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リアクション
第1話 巣立つ者、見送る者、見届ける者
叶 白竜(よう・ぱいろん)が、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)と王宮へ行っている間、パートナーの強化人間、世 羅儀(せい・らぎ)は、ハルカの入学準備や、入り用なものの買い物があれば手伝う、と、ヨシュア達と待ち合わせた。
二人が待っている場所に、車で乗りつける。
「待った?」
「今来たところです」
羅儀はヨシュアと挨拶した後で、ハルカに向かった。
「何か、改めて話すのは初めてかな。初めまして、ハルカさん」
「よろしくなのです」
「これね、気持ちだけだけど、ハルカさんの入学祝いに、代表で」
白竜やニキータらも中身に協力した、現金入りのぽち袋を、手渡す。
表書きには、『オリヴィエ博士防衛隊一同』とあった。
「ありがとうなのです!」
その気持ちを、ハルカは嬉しそうに受け取る。
「準備なんかは終わったの?」
「終わったというか何というか」
ヨシュアは苦笑した。
「ザンスカールでの暮らしで必要だと思ったものは、必ずザンスカールに売っているから、その都度揃えていけばいいと言われたらしくて」
「引越しは、身軽な方がいいのです」
と、そう言われたらしいハルカが言って、成程、と羅儀は笑った。
買い物の合間、羅儀はヨシュアに訊ねた。
「どう? 新しい就職先見付かった?」
「気長に探してます。
短期のバイトなんかを幾つかやったんですが、正式な働き口は、まだで」
「何か、新しく興味を持ったこととか、ある?」
「そうですねえ……」
考えるヨシュアに、羅儀は切り出した。
「実は、白竜が今王宮に行っているのには、ちょっと理由があるんだけどさ」
「え?」
羅儀達は、オリヴィエ博士とヨシュアの今後を気にかけていた。
可能なら、ヨシュアはまた、彼の助手ができればいいのではないだろうか。
「で、博士の方はどうなのかな、ってさ。ヨシュアの方はどう?」
ヨシュアはぽかんと驚いた。
「考えてもみませんでした。そんなことが出来るんでしょうか?」
「どういう手順が必要なのかはわからないけど、働く気があるなら、訊いてみるし。
あの博士、面倒を見る人が側にいた方がいいんじゃないかな」
彼には、基本的な生活力というものが無さそうだ。と、羅儀は感じている。
オリヴィエの様子の方は、どうだろうか。
王宮内は、一般人にも見学が許可されている場所と、立ち入りが禁じられている場所がある。
一般解禁区域より内部に立ち入ることは、非常時や、特別な理由の無い場合は、それがロイヤルガードであっても、いい顔はされなかった。
白竜はオリヴィエとの面会に向かい、正規の手続きを踏み、根回しもして、宮殿内のある程度までの立ち入りを許可されたニキータは、それでもあまり嫌な顔をされないようにと判断しつつの範囲内で、王宮の下働きの者達に、オリヴィエの評判を聞いて回ってみた。
だが、宮殿内には、彼を知る者はいなかった。目撃情報は皆無である。
「確かに、強制労働で服役中の人が、王宮の中を歩き回れたりはしないわよねえ……」
彼は基本的に、工房の方に詰めていて、そこから出されることは滅多にないのだろう。
警備の騎士などにも訊ねてみたが、彼等は「そういうことには答えられない」と言うだけだった。
ニキータは、ヨシュアがオリヴィエ博士の助手として働けるか、人事の方に問い合わせもしてみた。
「教導団中尉の紹介があるのでしたら、下働きとして雇い入れることはできますが」
勿論適性を考慮もするが、必ずしも本人が希望する職種や部署に配属されるわけではない、という回答だった。
王宮で働くことはできるが、博士の助手となれるかは解らない、ということだ。
「最初から、助手として勤めるのは無理そうね」
これまでの状況から、ニキータはそう判断する。
