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リアクション
本部を乗せたトレーラーは、可能な限り動かさないようにしよう、というのが秀幸の判断だ。この後には、首魁であるゴブリン魔術師との戦いもあるのだ。通信網の中枢である本部が下がれば、その分魔術師たちへの攻撃が遅れてしまう。
ゴブリンが一気になだれ込んでくる。手に手に武器を構え、負傷しているものも少なくない。
そのとき。
かちっ、どーん、と戦場で聞き慣れたリズムで爆発が起こる。地雷だ。踏みつけたゴブリンが吹き飛び、その他のゴブリンたちにも旋律が走る。
「設置した爆弾の位置は、今送ったデータの通りだ。踏んだ奴の責任までは取らないぞ」
氷室 カイが通信網に向けて言う。その姿は上空だ。ゴブリンの弓から逃れるように下がっていった。
「戦場は準備させて頂きました。あとは、煮るなり焼くなり、ご自由に」
そのパートナー、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が一礼。祝福の光が、本部に集まってきた生徒たちを包む。
「それじゃあ、行くぞ!」
高峰 雫澄が地雷原を恐れず、ゴブリンに向けて駆け込んでいく。攻め寄りも守りに優れる戦い方で、近づく敵を払っていく。
かちっ、どーん。かちっ、どーん。
あちこちで機晶爆弾が弾け、砂煙が舞う。晴れた頃には、爆弾に吹き飛ばされたものと、腹を打たれたものが並んで転がっていた。
「……ん?」
「どうした、楽進?」
何かに気づいて首をかしげる楽進 文謙(がくしん・ぶんけん)に、明神 穂月(みょうじん・ほづき)が問いかけた。
「いや、爆発の数と倒した数が合ってないような気がします」
「ラッキーヒットだろう。二枚抜きみたいなものだよ」
「そ、そうでしょうか?」
「それよりも、目の前の敵に集中! 本部には触れさせないぞ!」
「は、はい!」
二人が走るゴブリンを押し返す、その後ろで……
「こうやって、バレないようにやるのさ」
「……なんだか、地味な上に卑怯なやり方ね」
ゴブリンを打った手甲を手ではたきながら言う大助に、グリムゲーテがぽつりと漏らす。
「今回は新入生に花を持たせてあげるんだよ」
大助の答えに、つまらない、とでも言うようにグリムゲーテは唇を尖らせた。
ゴブリンが本部の直前まで迫る。最後尾についた安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が、武器を手にきっとにらみつける。
瞬時、本能的に足がすくむゴブリンに向け、クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が酸の霧を放った。あっという間に視界を塞がれ、ゴブリンがもだえる。
「はあっ!」
安芸宮 稔(あきみや・みのる)が剣を振るい、ゴブリンに浅く斬りつける。傷に大きく声を上げ、ゴブリンたちが逃げ出していく。
「逃げる相手は放っておいて大丈夫です。むしろ、最悪の事態に備えましょう」
和輝が言い、後ろを示した。
「退路の確保ですわね。軍人や兵士というものは、隊の安全を優先しますものね」
クレアが言う。稔も小さく頷いた。
「自分がやられても大丈夫だと思えたら、不思議と力が湧くものだからな」
『本部の安全は確保されているわ。恐れずに、力を発揮して』
リカインの通信が、本部周辺に広がる。
「残りの数は!?」
インカムに志方 綾乃が問う。すぐになななからの返信。
『本部の脅威になり得る敵影は7!』
「私、足を止める。あなた、敵を倒す。いいですか?」
綾乃が雫澄の後ろにつき、問う。雫澄は、驚いたように振り返ったが、すぐに頷いた。
「おねがいします、先輩」
「志方ないね」
ひゅっ、と綾乃の手が閃く。その手から輝くゴルダが放たれ、ゴブリンたちの顔を打った。
「ぎゃぅ!?」
輝く何かに打たれたゴブリンが、思わず足を止めて綾乃に目を向ける。そのとき、雫澄が飛び出し、低い位置から手甲をゴブリンの腹に突き刺す。
一撃で一匹、合計三体を倒したところで、残りのゴブリンが雫澄を取り囲む。
身を守るために脇を固めた雫澄に、後ろから声が飛んだ。
「いいから、打ちまくってください!」
綾乃のぴんと立ったアホ毛から、雷が放たれ、囲んだゴブリンを打ち据える。なぜそんな場所から、という疑問はないでもなかったが、びりびりとしびれるゴブリンに背を向け、雫澄は向かいにいたゴブリンを打った。
「前で戦ってるみんなが安心して戦うためにも、本部は守りきってみせる!」
さらに一匹が倒され、ゴブリンたちが恐れをなして背中を向けた。
「この……!」
「待って。あそこ……」
追いかけようとする雫澄を、綾乃が引き留める。そのとき、
かちっ、どーん。
機晶爆弾を踏んだゴブリンは、のけぞって地面に倒れた。
「本部への脅威、すべて撃退しました。どうぞ」
雫澄が本部への通信回線を開き、伝えた。
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