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リアクション
珈琲・珈琲
「人手が足りなそうだし、手伝おうよ。
珈琲好きとしては制服もアイスコーヒーで決まりだよ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は、白銀 昶(しろがね・あきら)と揃いのアイスコーヒーの制服を着ながら、嬉しそうに言った。
「でさ? 『超感覚』で犬耳と尻尾を出して接客したらいいと思わない?
昶とWわんこだ。制服との相性もバッチリだよね」
そう言って北都は黒いタレ耳とふかふかの尻尾を出した。昶は元から狼の獣人なので、耳も尻尾も引っ込めようがない。どこかワイルドさも秘めているので、同じ耳とシッポのあるウェイターだが、北都はまさしくワンコといったイメージ。昶のほうはクールさを持った大人っぽいイメージだ。
「Wわんこって、オレ狼なんだけどな。
……まあ、わんこの称号持ってるし別にいいけどさ」
穏やかな北都は接客には慣れているが、昶はぶっきらぼうな方だ。だが、まあ、何とかなるだろう、と北都は考えていた。
「ん? なになに? 試食だって?
任せろ。従業員として、店に出せる物かどうか判断してやるぜ」
……しかし、あまりに直截的な昶の言動に、直接接客よりもしかすると裏方の方がいいのかもしれないとの思いが北都の脳裏よぎったのであった。
大人っぽいデザインのアイスコーヒーの制服を選んだ夜薙 綾香(やなぎ・あやか)と、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は偶然同じたまるをイメージしたコーヒーゼリーを新メニューとして考案してきたことを知った。
「私は凝った物は作れんしな。珈琲を寒天で固めるシンプルな物だな」
綾香が言った。
「オレ、女性が苦手で……それをなんとか、と、女性向けの新メニューをと思ったんだ。
同じコーヒーゼリーだけど、オレの方はゼラチンベースだから、食感が違って面白いかもしれないな」
想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が、夢悠の後ろから、アイスコーヒーの制服を着て顔を出す。
「いい? 今回はユッチーの鍛練も兼ねているけど、大事な記念イベントでもあるのよ!
ワタシ達の愛を込めたデザートを、しっかり作るのよっ!」
「お、お姉ちゃん……そのユッチーって言うのやめてくれよ……恥ずかしいよオレ」
「なに言ってるの! ワタシは今回は雅羅ちゃんへの可愛がりも封印しているというのに!」
「お姉ちゃんそれ関係ないから……可愛がりって……セクハラ……イテ」
語尾のあたりで瑠兎子が夢悠をグーではたいたのだった。綾香はそんな二人を見て微笑ましく思ったらしい。
「あはは、姉弟仲がいいんだね。
アイシャも来てるんだな……日頃から何かと疲れるだろうし、たまには息抜きしてもらいたいな」
「そう、雅羅ちゃんへの愛を込めたデザートなのよ!」
瑠兎子が言った。
綾香は珈琲愛好家として、豆は自前で用意してきていた。
「香りとコクを引き出して、酸味は抑え目のブレンドだ」
淹れたコーヒーを寒天と混ぜ、固まったものを軽くクラッシュし、上に盛ったバニラアイスに珈琲粉で顔を描きウェハースを耳にあしらった。
夢悠の方はゼリーを角切りにし、ミルクをかける。バニラアイスを載せ、たまるの顔をチョコレートで、頬にオレンジシロップで星型を描いた。三角形に切った白いウェハース耳に、赤いネクタイの代わりにサクランボを一つ入れ、逆三角形のホワイトチョコを器へ差し込む。
「甘さは控えめにしたので、黒糖シロップを添えているんだ」
「こっちははホワイトチョコが甘みなのよ」
カクテルグラスに盛られたコーヒーゼリーは、北都が夢悠の作ったものを、昶は綾香の作ったものをそれぞれトレイに乗せて、試食用テーブルに運んでゆく。
「こちらが今回の試食、コーヒーゼリー2タイプになります」
北都がそつなく2種のゼリーを各々の前に並べてゆく。昶は運ぶだけ運ぶと、さっと末席に座った。
「ここは従業員としても、試食しないとな」
「店長さんをモデルにして作ってみたのよ。そして、雅羅への愛もこもっているわっ!」
瑠兎子はそう言って、雅羅にゼリーを手渡した。
