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リアクション
第4章
本部がゴブリンたちの襲撃を乗り切ったのとほぼ同時、戦車を中心に突撃してきたゴブリンの前衛は壊滅状態にあった。
限界を訴える分断部隊が後退。代わりに、一台のバイクがゴブリンたちの中に突っ込んでいく。
「ああ……っ、こんなに敵に囲まれながら、私は、私は!」
バイクはオフロードに向いたものではない。がくがくと激しく上下動する二輪車のうえで、レイシャ・パラドクス(れいしゃ・ぱらどくす)はぶるぶると身もだえしていた。
「お、おい、どうした!? 緊張で震えているのか!?」
志藤 天郎(しとう・てんろう)が後ろにつかまり、様子のおかしいレイシャに問う。
「……はっ! いけないいけない、これは秘密の楽しみ……偶然と運命を秤にかけたレーゾンデートルを削りながらのまさにデスゲーム。危うく、その陶酔に身を沈める所だったよ」
「何を言ってるんだ、君は。それより、魔術師の居る場所へ向かってるんだろうな!?」
「問題ないよ。奴の居場所は特定できてる。こっちが突っ込んでいく形だから、あらかじめ罠を仕掛けることはできなかったけど、とにかく、リーダーさえ倒してしまえば……」
と、二人が話をしていたとき。その眼前に一匹のゴブリンが飛び出してきた。
真正面からゴブリンとバイクが激突する。ゴブリンは跳ねられ、バイクは見事に横転。二人は地面に投げ出された。
「うあっ!?」
「今のは、まさか……」
遠くから、激しく何かを叫ぶ声が聞こえた。ちらりと見えたのは、羽根飾りやカラフルな布を巻き付けたような格好で飾り立てたゴブリンの姿。
「間違いない。奴の命令に従って、俺たちを止めるためにぶつかってきたんだ……」
レイシャは銃を、天郎は剣を手に、周りを見回す。
深く突っ込んだせいで、二人はすでにゴブリンに囲まれていた。
「新入生の二人が、軍団の中に突撃、孤立しているようです。すぐに助けに入らないと!」
エクレイル・アージスト(えくれいる・あーじすと)が、剣を手にゴブリンたちと向かい合いながら叫んだ。
「ボスを倒せば何とかなる、って思っていたんでしょうね。新入生らしいわ」
「私はそういう若さ、嫌いじゃないけど
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が軽口をたたき合うように言葉を交わす。
「しかし、彼女の言うとおりだ。助けに行くぞ」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、エクレイルの言葉に同調して告げた。
「はい。仲間を見捨てるわけにはいきません! フォローを!」
エクレイルが告げて、一気にゴブリンたちへ突っ込んでいく。
「そういう無茶、よくないわよ! 助けに言って自分もやられましたって言うんじゃ、仲間の足を引っ張るだけ……ああもう、仕方ないわね!」
突撃銃を手に、セレンフィリティがその後を追う。弾丸がばらまかれ、ゴブリンたちが恐れるように下がる。
「でも、この場合は悪い判断じゃないわ。あとは、もう少し回りを見る事ね」
セレアナが駆けだし、エクレイルの横に着く。その槍がどうとゴブリンをうがった。
「でも、仲間を見つけたらその場で戦おうなんて思わない事。いったんは、安全な所まで下がるのよ」
「俺たちはここだ。危険な状況だからって、押し込ませるわけにはいかない」
エヴァルトが拳を握り、ゴブリンに対峙する。
「はいはい。あの子たちが逃げてくる道を作っておかなきゃね」
弾倉を交換したセレンフィリティがその横に着く。一斉に飛びかかってくるゴブリンに向かって、一気に撃ち放った。
「数が多いわね! もう、近づかないで!」
拳銃を手に、レイシャがゴブリンに手当たり次第に銃を撃つ。
「ここは一旦、退くぞ! 突撃は失敗だ!」
天郎が言い、そのための道を切り開こうとした瞬間。ゴブリンたちの間から、猛烈な勢いで飛び出してきた。
「おおっ!」
「はあっ!」
天郎は剣を横に構え、飛び出してきた何かが振るう刃を受けた。がきん、と鋭い音を立てて2つの剣がかみ合う。
