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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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第三章



「折角エメネアがアクセサリー作ってくれたんだ、囮張り切ってくれよ」
御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はパートナーである綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)にアクセサリーを渡しながらそう告げた。
「もちろんどすえ」
「無論出来ることはしよう。それにしても見事じゃのう」
受け取るなりそれを身につけた風花とアルスは、ばっちり上から下までおしゃれをしている。
「紫音、指輪は似合うてはりますか?」
「うん、似合うよ」
「わらわにも似合っておるじゃろう」
「二人ともよく似合ってる。これなら人目も引くしすぐに盗賊も引っかかるだろう」
うんうんと頷きながら、紫音は改めて二人を促した。
「それじゃあ、行こうか」
「うむ、参ろうか」
「紫音と出かけられるなんて、囮も捨てたものではありまへんな」
ふふ、と風花は笑みながら紫音の後を追う。そして三人は作戦通り街の中へ溶け込んでいったのだった。



「俺は警察だ、証拠品としてそのアクセサリーを押収する」
そう高らかに宣言した桜田門 凱(さくらだもん・がい)は、エメネアに作ってもらったアクセサリーを手にした少女に手を差し出した。
訝る少女になおもアクセサリーを渡すように迫る凱は、拾いもののエンブレムを見せた。
「クィーン・ヴァンガードとして、この事件を放っておけない。協力願えないだろうか。なに、ものの一週間程度で返すから」
「で、でも」
そんな様子を遠巻きに見張りながらヤード・スコットランド(やーど・すこっとらんど)は、携帯を耳元に当てていた。
「はい、……はい、そうです、街の中で、はい。すぐにお願いします!」
最後に強く念押しをして、本当の警察への電話を切ったヤードは、はああああああと大きなため息をついた。
「あのバカめ……警察を名乗るとは本当の下衆だな……」
もう一度視線を向けると凱はなおも少女に迫っていた。
「だがこれで逃げられんぞ、偽警察がいると110番してやったからな」
と、間もなく辺りが騒がしくなる。
「本物の警察が来たか……よし」
ヤードが頷くのと時を同じくして、リネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が騒ぎに気付いて辺りを見回した。
「何かしら……」
「リネン、見て! あそこ!」
飛空挺から見回っていたヘイリーが下方の凱を指差した。
「えっ」
「見るからに怪しい男が女の子に迫ってるわ」
「まさか……盗賊?」
「行くよッ!」
「うんっ!」
言うが早いか飛空挺から飛び降りようとするリネンの援護のため、ヘイリーは弓を構えた。
飛び降りたリネンが、ばっと少女の前に立ちふさがる。
「何を……してるの」
「何を、だと? まさか俺が偽物だとばれたのか?」
「偽物……?」
「あっ! しまった自分から偽警察だとばらしてしまった!」
「偽警察?」
「リネン! 盗賊だろうが偽警察だろうが盗人はほっといちゃだめよ!」
「う、うん」
「やべぇ! 逃げるが勝ちってな!」
「あっ」
「――きゃああっ!!!」
と、リネンが身構えた瞬間、別の方向から悲鳴が上がった。
次いで聞こえる、「盗賊だ!!」という声はトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)のものだ。
「てっめぇえええ! 返しやがれっ、そいつはトマスが俺に贈ってくれたもんだっ!!」
ぐるるるる、と牙をむきながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が爪を出す。
トマスが自らに贈ってくれたイヤーカフを取り返そうと、襲ってきた盗賊に突っ込んで行こうとする。
だが魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)がそれを制した。
「テノーリオ、落ち着きなさい。セーブしてなるべく泳がせなさい」
「はぁ? でも……」
「そうだよ、落ち着いてテノーリオ。街の人を巻き込んじゃだめだよ」
「……わかったよ、手加減してやらぁ」
「それでこそテノーリオです」
「ハン、グール相手じゃ本気なんて出さなくてもいいからな」
そう、トマスたちの前に現れたのは、数体のグールだった。
きっと彼らが件の盗賊団だろう。
テノーリオのクマ耳についていたアクセサリーを掻っ攫ったグールは、距離をとって逃げようとする。
追いかけようとしたテノーリオの前に立ちふさがった他のグールが、牽制するようにテノーリオに襲いかかってくる。
武装したテノーリオ達に、手加減は必要ないと判断したらしい。
雄叫びのような声を上げて飛びかかってくるグールに自慢の爪を一閃、怯んだ隙にもう一撃を叩きこむ。
ぐえっと見にくい声を上げて後ろへ飛び退ったグールは、そのまま逃げるように踵を返した。
「待ちやがれっ!」
「テノーリオ、深追いは禁物です! 此処は市街地ですよ」
「……チッ」
「問題ありません、上々です。あのイヤーカフには発信器を取り付けてありますからね」
そう言って集中の小型の機械を見せる魯粛に、トマスは笑顔を見せた。
「流石先生、あとはこれを辿っていけばいいんだね」
「よーし、さっさと追いかけてとっちめてやらぁ」
鼻息荒く肩をぐるりと回したテノーリオが足を踏み出すのを、今度はトマスが制した。
「待ってテノーリオ、通信だよ」
そう言って携帯に目をやったトマスがすぐさまそれを通話状態にして耳に当てる。
作戦の指示を出しているマクシベリスからのものだった。
「――え……っ」
しばらく話を聞いていたトマスは小さく驚いたように声を上げ、通信を切った。
「先生、テノーリオ。一度みんなのところに戻ろう」



