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秋の実りを探しに

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第1章 本日は晴天なり

 「お弁当はちゃんとディーさんにお願いしましたし、ハンカチとちり紙と、おやつの袋と……うん、完璧です!」
 シャンバラ教導団の水渡 雫(みなと・しずく)は、枕元に用意した荷物の中身を一つ一つ確かめ、満足そうにうなずいた。
 「ああ、楽しみです楽しみです楽しみです! てるてる坊主を吊るしましたから、明日は絶対晴れですよー!」
 まだかなり早い時間だが、寝坊をしてはいけないと、雫は灯りを消し、早々に布団に潜り込んだ。
 だが。
 「……ね、眠れません……」
 何度も寝返りを打っていた雫は、数十分後、目をぱっちり開いて闇を見つめた。テンションが上がりすぎて、一向に眠くならない。
 「ひ、羊でも数えればどうにか……?」
 雫は無理やりにでも寝てしまおうと目をつぶり、頭の中で羊を数え始めた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 翌日、『秋の実り収穫ツアー』の当日は、雫のてるてる坊主のおかげか、抜けるような快晴になった。
 集合時間になり、参加する生徒たちが『ミスド』の前に集まって来る。店の前には既に、今日のために借りた馬車が数台停まっていて、ミス・スウェンソンや店員の女性たちが、御者の男性に手伝ってもらって荷物の積み込みをしていた。
 「アイリっ! 久しぶりー!!」
 蒼空学園の久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、荷物の積み込みを手伝っている直立猫型ゆる族のアイリを見るなり、駆け寄って抱きしめようとした。
 「わっわっ、学生さん、危ないニャ!」
 だが、木箱を持っていたアイリは慌てて飛び退いた。
 「お久しぶりなのは嬉しいけど、荷物を持ってる時はなしにして欲しいニャ」
 「ごめーん、あんまり嬉しかったから……。荷物運び手伝うから、馬車に乗る時は隣に座らせてよねっ?」
 沙幸はアイリに向かって手をあわせる。そこへ、
 「独り占めなんてずるいわっ! って言うか、世界中の可愛いものはみんなワタシのものよっ!」
 叫びながら駆け寄って来た蒼空学園のアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が駆け寄り、沙幸とアイリの間に割って入った。
 「ワタシはアルメリア・アーミテージ。あなたはアイリちゃんて言うのよね?」
 「ニャ……」
 その勢いに気圧されて、おずおずとアイリがうなずく。アルメリアはにっこりと笑った。
 「お互いに自己紹介したんだから、もうお友達よねっ? お友達なんだから、もふもふしても問題ないわよねっ!?」
 「も、問題あるニャ! 荷物を積む手伝いが先ニャ!」
 アイリはぷるぷるとかぶりを振った。
 「『にゃんこカフェ』の時だって、お仕事中の仔をいきなりもふっちゃいけないことになってるニャ。馬車に乗る時に、一人ずつ両側に座ることにしたらいいニャ!」
 「そうだよっ、みんな出発を待ってるんだから、準備が先だよっ」
 自分がさっきしたことをちょっぴり棚に上げて、沙幸が言う。
 「わかったわよ……でも、馬車に乗ったら存分にもふらせてね?」
 しぶしぶアルメリアはうなずき、沙幸と一緒に荷物運びを手伝い始める。
 「ちょっと日差しが強いわね。日傘を用意した方が良かったかしら」
 目の上に手のひらをかざして空を見上げた百合園女学院のカナ・エイルメリア(かな・えいるめりあ)の肩を、『ミスド』の店主ミス・ヨハンナ・スウェンソンがつついた。
 「カナさん、その服装で行くの?」
 そう言われたカナの服装は、超ミニスカートかつ襟ぐりが大きく開いたメイド服で、他の生徒たちからは少し浮いている。
 「ダメかしら?」
 カナは自分の服を見下ろす。普段からこの服装なので、本人は別にまずいとは思っていないらしい。
 「そんな格好で行ったら、虫に刺されたり、草の葉や小枝で肌が傷つくかも知れないわ。ね、着替えましょう。私の服を貸してあげるから」
 そう言うミス・スウェンソンも、普段のブラウスとスカートではなく、少し厚手な長袖のワークシャツにジーンズ、ブーツという格好だ。
 「そ、そう……ですね」
 ミス・スウェンソンに諭されて、カナは彼女と一緒に店の奥に引っ込み、長袖のシャツにジーンズという服装で戻って来た。
 「荷物は馬車に積み込んだ? じゃあ、出発しましょうか」
 ミス・スウェンソンの言葉に、参加者たちは分かれて馬車に乗り込んだ。


 郊外の森までは、ゆっくり馬車を走らせて、一時間ほどかかった。
 「ほら、お嬢さん! 着きましたよ!」
 パートナーのシャンバラ人ディー・ミナト(でぃー・みなと)に肩を叩かれて、水渡 雫ははっと目を開いた。
 「あ……私、寝てたんですね……」
 「うん、よだれを垂らしてね」
 もう一人のパートナー、吸血鬼ローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)がふっと笑う。
 「えっ、よ、よだれ!?」
 雫は慌てて口元に手をやった。
 「てめぇ、口から出任せ言うんじゃねえ! お嬢さん、大丈夫ですから!」
 慌ててディーがローランドに怒鳴る。
 「……まあ、居眠りしちゃったのは私ですけど……うー……」
 ディーの叱責を気にせずに微笑しながら馬車を降りていくローランドの背中を上目遣いに睨み、唸りながら雫は馬車から降りた。
 馬車が停まったのは、森を突っ切る道の途中だった。木の間から小さな湖が見える。ここは、空京の人々が時々釣りをしに来る場所ということで、湖に向かって、人が踏み固めた細い道が出来ていた。
 「湖のほとりに草地があるから、そこに荷物を置きましょう。みんな、手伝ってくれる?」
 ミス・スウェンソンに言われて、生徒たちは馬車から荷物を降ろし始めた。草地にレジャーシートや布などを広げ、荷物を置く。
 「三時になったら、ここに集合することにしましょう。それまでは自由に過ごしてちょうだい。お店の子たちが交替で荷物番をするから、大きなものはここに置いて行って大丈夫よ」
 言いながら、ミス・スウェンソンはキャンプ用の折りたたみテーブルを広げ、その上にバスケットを置いた。
 「ここにお菓子を置いておくから、ご自由にどうぞ。これからお湯を沸かすから、コーヒーが飲みたい人は荷物番の子に言ってね」
 はーい、と荷物を下ろしている生徒たちから答える声が上がる。
 「ねえねえ、アイリは木の実を取りに行くんでしょ?」
 馬車の中でずっとアイリにくっついていた久世 沙幸が言う。
 「そうニャ。店長さんや、お店のお姉さんたちのお手伝いをするのニャ!」
 アイリは顔を上げ、鼻をひくひくさせた。かれらミャオル族は、匂いにとても敏感なのだ。
 「あっちの方からいい匂いがするのニャ。行ってみるニャ?」
 「もっちろん、行ってみるニャ!」
 元気良く答える沙幸とアイリ、それを追いかけるアルメリア・アーミテージを先頭に、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)とパートナーのセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とパートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)たちがぞろぞろと森の中に入って行く。ベリー摘みや木の実集めに来た他の生徒たちも、ミス・スウェンソンや店員たちと一緒に、あるいは生徒たちだけで……と、三々五々森の中に入って行く。かと思うと、釣りの道具や野外用の調理道具を取り出す生徒もいて、百人あまりの参加者は、あっという間にばらばらになり、思い思いに過ごし始めた。