をまとめて、ベディヴィアのロングスピアが貫いた。
「上々だ」
「思ったよりも少ないですね。紫月様たちがうまくやってくれているのでしょうか」
「どうかな」
「でも、おそらくそろそろですね」
「ああ、俺たちの仕事はそれまでに道を綺麗にしておくことだ」
「了解いたしました」
そんなことを言いながら先へ進んでいくと、すぐに辺りが騒がしくなる。
「どうやらご登場のようです」
「よし、合流するぜ」
「はい」
そう言って三人は騒がしい方へと足を向ける。
すると、さっそく思い思いに戦う生徒たちが集っていた。
「遅ればせながら、とうちゃーっく!」
「ここに来たからには手加減はしないよっ」
「気を抜いてはいけませんよ、みなさん」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がうきうきとした様子で言い、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も意気揚々と武器を構える。
それを嗜めながら、カムイ・マギ(かむい・まぎ)は辺りを見回した。
「闇雲に倒して回ってもきりがありませんね……」
「倒すのもそうだけど、アクセサリーを取り戻さなくちゃね」
東峰院 香奈(とうほういん・かな)の言葉にカムイが頷くと、香奈がノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)を振り返る。
「しーちゃんと信長さんが囮になってくれている間に私達は奪われたアクセサリーを取り戻そうよ」
「そうね、忍たちは先に行っちゃったし……。というわけで私たちは金庫を探してくるわ」
「了解! じゃあ私たちは先に進んで首謀者ひっ捕えちゃお!」
「ひっとら……まぁ、そうですね」
美羽の言葉に引っ掛かりながらも頷いて、手分けして探るべく四方に散ることになったのだった。
「手加減はいらないよね! 行くわよ真人!」
「ええ、行きましょう!」
御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の声を合図にバーストダッシュ。
ギリギリの間合いで氷術を放つ。衝撃で開いた所にセルファが斬り込み、数体をまとめて刺し貫いた。
その刃にセーブした雷術を叩きこむと、踊るように手足をばたつかせたグールが数拍後動きを止める。
だがその開いた背を逃さずグールが襲いかかってくる。
「く……ッ」
「キミの相手は私だよっ」
そんなグールを流れるような回し蹴りで蹴り飛ばしながら美羽が笑んだ。
崩折れたグールの肩を踏んで飛翔、そのままその後方にいたグールの頭部に踵を決める。
「私のぱんつ見たでしょ! 有罪!」
スカートを軽く押さえて降り立ちながら、意識のないグールにビシッと指をつきつける。
遠くから襲ってくるグールの頭を撃ちぬきながら、レキが朗らかに笑った。
「美羽ちゃん楽しそうだなぁ」
「笑ってる場合じゃないでしょう、レキ」
レキが撃ちやすいように近場の敵を片付けていたカムイのため息まじりの声に、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は苦笑した。
「油断は禁物だけど、やる気があるのは悪いことじゃないよ」
「忍さん……」
「それよりも、香奈たちがうまくやってくれるといいんだけど」
案じながらもそう口にした忍のソニックブレードは、綺麗にグールの頭と胴体を切り離した。





「アクセサリーはどこだろうな」
「金庫ないねぇ」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、あたりを見回しながらてくてくと通路を歩いていた。
「それにみんないないね。戦いを覚悟してきたのに、ボク拍子抜けしちゃた」
「まぁ、でもいいことだろ。騒ぎ起こしたくないしな」
「それもそっか! それにしてもどこだろうねぇ……」
噂を聞いてアクセサリーを探しに来たものの、見つかる気配は一向にない。
それどころか見張りにすら遭遇しないときて、二人は首を傾げながら部屋を見て歩いているのだった。
「もう少し奥に行ってみるか……」
「あら? 何をしてるんですか?」
「!!!」
そんな二人の背後から、突然声が聞こえた。
エヴァルトが思いっきり振り返ると、そこには香奈とノアが立っていた。
「こんなところで……何してるのさ」
「えっ? ボクたちは金庫を探しに来てるんだよ」
「ああ、ほ、ほら、エメネア達が困ってるって聞いたからな!!」
(本当はいくつかちょろまかして売り払うためだけど)
内申冷や汗をかきながらエヴァルトが口にすると、ノアはふぅん、と鼻を鳴らした。
「じゃあ、目的は私たちと一緒ね」
「そうだね、それなら手が多い方が安心だし、一緒に探しましょう」
「えっ」
「えっ、いいの! じゃあそうしよう!」
エヴァルトが断るより早く、ロートラウトが同意する。
困惑するエヴァルトを置いて、少女三人はさっそく探索を再開した。
お互いが見てきた部屋の情報を共有し、奥へ進みながら一つずつ確認していく。
と、鍵が複数つけられた部屋を見つけた。
「これは……」
「わかりやすいねぇ……きっとここだよ!」
あまりにもあからさまな様子に、ロートラウトが張り切って鍵を壊す。
パワーリストをつけた機晶姫にとっては造作もないことだ。
派手な音を立てて扉を開けると、果たしてそこには大きな金庫があった。
「見つけた!!」
「マジかよ!!」
「……中身も無事みたいよ」
金庫と、発信器のレーダーを確認した香奈が頷くと、ノアが二人を振り返る。
「よーし、それじゃさっそくこれを持って外に出ましょ」
「それなら任せて! ボクが運ぶよ!」
「そう、だな。ロートラウトに任せるか……。無茶はすんなよ」
「うん、大丈夫!」
「しーちゃんに通信を飛ばしておくね。あとは脱出すれば完璧!」
そう言って香奈が通信を飛ばすと、四人は金庫を抱えてアジトの出口を目指す。
「こっち側に出口なんてあるの?」
「あるよー、ボクたちこっちから来たもん」
「裏口みたいなのがあるんだよ」
「そっか、それじゃあ急ごう!」
エヴァルトたちについて走っていると、背後から悲鳴が聞こえた。
一瞬足を止めて振り返ると同時に、忍から通信が入る。
『――できるだけ早く逃げろ!!』
叫ぶように言って切れたそれに、顔を見合わせた香奈とノアは、次の瞬間呆気にとられるロートラウトとエヴァルトの腕を引いて走った。
「早く逃げましょう!」
「あのうつけめ!!!」
何が何だかわからない、という二人を連れて、襲ってくる火炎から逃げるために二人は必死で足を急がせるのだった。

「……よし、向こうは上手くいったみたいだ」
香奈からの通信を切った忍は、傍で暴れていた織田 信長(おだ・のぶなが)を振り返った。
爆炎波を纏わせながらグールを斬り伏せていた信長は、それを聞いてふむ、と頷いた。
「それではそろそろ終わりにしてやろう、だが貴様らを野放しにはしておけぬ」
「え、」
「面倒じゃ、アジトごと焼き払ってくれるわ」
「の、信長……ッ」
忍が止めようとするのも間に合わず、第六天魔王の力が発動。
あちこちから炎が上がる。
「ちょっ、ああもう!!」
手遅れだと悟った忍は舐めるように襲ってくる炎をシールドで防ぎながら、脱出を呼び掛ける。
「みんな!! ここは危険だから早く脱出するんだ!!」
「でも、盗品は!」
「ノアたちが持ち出してくれてる! それよりも早く!!」
今だ暴れようとする信長を連れながら、忍たちはからがらアジトを抜け出したのだった。