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8.飛空艇同好会




「続いては、『飛空艇同好会』のPVです」


 四分割された画面に映る、飛空艇の3種類(操縦かん式、ハンドル式、マニュアル式レバー)のコンソールと空を飛ぶ飛空艇の姿。
 画面が暗転、「飛空艇同好会」の文字が画面にかぶさる。
「誰でも手軽に、気軽に空を飛ぶ事ができる飛空挺。
 その魅力を皆さんにご紹介したいと思います」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)のナレーションとともに、飛行中の飛空艇と、それに乗る一輝本人の姿が画面に映った。
「この飛空艇の特徴は、何も操作しないと、その場に留まるという事です。波に揺れる舟を想像して下さい。この状態では風の吹くままなので乱気流に巻き込まれると……おわッ!?」
 カメラが引き視点になり、空の中でいきなり鳥の羽根のように翻弄される飛空艇。
 投げ出される一輝――
 


 ――わぁっ!
 客席のあちこちからどよめきが洩れた


 ――宙に投げ出された一輝だが、ひっくり返ったまま浮かんでいる飛空艇に結びついている命綱がピンと張り、その体をぶら下げている
「……このように、その場に留まったまま機体が暴れ回る事になります。
 安全への気配りが必要なのは自動車と同じですね。備えあれば憂いなし……よっと」
 一輝は命綱を伝って飛空艇に潜り込み、その態勢を立て直す。
「逆に言えば、そういう気配りをしていれば誰でも空のツーリングを楽しめるのが飛空艇です。
 あなたも参加しませんか? 空は楽しくて、気持ちがいいですよ。こんな風に」
 アップになった一輝が微笑み、ゴーグルを下ろす。
 カメラが引いた。空の中に飛んでいく飛空艇が宙返りやインメルマンターン、「木の葉落とし」などのトリックを次々に決める。
 画面に再び「飛空艇同好会」の文字が被さった。
 


「本映像を企画された天城一輝さんにお話を伺います。
 乱気流の場面は、ヒヤッとしました。あれは実際に乱気流に飛び込んだんですか?」
「正直言うと、学内の大きな風洞実験室で撮った映像をCG合成したものです。乱気流をわざわざ探してロケハンするのも手間掛かりますからね。
 CG合成や、設備使用の調整など、裏方チームの如月正悟、セルマ・アリスの二人には本当に助けられました。
 そうそう。飛空に乗ってて艇乱気流の気配を感じたら、すぐにその空域から離脱して下さいね。危険には近づかないのが、安全の基本です」
「実は、この映像一部で人気があるんですよ。ご存じでしたか?」
「? いえ、初耳です」
「無口で慎重、精悍で真面目そうな印象の人が、ずいぶんと楽しそうにしているなぁ、と」
「……!?」
 暗転していたスクリーンに、微笑んでゴーグルを下ろす一輝の顔が映った。
 大画面に映る自分の顔を見て、一輝は顔が紅潮した。
「ああ、いや、これはですね」
「光の反射でよく見えませんけど、ゴーグルの下でウィンクもしていたようですが」
「いやぁ、ほら、人に興味を持ってもらうのに、出演している人間がムスッとしているのは、その」
「でも、キャラクターを作っていたようには見えませんでしたけれど?」
「……いや、まあ飛空艇は楽しいものですから、つい」
「その楽しさは十分に伝わっていると思います。
 『飛空艇同好会』さんでした」