「……相手をよく見なさい」
セレアナがぽつりと告げる。天郎と剣を合わせた相手が、ハッとしたように天郎を見た。
エクレイルだ。同じ蒼空学園の生徒である。
「助けに来てくれたんだね!」
レイシャが歓声を上げる。
「そ……そうです。早く撤退を!」
ばつが悪そうに、エクレイルが剣を退いた。天郎は思わずはにかみながら頷く。
「そういえば、あなた……」
二人がゴブリンを切り開きながら作る道を走りつつ、セレアナがレイシャに言う。
「……何か、自分の中で楽しみを作っているようだけど。教導団員の前では、慎んだ方がいいわよ。連携を乱す、と判断されかねないわ」
「……もしかして、バレてる?」
「他の人と雰囲気が違うもの。何をしてるかは分からないけど、気をつけてね」
走ったせいか、息が上がりがちなレイシャは、「はーい」と気の抜けた返事を返した。
「なーつかしいなぁ、俺も昔はあんなんだったけか〜」
その様を遠くから眺め、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は思わず呟いた。
「って、見てるだけでいいノ?」
その肩に乗ったアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、思わずパートナーに聞いた。
「いいんじゃないの? ちゃんと撤退もできてるみたいだし、俺たちが何かする必要は無いと思うよ」
「そっカー。あ、でも、中と外から同時に攻撃する形になったから、魔術師の周りにいるゴブリンがだいぶ減ってきたネ」
「そうだな。ここからが見物だぞ」
手を額にあて、アキラが身を乗り出す。アリスが思わずずり落ちそうになって、その首にしがみついた。
すでにゴブリン魔術師の周囲に居るのは、数体の護衛のための兵士だけだ。魔術師は悔しげにぎりぎりと歯を鳴らしながらも、怒りを瞳に燃やしている。
「展開して、逃げ場をなくしてください!」
魔術師に対抗する分隊の指揮官に充てられた佐野 和輝(さの・かずき)が仲間を指示し、左右に広がる。が、ゴブリン魔術師が杖を掲げ、巨大な雷を放った。
「うわっ!」
「くうっ!」
和輝が弾幕を張るように弾丸を放つが、電撃の速度に構わない。取り囲んだ生徒たちが吹き飛ばされる。
「ギイイッ……!」
ゴブリン魔術師は屈辱と怒りに身を焦がしながら、さらなる呪文を唱えようとする。
「アニス!」
「ミーネ! 二発も撃たせるな!」
和輝とミハイル・プロッキオ(みはいる・ぷろっきお)が、ほぼ同時に指示を飛ばした。
「分かった!」
「お任せください!」
ふたりのパートナーであるアニス・パラス(あにす・ぱらす)とミーネ・シリア(みーね・しりあ)が返事を返す。
アニスの幻影がいくつも浮かび、ゴブリン魔術師にまとわりつく。驚いたゴブリン魔術師が杖を振り払おうとする間に、ミーネが念力で、ぐいとその体を押しやった。
「いまだ、スノー!」
「はい!」
槍を構え、スノー・クライム(すのー・くらいむ)が飛び出した。和輝の弾幕を背に負うように援護を受けながら、その槍を振るって、魔術師の護衛に当たっているゴブリンたちを薙ぎ払った。
「ギッ!」
苛立たしげに杖を構えるゴブリン魔術師。だが、別の一角からその背を指さすものがあった。
「今です、小麗殿!」
「いっくアルよ!」
荀攸 公達(じゅんゆう・こうたつ)が叫ぶと同時、物陰から王 小麗(わん・しゃおりー)がかけ出した。伏兵として様子をうかがっていたのだが、今までは護衛のゴブリンたちがいて近づけなかったのだ。
「はあっ!」
小麗が背中からゴブリン魔術師を打つ。魔術師は体勢を崩し、杖を突いて転がる。その勢いを利用して、契約者たちから距離を取ろうとするが……
「ドンぴしゃだ。残念だったな」
距離を取ろうと下がった場所には、銃を手にしたミハイルが、まっすぐに魔術師の額に照準をつけて立っていた。
「……おとなしくしてくれるな?」
和輝が告げた。どう見ても、逆らえる状況ではなかった。
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