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リアクション
第3章
『歩兵部隊、前進! 速やかにゴブリンたちを掃討してください!』
「そういうわけだ。頼むぞ、部隊長」
金本 なななの通信に応じて、無限 大吾が通信を送る。そう告げられた当の本人……テルミ・ウィンストンは、銃を手にして進みでた。
「この時点での作戦は、健闘先輩の案を採用します」
「つ、つまり?」
戦場のあちこちでかわされる通信。インカムから聞こえてきたテルミの指示に、竜螺 ハイコドは首をかしげた。
「つまり、突撃だぁー!」
先陣を切って、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が剣を手に突き進んでいく。
「ちょ、ちょっと、先に行かないでくださいってば!」
天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が慌てたようにその後を追う。
テルミとハイコド、そして白銀 風花(しろがね・ふうか)が一気にゴブリンのただ中へ突っ込んでいく……というのは、文字通りゴブリンたちが密集する地形の中央、ということだ。わざとゴブリンたちに囲まれて、押し寄せてくるゴブリンを一気に倒す! ……というのが、勇刃の作戦なのだ。
「あまり、無茶をして欲しくはないのですが……」
「でも、確かに、数を倒すならそれが一番早そうだけど!」
セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)と熱海 緋葉(あたみ・あけば)が、前方の仲間たちが切り開いた道を駆けるようにして突き進んでいく。そして、
「スペースを確保してください」
テルミが指示をする。ななながポイントを伝え、告げられたとおりの場所へ走る。
「任せろ!」
「どくんだ!」
勇刃が剣を振るって、ハイコドが盾を押しやり、ゴブリンたちを突き飛ばす。その背後は、それぞれ咲夜と風花が守っている。
「セレア、それにテルミ。こっち!」
地面ごと敵を吹き飛ばしながら、緋葉がセレアの手を引いて走る。
二十体は下らないゴブリンたちのど真ん中、半径3mの空間を確保。契約者とパートナーたちがなだれ込む。
セレアを中心として、勇刃と緋葉、ハイコドと風花、テルミと咲夜がそれぞれに背中を向け合って六角形を作る。
「全員、自分の前に居る敵に集中してください。セレアさん、危険な場所があったら援護を」
「はい、お任せください!」
じりじりと距離を詰めるゴブリンをにらみつけながら、テルミが指示を飛ばす。彼らの体力が尽きるか、ゴブリンが全員倒れるか。それだけの勝負だった。
「それぞれ、自分の背中側にいるやつの死角を守ってるんだからね。ちゃんと考えて戦うのよ」
緋葉が自分の背中に向けて言う。
「撃ち漏らしも許さないぞ。全員倒す!」
勇刃との間に、めらめらと目に見えない炎が立ちのぼっていた。
「ううん? やはりもっと大きな盾じゃないと、こういった戦いには向かなんですかね」
ハイコドが自らの手に持ったバックラーを眺め、首をかしげる。
「あまりムキにならずに、剣もお使いになってくださいませ」
弾幕を張るように、近づくゴブリンに向けて銃を放ちながら風花が言う。
「仕方ない。いつも通りやるとしますか」
ハイコドがすらりと剣を抜いた。
「すみません、テルミさん。私がお守りすることになってしまって」
咲夜が眉をたわめて呟く。背中を向けたままのテルミは、見えていないと分かって居ながらも首を振った。
「むしろ、光栄ですよ」
「あんたも自分のパートナーとこうやって一緒に戦えるぐらい、信頼してやんなさい」
緋葉がテルミを肘でつつき、
「来ますよ、気を抜かないで下さい」
ハイコドが小さく告げた。テルミは銃をしっかりと前に突き出した。
「全員、全力で、敵を全部倒せ!」
極めて合理的かつ理不尽な命令を叫んだ。
分断地点。分断に貢献した刹那・アシュノッドらの撤退に合わせて、日玉 九白はその地点へと降下、即座に先頭を開始した。
『分断地点の歩兵は左右に展開、前衛と後衛を交わらせるな!』
小暮 秀幸の指示が飛ぶ。九白はちょうど分断地点の真ん中で、左右に分かれた隊全体を見渡せる位置にいた。
「はああっ!」
光条兵器を振りかざし、光を放ってゴブリンたちを打ち倒す。
「九白様には近づかせません!」
くさびを打ち込むように、パートナーの緋王 美剣(ひおう・みつるぎ)がメイスを手にゴブリンを押し込んでいく。分断はなおも有効だ。
「新入生の前でかっこうわるい所は見せられませんよ。お手本になるような戦いをしましょう!」
前衛の最後尾に向かって、神崎 輝(かんざき・ひかる)が剣を手に突っ込んでいく。
「あららー、張り切っちゃって」
その後方から、炎を放って援護するシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が面白がるように肩を揺らした。
シエルと背中を合わせの逆方向には、一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が砲を向け、目につくゴブリンに向けてひたすら射撃。
「す、すごいですね……」
彼女らの戦いに守られるように安全な位置からの攻撃を続けながら、思わず九白は呟いた。同様にゴブリンたちに銃を乱射していた無限 大吾が、彼女の居る地点まで下がってきた。
「戦い慣れてるというだけさ。よく見ておいてくれ」
「は、はい!」
九白が答える。右へ、左へ、忙しく光条兵器を撃ち分けながら、戦いを見守る。
「……つうっ!」
美剣が、飛び出してきたゴブリンの突撃を受けて肩を斬られた。反撃でゴブリンを打ち倒したが、傷が浅くない。
「美剣姉さま!」
「下がるように指示を。得意な者に任せるんだ」
「は、はい。……一旦、ここまで待避を。誰か!」
「任せなさい! 瑞樹ちゃん、こっちよろしく!」
シエルが答え、瑞樹と背中合わせのまま、くるりと位置を入れ替える。そのまま賭け戻ってくる美剣に手をかざし、癒しの魔法を唱えた。
「今度は、一気に行くよ!」
ラインが手薄になったことを察したのだろう。輝が肩につり下げたキーボードに手を伸ばす。
「援護射撃、と言っている場合じゃありませんね」
瑞樹が体勢を低くして、肩に装着されたミサイルポッドを全開。一気に撃ち放った。
左右で同時に、猛烈なエネルギーが弾ける。ミサイルの着弾をリズムに、鍵盤が情熱的な力と貸し、ゴブリンたちを打ち据える。
「使ってくれ!」
大吾が背に負ったリュックを降ろす。さすがにミサイルは積んでいないが、瑞樹が使える弾薬が満載されている。
「ほあー……」
九白はその光景に、驚きと羨望の入り交じった目を向けていた。フォローに次ぐフォロー。誰かが誰かを助ければ、それをまた誰かが助ける。皆で戦うということは、こういうことか、と、感動にも似たぞくぞくした感覚が背中を駆け上っている。
「ゴブリンの数が減ってきた。わたくしたちも、まだ戦えます」
治療を受けて傷を塞いだ美剣が言う。そのとき、九白は気づいた。誰よりもフォローされているのは自分たちなのだ。
だったら……
「先輩たちに恥ずかしい思いは、させられませんね!」
光条兵器を手に、美剣と頷き合う。二人は共に、先輩たちと肩を並べての戦いに戻った。
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