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パニック! 雪人形祭り

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パニック! 雪人形祭り

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第五章 ともし火を捧ぐ

「ねええ、外出たいよー、雪で遊びたいよー!!」
「雪遊び! 雪遊びいぃぃ!!」
 子供たちと一緒になって騒ぐクマラの頭をポンポン叩いて宥めながら、エースは、若干呆気に取られた顔の、雪まつり実行委員会の腕章を巻いた男性に、話を続けた。
「……きっと間に合うはずです。祭りどころじゃない、という人たちもいるかもしれませんが、ここでずっと待っていた子供たちのためにも、ぜひライトアップだけはしてあげられませんか。我々も、準備のお手伝いはさせていただきます」
「……。本当に、雪人形も雪像も、もう動かなくなるんですか……?」
 委員の疑問に、えぇ、もうじき、とエースは頷き、装着した籠手型HCを一度撫でた。
 隣には、情報収集のため公民館に来たザカコがいた。エースとルカルカの間でやり取りされた情報と推理とをすべて聞いた彼の顔にも、確信の表情があった。


 雪野原の戦いは、もはやカオスの様相を呈していた。
「私は、信じ……っ! 雪に、……っ、宿るあたた(ぼすっ)、ここ、ろ(ぶべべべべ)」
 小さな雪像たちの投雪攻撃を一身に受ける的の役を、誰に向けているとも知れぬ演説とともに勇敢に担い続ける美央だったが、ともかく飛んでくる雪の量が半端ではない。先程よりは減っているがまだ雪人形の残党がいて、それらも連携してマシンガン並みに小さな雪玉を投げつけてくる。美央を雪当てゲームの的と認識しているのかもしれない。アイスプロテクトで、冷気への耐性は上がっているものの、
「……口の中に、雪が、入りましたわ……」
「あああ大変だ、赤羽へーかが雪まみれに……!」
 隣ではクロセルがあたふたと叫んでいるが、
「……何か、やけに嬉しそうではありませんか?」
「いえっ、決してそんな(にやにや)」
 懐疑的な横目を送る美央に、またしても横ざまに雪玉がぶつけられる。

 すっかり動きの鈍くなった雪像に、突き立てた流体金属槍の上を、日比谷 皐月(ひびや・さつき)は森の野生動物のような敏捷な動きで駆け上っていく。その腕に雨宮 七日(あめみや・なのか)……の身体を借りたツェツィーリア・マイマクテリオン(つぇつぃーりあ・まいまくてりおん)を抱えて。
「思ったほど…ではないな、走りにくさは」
 槍の高さを越えてしまったので、雪像の腕から肩に飛び移り、頭部の天辺を目指して走りながら、ごく落ち着いて皐月は呟いた。
(それは『ルナティック・リープ』の加護でしょうに)
 七日は心の内でぼそりと呟いたが、体は完全にツェツィーリアに貸与していることもあり、音声にはしなかった。
 だいぶ自由を奪われて雪像が大きく動くことがなかったせいか、楽に一行は頭上に着いた。ふりしきる雪の合間から、展示場が一望できる。白いカオスの戦場が。
「ここでいいんですよねっ? じゃあ、ボク歌うねっ♪」
 戦場の雰囲気は全く意に介さず、ツェツィーリアはやる気満々でうきうきしている。慣れている皐月は別にツッコむでもなく、あぁ、と頷く。
「死んだ人へのチンコンの思いを込めて、歌うんですよね?」
「あぁ。情報では、子供だけじゃなくてその親も死んでたらしいからな」
「分かりましたー。マイちゃんオンステージっ、鎮魂の歌で盛り上げちゃいますよーっ!」
 鎮魂歌はそんなに盛り上がって歌うものではない。しかし、もともとこの場は雪人形“祭り”であると聞いているツェツィーリアの頭にあるのは盛り上げるという一念で、それに対しても皐月はツッコまなかった。
 かくして響きいずる彼女のノリノリの歌声が、白い戦場に更なるカオスの色味を添える。