まずは勤めて、信用を得てから、やがての異動を期待するしかなさそうだ。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ハルカのイルミンスール入学に合わせ、自分の監視で、オリヴィエも付き添いで同行できないかと問い合わせてみたが、許可は下りなかった。
「博士も本当は、一緒に行きたいんだと思うんだけどな」
そしてハルカも、博士が一緒だったら嬉しいだろう。
しかし、下りなかったものは仕方がない。
代案に基づき、パートナーのドラゴニュート、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と英霊の夏侯 淵(かこう・えん)が、イルミンスールに向かうことにした。
ルカルカは、以前宣言した通り、オリヴィエの臨時の助手をしたかったのだが、それも許可が下りなかった。
監視付きの面会ならば許可が下りたので、カルキノス達の帰還を待って、パートナー達と共に、王宮へ、オリヴィエ博士を訪ねた。
オリヴィエ現在は、宮殿の離れ、王宮敷地内にある、イコン格納庫を工房に転用した場所に収監され、そこで働いている。
入り口を入ったところが、小さなエントランスのようになっていて、小さなテーブルと椅子が設えてあった。
そこで待っていると、オリヴィエが、お茶のカップを乗せた盆を手に現れる。
「やあ」
ぱっとルカルカの表情が輝いた。
「博士、元気?」
「どんな調子だ。不足は無いか?」
剣の花嫁、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の言葉に、オリヴィエは肩を竦めた。
「不足はないけど。
毎日同じ時間に起こされて、同じ時間に休まされるのがね」
五、六日くらいぶっ続けで作業しても、その後まとめて寝ればいいと思うんだけどなあ。
面倒くさそうな口調に、ルカルカは笑う。
「そんな自由にさせていたら、罰にならないだろう」
ダリルも言い、苦笑しながら、出された紅茶を一口飲んで、彼等は吹いた。
「毎日、こんなのを飲んでいるのか?」
「こないだまでは、ハルカが淹れてくれてたんだけど。
ブルーズ君に教えて貰って、随分上手くなっていてね。このクッキーも、あの子が作ったものだよ」
彼のパートナーであるハルカは、制限なく此処に出入りできていたのだが、今はもう、居ない。
「俺が淹れてくる」
ダリルが立ち上り、
「差し入れに持ってきたのがあるんだ」
とルカルカが笑った。
「構わないかい?」
オリヴィエが、監視の騎士に訊ねる。
「同行しよう。余計なものには触れないように」
ダリルは、騎士と共にエントランスから工房内に入り、その控え室に入る。
飛空艇の運び込まれている工房は普通だったが、控え室の方は、呆れるほどの雑然ぶりだった。
その更に奥に、簡易的なキッチンがある。
ダリルは、千日紅の工芸茶を淹れて出した。
ちなみに、花言葉は『終わりの無い友情』。願いを込めて、ルカルカが選んだものだ。
「これは、土産だ」
カルキノスが、オリヴィエにディスクを渡した。
「何かな」
「ビデオレターだ。ハルカの編入初日を撮影してきた」
淵が言った。
本当は、現地からテレビ電話を繋げられたらと思ったのだが、それも、許可は下りなかった。
此処へのパソコンの持ち込みも同様だ。
外部と連絡が取れるものは不可ということで、オリヴィエは今、携帯電話の所持も禁じられている。最も、それは元々持っていなかったが。
ちなみにディスクの中は、既に検閲済である。
「だから、ポータブルプレイヤーを持ってきたよ。これならオッケーだったから。
ねね、皆で早速見てみない?」
「今は無理だろう。途中で、面会時間が切れないか?」
ダリルが時計を確認する。
「そっか、残念。
博士、後でゆっくり見てね。
そういえば、カルキ、淵、撮影は問題なかった?」
「概ねな。
カルキはハルカに懐かれて大喜びしていた」
「大喜び、なんかしてないぞ。喜び、くらいだろ」
淵の言葉をカルキノスは否定し、ルカルカはくすくす笑った。
「よかったね」
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