「あ、ありがとう。……うーん、どちらも美味しいわね」
「あら、本当。それに、見た目も可愛らしいわ」
アイシャが微笑む。陽もゼリーを試食してみてうーん、と唸った。甲乙付けがたい。何しろタイプが違うのだ。テディと昶は、隣り合って座ったのが縁か、二人で珈琲の香りはどうの、チョコと珈琲のハーモニーも捨てがたいのとにぎやかに騒いでいる。
林田 樹(はやしだ・いつき)は、チラシを見るなりお子様ランチを作る、と張り切りだした林田 コタロー(はやしだ・こたろう)を連れて、たまカフェにやってきた。
「たまかへの、めにゅーを、かいはちゅ、しゅるんれすお! こた、がんばうれす!」
「どうしてもお子様ランチが作りたくて仕方がないんだな。
わかった。協力しよう」
「ねーたん、はんばーぐとえびふりゃいと〜、なぽりたんもつけうのれす。
しりゃたまもちゅけたいれす〜」
ボーイッシュだがキュートさも狙ったショートパンツタイプの、メロンソーダの制服の白波 理沙(しらなみ・りさ)は、揃いの制服のヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)と、着替えながら話をしていた。
「結構いい雰囲気のお店だし、宣伝したらお客さんが沢山来店しそうね」
アリアクルスイドもはとてもテントタイプの建物の内部と思えない、店内の様子を見て言った。
「みんながパーティーを楽しめるようにしないとね。
接客の仕方でも印象が変わるから、私は勝手がわかっているし、不慣れな人はサポートしましょう」
「いいお店って料理や内装もだけど、接客態度も大きいのよね」
「お客様を席に案内して、お水とメニューを持って行くとき、元気に、笑顔で、感じよく、だよね。
試食メニューを紹介するのもいいかな?」
二人は話しながら厨房に向かった。
樹は一般的なお子様ランチメニューを思い返していた。
(お子様ランチ……乗っている物の量を変えれば十分大人用ワンプレートランチにもなる。
通常メニューから転用できそうな物を選べば、負担も少ないだろう。
……だが、野菜が足りないな)
二人は厨房内の食材を調べ、じっくりと検討した。そして、しばらく後。
たいむちゃんを象ったウサギの方抜きゴハンは青く染めたかまぼこで顔が描かれ、ハンバーグにはチーズとハムで時計が描かれている。とナポリタン、エビフライ、それに千切りキャベツが。カラフルな白玉団子のそばにはミントの葉と、缶詰のフルーツとシロップ、完熟プチトマトのコンポートが添えられた。今回は試食なので、全て一口量である。コタローが叫ぶ。
「おこさらまんちれきました!」
「はーい、お持ちします!」
「結構たくさんあるね。ボクも持って行きます」
理沙とアリアクルスイドは、いくつもあるプレートを席へと運んでゆく。
「たまカフェにようこそ。今日のパーティーを心ゆくまで楽しんでくださいね」
「試食メニューのお子様ランチをお持ちしました」
コタローは張り切って、プレートを運ぶ二人についてきた。
「『たいむしゃんのおこさらまんち』つくったれす!
みにゃしゃん、たべれくらしゃい!
とくに、しりゃたま、おいしーんれすお!」
「うわあ。可愛い」
雅羅が歓声を上げた。
「お子様ランチって、大人が頼めないんですよねぇ。ここは頼めるんですねぇ」
ななながぼやく。
「だったら『大人のためのお子様ランチ』って名前にしたらいいよ」
「あ。良いかも知れませんね」
雅羅の提案、イングリッドの同意を尻目に、なななは幸せそうにハンバーグを味わっていた。
「ハンバーグおいしい! エビフライも衣が薄くてさくさく!」
「う?
ねーたん、しりゃたまに、おやしゃい、はいってたお?
こた、じぇんじぇん、しらなかったお。
あかくて、あまーいのは、こたのきらいな、とまとらったお?」
一緒に試食していたコタローがぼやく。
「……気づいたか。
上新粉をこねるときにカラフルな野菜ジュースを使っているのだ。冷凍保存もきく」
「それは便利そうだぬ……」
スケッチブックを脇に置いて、せっせと食べていたたま☆るが言った。
「見た目もかわいらしいし、お野菜を取る工夫もされているのですね」
アイシャが感心したようにプレートを眺めた。
全員が少量ずつの試食をあっという間に食べてしまったのであった。
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