校長室
【空京万博】ビッグイベント目白押し!
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緋桜 ケイ(ひおう・けい)がゆるスター喫茶を訪れたのは、昼近くのことだった。 まずは主催者であり自分を招待してくれたヴァーナーに挨拶をしようと彼女の姿を探す。ややして、ちょこちょこと動き回るヴァーナーを見つけた。 「よ」 「あっ、ケイちゃんです〜。来てくれたんですね」 「ああ。皆で来たぜ」 ケイは、親指を立てた右手をくいっと動かしシス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)と悠久ノ カナタ(とわの・かなた)を指さした。指さすでないわ、とカナタが息を吐く。 咎める声を気に留めることなく、ケイはヴァーナーに向き合った。 「今日は招待ありがとな。楽しませてもらうぜ」 微笑んでから、「あと、これ」と花束を差し出す。 「わあ、きれいなお花です。どうしたんですか?」 「コンパニオンコンテスト、入賞したろ? そのお祝いだ。おめでとう!」 「ケイちゃん、見ていてくれたですね。うれしいです〜、ありがとなのです♪」 ヴァーナーが本当に嬉しそうに笑うので、ケイまで嬉しくなってしまった。 「みなさんといっしょにたのしんでいってくださいですよ〜」 受け取った花束をぎゅっと抱き締めてヴァーナーが言った。うむ、とシスが頷く。 「今日はこいつらと一緒に世話になりにきた。大所帯だがよろしく頼む」 こいつら、とはケイたちのことを指しているのではない。シスの連れてきたゆるスターたちのことだ。 総勢八匹のゆるスターたちは、シスのペットであり友であり冒険仲間。通称を『シス軍団』という。 その名の通りシスを筆頭としたグループで、シスを慕い、またシスも彼らを大事に思っていた。 だから、今日ゆるスター喫茶に出向くと誘ったらシスは彼らも連れて行くと言い出したのだ。 「お前たち、寛いでいる人たちに迷惑を掛けるんじゃないぞ? ……じゃあ、楽しんで来い!」 きちんと面倒を見る、と言った言葉どおり、シスはしっかりと命令を下した。シス軍団の面々は散り散りになり、お店のゆるスターたちとじゃれあいはじめる。 「楽しそうです〜」 「だな。もう仲良くなれてるみたいだし」 「俺様の自慢の相棒たちだからな」 得意げに言って、シスは彼らがよく見える場所に座った。そのままじっとゆるスターたちを見つめる。 「ところで、どうにも繁盛しているようだが。人手は足りているのか?」 不意に、カナタが口を開いた。 「う〜ん。ちょっと、いそがしいかもです」 だろうな、とケイは心中で返す。 万博は大舞台で、ゆるスター喫茶はそこで行われている大きなイベントのひとつである。見た限り店にも外にも人はたくさん居て、まだまだ暇はできないだろう。 「どれ、わらわも給仕を手伝ってやるとしよう」 「えっ? そんな、わるいです。カナタちゃんもたのしんでいってくださいなのですよ〜」 「ふふ……気遣いは無用だ。もとより手伝うつもりできたのだからな」 言うが早いか、カナタは持参した割烹着を取り出して喫茶店の奥へと引っ込んだ。ややして出てきた彼女はもう着替えており、手伝う準備は万端な様子。 客であるカナタに手伝わせることは気が引けるのか、ヴァーナーが困ったようにケイを見上げてきた。 「使ってやってくれ。人手は多い方がいいだろ?」 「う〜ん、じゃあ、お言葉にあまえちゃいます。カナタちゃん、よろしくおねがいしますです」 「うむ。わらわが居れば百人力よ」 「でもでも良いですか? せっかくの万博イベントなのに」 「言ったであろう? 気遣いは無用。 それに、こうしておぬしの手伝いをして過ごすのも楽しみ方の一つなのだよ」 と、言われてしまえばヴァーナーに返す言葉はなく。 「さあ、もてなそうか」 やる気満々なカナタにぽんと背中を叩かれ、「はいっ」と元気に答えていた。 各々がそれぞれの楽しみ方をしだしたので、ケイも好きなように楽しむことにする。 適当な席に座って、紅茶の味を楽しみ。 待つのは、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の講義。 なんでも彼女は今日、貴族流ゆるスターの可愛がり方を教えに来るらしい。ので、ケイは後学のため、学ばせてもらおうと考えていた。 知識であればどんなものでも欲するところは、自分でも貪欲だと思うけれど。 ――それが俺だしな。 達観した気持ちで、ラズィーヤの講義の開催を、待つ。