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10.百合園サッカー&フットサル部




「続きましては、百合園女学院サッカー&フットサル部のPVです」

 
 画面は、上空からの百合園女学院キャンパス全景を映していた。
 突然色調がネガに反転。
 視点が切り替わった。正門前に。闇が渦巻いてゴールポストの形を為し、そこからゴブリンやオークの群れが生み出され、全員が真っ黒なボールをドリブルしながらキャンパス内になだれ込んだ。
 悲鳴を上げ、逃げまどう百合園生。彼女らに向けて次々に繰り出される黒いボールのシュート。直撃を受けた百合園生は肌が土気色になり、足元に黒いボールが生み出され、乱入したゴブリンやオークみたいに他の百合園生に対してボールを蹴ってぶつける、という所業に出る。
 伝染――汚染――浸食――そして侵略。
 その様を見ながら黒いゴールの前で哄笑する、ウィンドブレーカーを纏い立つ影が、ひとり。目深に下ろしたフードの奥で、着けた仮面が闇を映す。


「……これは何の映画の予告編?」
 ジリアン・アシュクロフト(じりあん・あしゅくろふと)が梅干しの入ったおにぎりを口にしながら、スクリーンに見入った。
「最初に言ってただろ? 百合園さんのサッカー部のPVだよ」
 三崎 悠(みさき・はるか)が答えて、冷たい緑茶をすする。
「そう言えばそうだっけね……百合園のサッカーって凄いなぁ、こんなことやるんだ」
「普段からはやってないと思う」


 キャンパス内で暴れるゴブリン、オーク、あるいは闇落ちした百合園生らの中、駆け抜ける者達の姿があった。
 百合園サッカー部のユニフォームを着けた芦原 郁乃(あはら・いくの)ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)は目につく敵に肉迫し、片っ端からボールを奪っては正門方向に開いた窓に向かって蹴り出す。ボールを奪われたゴブリン、オークは消滅し、百合園生は正気に戻る。
 ――そのようにしてひとつの教室を「クリア」すると、ふたりはまた別な教室に飛び込んでいく。
 


「手際いいね」
「さっきの『戦闘兵科』のPVみたいだ」


 一方、百合園キャンパス裏門には光が渦巻き始め、正門のそれと同じようにゴールポストが作られる。そちらに向けてゴブリン、オーク、あるいは闇落ちした百合園生らが足元の黒いボールをシュートしにかかるが、キーパーの朱野 芹香(あけの・せりか)が神業じみたセービング、キャッチング、そして時には全身から形容しがたい力場を形成し――
 


「ちょっと待った。今キーパーから吹き上がったものは何?」
「『闘気』とかじゃないの?」
「いや、シレっと答えないでよ。あんなの出されたら何やったって点数取れないじゃない? インチキだよ」
「使い手の消耗が激しくて連続して使えないとか、物凄い威力のシュートは止められないとか、そういう弱点があるんだよ、きっと」
「ああ、そう読み取るべきなんだ……で、これって何の映像だっけ?」
「百合園さんところのサッカー部のPVでしょ? やってることがサッカーとは限らないけど」


 ――形容しがたい力場を形成して黒ボールのシュートを止めたり、スイーパーの鼎・ホワイト(かなえ・ほわいと)がクリアしてこれに対抗している。
 戦力差およそ20対2、しかも20人全員がストライカーとなってシュートを撃ってくると言う絶望的な状況
 だが、光のゴールを守るふたりの眼に絶望はない。
 光のゴールの中に再び渦巻く光、光は結晶化して純白のボールとなり、生み出されるようにして転がり出る。
 芹香によって蹴り出された純白のボールを荀 灌(じゅん・かん)がキープ、ドリブルして校舎内に突入した。
 


「つまり、こういう事かな、ハルカ?」
 ジリアンが、おにぎりを飲み込んでから口を開く。
「黒いボールは悪い魔法の塊っていうか呪いの象徴で、伝染や汚染をする。で、その呪縛は百合園サッカー部の人がボールを奪う事でしか解放できない、みたいな?」
「で、悪の勢力の勝利条件は、裏門にある光のゴールポストに黒いボールのシュートを決める事なんだろうな」
 三崎悠が言葉を継いだ。
「そして多分、正義の百合園サッカー部の勝利条件は、今し方に出て来た光のボールを正門側の闇のゴールポストに叩き込む事だろう」


 校舎内に入った荀灌を待ち受けていたのは、廊下を埋め尽くしている黒いオークや闇落ちした百合園生達だった。
 が、彼女は臆さず、その中に飛び込んでいく。
 次々に繰り出されるスライディングやショルダーチャージ等のチェックをものともせずに廊下を突破。
 突き当たりにあった図書館入り口のドアを肩で開けると、廊下以上の数と密度で、「黒オーク」や「黒ゴブリン」、「黒百合園生」が待ち受けていた。
 


