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リアクション
ラブリータイフーン
「あら、ここっていつもこんなに人はいなかったはずですのに」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、たまカフェを見て思った。イベントか何かあるのかもしれない、行ってみよう。
「いらっしゃいませー!」
応対に出てきたのは明るいグリーンのふんわりしたワンピースに、胸元の白いリボンの可愛らしい制服を着た、パートナーの綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)であった。驚いて立ち尽くすアデリーヌ。
「え? え? どうして?? ……え?」
「あ、そんなところに立ってたら、ほかのお客さんの邪魔になっちゃうよ!」
呆然と固まっているアデリーヌの腕を掴むと、さゆみは店の奥へと引っ張って行った。
「……このあとお客さんも増えるだろうし、人手が足りなくなりそうね。
そうだ、アディも一緒に制服着ようねっ!」
「あ……あの、えっと」
戸惑うアデリーヌに、ミドル丈のふんわりしたスカート、レース使いも可愛いアイスココアの制服を押し付け、更衣室へ押し込む。
「制服は……そうね、アイスココアがいいわ。
上品で甘すぎない可愛さ! うん、これねっ!」
さゆみの方は、カフェ前を歩いていてたま☆るからチラシを受け取った際、外の様子を見に来たたいむちゃんにスカウトされたのだった。もとよりイベント慣れしており、記念パーティと聞き、面白そうだと二つ返事で引き受けたのだった。珈琲など、飲み物の大部分はフィリップ君が作っていると聞き、案内の手がすいているときはそちらも手伝っていたのである。
昼近くなり、外の日差しは一段と厳しく暑くなってきていた。冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)と冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、そろそろお昼でも……などと話していたときに、たま☆るからチラシを受け取ったのであった。
「ねね、日奈々、開店500日記念パーティーだって。面白そう、行ってみましょ?」
「千百合ちゃんが行くなら、行ってみたいですぅ」
目立つ色のテントの中に入る。
「わあ、お洒落ね!」
「い……いらっしゃい……ませ。ど、どうぞ、こちらに……」
どこかギクシャクしたウェイトレスが案内に出てきた。アデリーヌだ。千百合はメニューを見て、言った。
「あたしはパフェでも頼んでみようかな〜。
あ、それとカフェラテもね!」
「私は……アップルパイと…ミルクティーを、頼みますねぇ」
アデリーヌは真剣過ぎて怖いほどの表情で、伝票にメモを取る。あ、いけないいけない、笑顔で接客しなくては。
突如花が咲いたような笑みを浮かべると、
「少々お待ちくださいませ」
と言って、厨房へと向かった。
「……くるくると表情の変わる店員さんね」
「笑顔は可愛かったですねぇ」
千百合と日奈々は顔を見合わせ、微笑んだ。しばらくして、パフェとケーキ、飲み物が来た。
「ごゆっくりどうぞ」
さゆみは丁寧にオーダーの品を置くと、一礼して下がっていった。
「日奈々のおいしそうだね。
ちょっともらってもいい?」
「千百合ちゃんも…食べてみますかぁ?
はい……あーんって、して、ですぅ」
千百合は甘酸っぱいリンゴの味のしっかりしたアップルパイを味わった。そして日奈々をまっすぐに見る。
「ねぇ、日奈々
お願いしたいことがあるんだけどいいかな?
あたしの事呼び捨てで呼んでくれない?」
「呼び捨て……ですかぁ
別にいいですけど……
そ、それじゃぁ……その……ち、千百合……」
言いにくそうに言って、赤くなる日奈々。
「もっと普通に呼べばいいのよ〜」
「そ、そですかぁ……なんだか照れますぅ」
カイラ・リファウド(かいら・りふぁうど)は、人づてにたまカフェの窮状を知った。ちょうど店に一休みに戻ってきたたま☆るに向かい、熱い思いを語る。
「空京に出てきて店を開いたその心意気は見事!
ここはひとつ、私が無償で店のために一肌脱ごうぞ!」
……とはいえ、元がかなりセクシーなレオタードタイプの衣装に、マントを羽織っただけである。比ゆ的とはいえ、あまり妥当な表現ではない……ような気もする。
「……制服は……着ないでそのままでいいと思うだぬ」
たま☆るはぼそっと言った。すでに男性客の目線が、店に入ってきた段階で集中していたし。姫橋 空馬(ひめはし・くうま)は、心配そうにカイラに付き添っている。
「殿のご意向で店を手伝う事になりましたが。
殿をケダモノ達から守るのが家臣としての使命! 指一本触れようならば斬り捨てる!!
……まあ、「写真撮影サービス付きメニュー」なら許されるが」
「ここは健全なカフェだから、変なサービスはないんだぬ……」
たま☆るに押し付けられたストロベリーラテの、リボンやレースをあしらわれた女子制服に身を包み、何か違和感を覚える空馬であった。
「であれば結構……とはいえこの制服……男の自分が着るのは間違っていると思うのだが
しかも……なんとも言えぬ感触……っていかんいかん、殿をお守りする事に集中せねば!」
ちょうどそこへお客が来たらしく、ベルの軽やかな音が聞こえ、二人は店内へと出て行った。
「メイド喫茶を経営する身としては、このイベントは是非とも参加させてもらわなきゃ!」
五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は、たまカフェに入り、テーブルに着くや立ち働く色とりどりの制服を着たウェイトレスたちを見て、一人張り切っていた。セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)が釘をさす。
「私たちのメイド喫茶の参考のために、ですわね。
……ですけど、理沙……あまり羽目をはずしてはいけませんわよ?
特にナンパはホドホドになさいね?」
「わかってるわよ! オリジナル制服が素敵だから是非一緒に写真撮らせてもらわなきゃ」
セレスティアが、じーっと理沙の顔を見つめる。
「なあにその疑わしげな目つき!
これはあくまで制服デザインの資料っていうかそーいう事なのよ! そう、そうなの」
そう言いつつも、目が泳ぐ。大義名分の下に可愛い娘の写真を集めたい、あわよくば……と考えているのはテレパスでなくともわかる。
「ご注文はお決まりかな?」
テーブル脇に立ったのはカイラである。
「まあああ!! 刺激的……もとい、ステキ!
あ、私こういうものですの。 ぜひ参考に一緒にお写真を撮らせてくださいな!」
「うん? かまわぬぞ」
なぜ二人で一緒の撮影なのか、そこまではカイラは考えていない。素直に理沙と並ぶ。セレスティアが内心ため息をつきながら、撮影する。空馬が幾分引きつった表情で、尋ねる。
「ご注文はいかがなされる?」
「試食メニューのスイーツ全種。それとベイクドチーズケーキね。ドリンクは貴方のお勧めでいいわ」
「理沙ったら。……わたしもドリンクはお勧めで。何かスイーツを適当にお願いね」
セレスティアは忠実に職務を果たした。料理やドリンクの撮影、それに添える感想もメモし、合間に店員の撮影。
余談だが、カイラが店内を歩き回ると、男性客からのオーダーが急増した。
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