「……こちらも釣れたようですね」
何気なく猫を撫でながらエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がぽつりと呟いた。
背後に迫る気配は決して穏やかではない。
意を決して振り返った瞬間、髪飾りで纏められていた髪が解けるとともに何者かに飛びかかられた。
「――ッ!!」
身を庇おうと腕を上げた瞬間腕からペットの猫が逃げる。
最初の一撃をいなして相手を見ると、なるほど『肌色の悪いゾンビのような気味の悪い集団』だ。
各々に武器まで構え複数で襲ってくるなど、流石に用意周到だ。
これでは今まで被害にあった一般人が太刀打ちできなかったのも頷ける。
「グールの集団、ですか……気味の悪い」
エオリアは後退りながら周囲に視線を巡らせた。
人通りが少ないとはいえ、此処は街の中。下手な手を打つことはできない。
当初の作戦通り、エメネアに作ってもらった黄金の髪飾りを持って逃げるグールを追うべく追撃をかわす。
少し離れた位置から飛び出してくるルカルカ・ルー(るかるか・るー)の姿を視界の端におさめると、エオリアはグールを追って行った。
「こっからはルカが相手よっ!」
街中だからと武器を捨て、拳で殴りかかりながら、ルカルカは高らかに声を上げた。
グールの顎を蹴り上げ、鳩尾を殴り、一度間合いを取って足を払う。
数体を相手に立ち回りながら、エオリアの去った方を見る。
「上手く追ってよね〜、エオリア」
「余所見をするな、ルカルカ!」
瞬時気を抜いたルカルカの頭上から声が上がって、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の放った攻撃が背後にいたグールに当たる。
「およ」と上を見上げながら近づくグールをぶん殴り、
「ごめんごめーん」
とルカルカは明るく笑ってみせた。
「此処は私に任せて、エオリアと一緒にあいつらを追ってよ!」
「もちろん、言われるまでもないよ」
「それでこそエース!」
「あくまでもここが街中だということを忘れるなよ」
エースの隣から顔を出したのはルカルカのパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だった。
モバイルを片手に冷静な声で忠告する。
「一般人には危害が行かないように配慮するんだ」
「了解っ☆」
「俺は他の面々へ状況を確認する。此処は任せたぞ」
「頼んだぞ、ルカルカ」
「は〜いっ」
ルカルカの元気な返事を聞いて、二人を乗せた飛空挺は遠ざかっていく。
「さぁて、少しは張り切っちゃおうかな」
ルカルカはそう楽しそうに口にして、身構えるように姿勢を低くしたのだった。



「いやぁ、お兄さんたち顔色悪いなぁ」
襲ってきたはずのグールが面食らうほど明るい声で、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は口にした。
「そんなに暗い顔してちゃ乗り切れる不景気も乗り切れへんわー。擬態も出来ひんしドロボウするのやって一苦労やろ」
「ガ……」
「そんな呻かんと嘆かんと〜。貶そうってんじゃないんやから。あ、そうだ、俺ええ化粧品持っとんで。何で持ってるかってのは気にしたら負けや、お兄さんたちみたいに暗い顔色に悩む人に会った時の為やから。ほ〜ら、じっとしといてや」
そう言ってまくし立てると、口も行動も挟めないでいるグール達に、どこからともなく取り出したおしろいをはたいた。
「はい、ぱたぱたぱたぱた〜」
「あの、泰輔さん……」
「レイチェル、ちょっとだけ黙っといてや。今こん人らを別嬪さんに仕立て上げとんのやから」
パートナーであるレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)の声も耳に入らないというように真剣にアイシャドウを重ねる泰輔には、ふざけている様子は微塵もない。
レイチェルは思わず黙りこんでしまった。
「できたで!」
はい! と満足げに手を離した泰輔は、不自然にけばい化粧を施されたグールを満足そうに見た。
「いやぁ、別嬪さんや。ほら、見てみぃ」
小さな鏡をグールに向けてやりながら、泰輔は人好きのする笑みを浮かべた。
「あの……」
「シッ」
話しかけようとするレイチェルをそっと制し、泰輔はグールに化粧品を差し出した。
「このセットあげるわぁ。お友達さんにも試したって。そうしたらみんな別嬪さんになるで! な、これ秋の新色やから」
一瞬顔を見合わせたグールの手にそれを押しつけながら、少しだけ困ったように眉を寄せる。
「これで見逃したってや〜。あれやろ、これでうまいこと擬態したら俺ら以外にもようさん騙されて宝石くれんで!」
な! と念を押して、グールを流してしまった泰輔は、そのまま追い返してしまった。
「あの、これはいったいどういうことですか? あれはどう見ても件の盗賊団でしょう、慣れ合うなんて……」
「うん? ああ、あれでよかったんやって。今俺たちは二人しかおらんやろ。それで次から次へと仲間呼ばれたらかなわんからな」
「ですが、下手を打てばアクセサリーを盗まれるだけじゃ済まなかったのですよ!?」
「やからこそ、や。相手が何人おるかもわからんのに戦ったら、街の人を護りきれる自信がないからな。あの化粧セットには発信器仕込んであるからな。これをあとはダリルさんかマクシベリスさんに投げたら俺たちの仕事は終わりや」
「あ……」
「ほな、デートの続きといこかー」
そう言って泰輔はにこやかに笑って、レイチェルの手を取ったのだった。