「思い出したよ、ハルカ。このノリ、どこかで見た事あったなって思ってたんだけど……」
「ゾンビ映画でしょ、ジリアン?」
「やっぱり気付いていた?」
「まぁね。妙な違和感があってなかなか分からなかったけど」
「……なんて言うのかな? 主人公側が戦る気まんまん、みたいな?」
「閉塞感とか絶望感なんて、欠片もない。でもこれはこれで十分にアリだと思うよ」


 再び荀灌に襲いかかる「黒」の軍勢。姿勢を低くし、地を這うような態勢でそれらを切り抜ける荀灌。閲覧席のテーブルの下をくぐり抜けたり、椅子を蹴り飛ばしてチェックへの牽制をしながら、吹き抜けの上に眼を向けると、上層階の柵の際にフィーサリア・グリーンヴェルデ(ふぃーさりあ・ぐりーんう゛ぇるで)が飛び込んできた。
 交叉する視線。
 荀灌の足が白ボールを打ち上げた。虚空に「白」が、きれいな二次曲線の軌道を描いてフィーサリアの足元に転がった。
 フィーサリアはボールをキープ直後、背後の本棚の行列に向けて強烈なシュートを叩き込んだ。同時に、四方八方からプレスをかけてくる「黒」達をかわし、包囲網を突破。
 れりだされた白ボールは本棚や壁、天井をビリヤードのように反射して跳ね回り、図書館上層階出入り口に向かって飛んだ。
 ボールが出入り口の前に転がると同時に、その位置にフィーサリアが駆け込み、再びボールをキープ。ドアを蹴り開け、彼女は飛び出した。
 


「ひとり壁パスか」
 客席で、如月正悟は苦笑した。
「俺も試合で決めたかったな」
「三次元クッションなんて、そうそうやれるものじゃないと思います。というか危ないからやらないで下さい」
 隣のセルマがひっそりとツッコんだ。


 廊下に飛び出したフィーサリアは、足を止めた。
 待ち受けていたのは、やはり「黒」の部隊だった。体躯も大柄なオークが、廊下に「みっしり」と並び、密度の高い防衛陣を築いていた。
 図書館と違い、広さも高さもない。
 ――どうする?
 歯噛みしながら「黒」の防衛陣を睨んでいたフィーサリアの眼が、「黒」の狭間の向こうに振られる白い腕を見出した。
 フィーサリアは、白ボールをダブルヒールで一度頭上に浮かし、体を反転、オーバーヘッドで蹴った。
 高い位置でのライナーは「黒」の防衛陣の頭上を駆け抜けていき、その向こう側にいたネノノに受け止められた。
 ボールをキープしたネノノは階段をドリブルしながら駆け下り、校舎の外に出て、グラウンドを縦断した。
 砂塵を上げながら突き進む正面には、正門――中に闇を渦巻かせたゴールと、ウィンドブレーカーを着たゴールキーパーの「黒」がいた。
 ネノノの左足が踏み込む。それが軸足となり、右脚が「ソニックブレード」の勢いで白ボールを蹴り飛ばす。
 シュートコースの正面に立つ「黒」が、両の拳を突き出してボールを撃ち返す。パンチングによるブロックが高角度の弾道軌道を描き、そのまま校舎までクリアされる――と思いきや、2階の窓のひとつから芦原郁乃が飛び出して来て、打ち返された白ボールをさらに蹴り返し、闇ゴール前のネノノにつなぎ直した。
 再度打たれるシュート。再び突き出される両拳。が、わずかに打点のずれた白ボールが拳をかすめ、キーパーの顔面を直撃した。
 転がる白ボール――だが、ネノノはそれを取りに行く事ができない。
 吹き飛んだウィンドブレーカーのフードの向こうには、右半面が割れ落ちた仮面――のぞく素顔は、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)のものだ。
 愕然とするネノノを、うつろな表情で見返すレロシャン。その口元に、凶悪な笑みが浮かんだ。
 画面、切り替わる。セピア色の全員集合写真が画面いっぱいに映り、水滴が落ちた。
 ――暗転。
 真っ暗な地に、文字が被さった。
「君は衝撃のラストを見る事ができるか!?この続きは入部してから!」
 


 映像の後、PVの台本を担当したフィーサリアは司会から、
「背景のストーリーや設定を教えてください」
「続きはいつ公開されるのでしょう?」
と熱の篭った質問を受けたが、
「詳細は、入部してから」とお茶を濁し続けなければならなかった。
 考えてないものを訊ねられても、答えようがない。

「……これ、大変だったわぁ」
 アスカが遠い目をして呟いた。
「? サッカーするオークとかゴブリンのデザイン、面白くなかった?」
 オルベールの問いに、「そっちじゃなくて」とアスカが首を振る。
「学内ロケーションとか、エキストラの手配や調整が、もう面倒で面倒で……そのあたりの事は正悟くんに全部丸投げするつもりだったのに」
「あぁ、如月ちゃんってさっさと別な仕事抱えて逃げちゃったもんね。『俺男だから、百合園学内の事には着手できないな』って」
「CG関係の仕事押しつけるので精一杯だったわぁ。残念」