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リアクション
エンバラスメント・ボーイズ
「かわいい制服を着てお洒落なカフェで働くのって夢だったんだ。
人手が足りなそうだし、バリバリ働いちゃおう!」
めずらしく面倒くさがりの滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が、張り切っていた。道田 隆政(みちだ・たかまさ)と雑賀 孫市(さいか・まごいち)も一緒だ。制服を前に感慨にふける洋介をよそに、二人はさっさと制服を選んでしまった。
「わしみたいなのが、かわいい制服を着るのはどうかと思うが…ここは抹茶ラテにしよう。
さて、ちょっくら働いてくるかの!!
今夏のせくしー担当は……このわしじゃぁ〜!」
和洋折衷といったデザインの抹茶色のワンピースを着て鏡の前でポーズを取り、気合を入れる隆政。
「ウフフ、素敵な制服ですわ…そうですね……ではわたくしの方は、メロンソーダに致しましょう。
さぁ、頑張りますわ!!」
孫市はちらりとそちらを眺めた。自分は明るい色調の、レース使いの大人っぽい制服を選ぶ。洋介は少し遅れて服選びを始めた。
「よし、色は……ストロベリーラテに決めた!
……ってこれって女物じゃん!」
ほかの制服も見てみたが、サイズとタイプはいろいろあれど、全て女物だ。
「うぅ……他に制服が無いのか。
……えぇ〜い儘よ!知人にあっても気付かれない……ハズ」
仕方なくピンクのリボンがあしらわれた可愛らしいストロベリーラテの制服を着た。
「あら〜、お似合いですわ」
「うむ、可愛らしいぞ」
洋介が来る前に、隆政と孫市が男物制服を全て隠してしまったことを、洋介は知るよしもなかった。
「うわぁ、お店の中ステキなのね」
杜守 柚(ともり・ゆず)は店に入るなり思わず声に出してつぶやいた。
「新メニューの試食、楽しみです。どんなのがあるのかな」
一緒に来た杜守 三月(ともり・みつき)が、どう見ても女性が多そうな店内を眺めて言った。
「何を試食するのか気になるけど、男の意見も参考になるのかな?」
「あ、雅羅ちゃん!」
柚は雅羅を見つけると、隣のテーブルにつき、楽しげに雅羅に話しかける。
「雅羅ちゃんの好きなデザートは何ですか?
甘いものって幸せになる魔法が入ってるんですよ。
食べ過ぎると脂肪のおまけ付きですけど……」
「そうなのよね……太るのを気にしないで済むデザートとかあったらいいのに」
雅羅はグラスの水を一口飲んだ。幸せの魔法……か。
災難体質を、少しでも甘いものは中和してくれるのだろうか。
「でもやっぱり甘いものは別腹ですよねっ!」
「そうそう!」
三月は首を振った。
「甘いものは好きだけど流石に別腹にはならないよ。
柚も雅羅も甘いもの好きそうだよね」
「嫌いっていう女の子の方が珍しいかも?」
雅羅はそういって笑った。
「甘さはくどくなくて、さっぱりしてるものがいいな。
暑い時は冷たいものと炭酸系のジュースが欲しくなるし。
とはいえ、栄養バランスも考えて食べないとな」
ピンクの制服の子……洋介がメニューと水を持ってきた。
「い……いらっしゃいませ」
心なしか笑顔が引きつって見えたのは気のせいかな? そんなことを考えながら、柚と三月は試食メニューを一通り頼むことにした。
「かしこまりました、少々お待ちください」
雅羅らと楽しく話しこんでいると、隆政と孫市がワンディッシュに少量ずつ盛り合わせたプレートと、通常の半量程度の大きさのグラスに入った飲み物を運んできた。
「お待たせいたしたのぉ、こちらが料理のプレートじゃ」
「こちらが、お飲み物になります。……ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
「わぁ、これ可愛い!」
「お、これ、栄養バランスよさそうだな」
試食しながらにぎやかな会話が始まった。
そのしばらく前。
ロード・アステミック(ろーど・あすてみっく)、キャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)は、龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)の、
「アルバイトがどのくらい居るかは分からないが、多いに越した事はないだろう」
という提案に従いアルバイトに入ることにし、店に向かっていた。陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)は買い物に出ているとのことで、少し遅れてくる手はずになっている。
「パーティーですか。楽しそうですなぁ」
アステミックが堂々とした風采を踏まえ、親しみやすいオレンジジュースの制服を選んで言った。ハムスターのゆる族、キャロは可愛らしいメロンソーダのワンピースが気に入った様子だ。
「お店のお手伝い頑張るのー! 今日は一人でがんばるよ」
「そ、そうか、うん、がんばるんだぞ」
廉の言葉に、キャロはニコニコとうなずいた。とはいえ、ネコほどのサイズである。できることは……かなり限られてくるんじゃなかろうか。廉の心配をよそにキャロは一人浮き浮きと、鏡の前で入念に制服のチェックをしている。
そして、少し遅れてやってきた陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)は、制服を見て戸惑っていた。そう。見事に女物しかないのである。そう、洋介に女物を着せるために孫市らが弄した策略に、彼もまた絡め取られてしまったのである。
(……まだフリルの少ない、大人っぽいアイスココアのロングワンピースが、ましか……)
「何故、私がこの様な格好を……」
髭が激しく不協和音を奏でている。仕方なく陳宮は髭をそり落とした。もともと細身で女性的な風貌である。髭があるため何とか男に見えていたものの、この格好では……。
「……落ち着かぬものよ……だが、まあ、出来る限りの事はしましょうか」
更衣所から出て廉らに合流する。廉は目を見張った。面影は無論あるものの、どう見ても女性……のように見える。一体どうしたのだろうか。
「……陳宮?」
何か事情があるのだな、ここはそっとしておこう。アステミックはそっと言った。
「……陳宮殿も大変そうですなぁ」
「おじちゃんがおじちゃんじゃないのー」
キャロは素直に不思議がり、陳宮のワンピースのすそを引っ張った。陳宮は引きつったような笑みを浮かべ、
「お客様が見えたようです。参りましょう」
「私も参りましょうぞ」
と言って急いで店の入り口へすたすたと歩き出す。アステミックがあとを追い、。廉とキャロは厨房へ向かった。
橘 舞(たちばな・まい)は、たま☆るからチラシを受け取り、ときめいていた。
「あんな可愛い猫ちゃんがやってる店なら、きっと素敵なお店に違いありません!
ちょっと覗いてみましょうよ」
「たまカフェ……ま、ちょうど歩き疲れて、喉も渇いていたし、少し休憩していきましょうか」
ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)もうなずいた。初対面なのに、なぜかたま☆るに親近感を感じないでもなかった。それに、猫好きの舞からすれば猫の店長がやっている店とあれば、行ってみたいに違いない。
ピンクのテントから、一歩中に入ると、別の空間であった。
「テントだったのは、ちょっと確かに意外ですけど、中は結構いい感じですね」
「外から想像もつかないオシャレな店内……これは結構斬新ね」
すぐに陳宮が案内に来る。その背後にはアステミックが、執事然とした物腰で控える。
「いらっしゃいませ」
「あら、ステキな制服ね。いいお家のお嬢さんって感じよ」
「……こちらのお席へどうぞ」
ブリジットの発言に、陳宮が凍りつく。ブリザードのような笑顔を浮かべ、できる限りの低い声で言い、硬い物腰で先導する。アステミックは困ったような笑みを浮かべつつ、即座にフォローを入れる。
「お嬢様方、どうぞ、こちらへ」
舞はブリジットを突っつき、小声で言った。
「あの身のこなしは男性です。……きっと何かやむをえない事情があって、女性の服を着ておいでなのよ」
ブリジットが目を輝か、ムダに豊かな想像力を駆使し、突拍子もない推理を始めた。
「やむをえない事情……なにかの犯人でも追っていて、女装しているのかしら?
推理研究会の代表としては気になるわ!
それとも、何かの罰ゲーム……ではつまらないわね。あ、誰かに追われていてとかっていうのはないかしら!」
席に着くと、廉が陳宮と入れ替わるようにして、水とメニューを持ってきた。キャロが足元から舞とブリジットに小さな袋を差し出しながら言った。
「いらっしゃいませなのー! 向日葵の種どうぞなのー♪」
「まあ、可愛らしい」
舞は小さな袋を受け取った
「す、すみません。自分の好物なもので、お渡ししたいと聞かなくて……」
廉はキャロをあわてて抱き上げる。
「あら、かまわないわよ。ありがとう、小さな店員さん。
……なにかお勧めのスイーツと飲み物はあるかしら? ……店長さんのお勧めとか?」
「そうですね……試食メニューではこちらとこちらが……」
アステミックは、何事もなかったかのようににこやかにかつ上品に、試食メニューの説明を始めた。
真剣に頼むものを決めつつも、ブリジットはまだ、陳宮の「事情」を調査するつもりのようだった。
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