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お祭りなのだからっ!? 

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お祭りなのだからっ!? 
お祭りなのだからっ!?  お祭りなのだからっ!? 

リアクション



(○ ◇ ○) 『っても、最後のイベントだから』 (○ ◇ ○)

 日が暮れて街灯に光が宿る。イベント会場では眩しいくらいのライトが舞台を照らしていた。
「お待たせしました! お次は突如現れた天才マジシャン、『魔法博士』!!」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が叫ぶと、舞台上に白煙が立ち込める。その中に白い手袋と黒いマントを羽織る人物が現れた。
 そして無限に繋がるトランプやマントから鳩を飛ばすマジックを見せて登場早々に会場を沸かすと、深々と一礼する。
「私の名は魔法 博士(まほう・はかせ)。今宵は会場の皆様を魔法の世界へと誘いましょう」
 会場に激しい拍手が舞き起こる。
 すると、頭をあげた魔法博士の手袋が床に落ち、会場にいた女性の一人が小さな悲鳴を上げた。彼女の視線の先、魔法博士の手袋の外れた所に、あるはずの人の肌がなく、ただ透明になっていた。
 さらに上着、ズボン、靴と脱いでいくが、いずれも透明で中身がない。ついにはマントを頭から被り、顔と首のなくなった。残ったのは床に残った衣類のみ。
 観客達が困惑する。するとマントがモゾモゾ動きだし、盛り上がったかと思うと、中から魔法博士が現れた。
 両手を広げて無事をアピールする魔法博士。唖然としていた観客の中から拍手が一つ鳴りだし、それは会場のみ込むほどの喝采になった。
 その後も魔法博士は様々なマジックで会場を盛り上げた。
 最後に、空中に飛び散り動き回るトランプを自らも宙に浮いて回収するという驚きのマジックを見せた。回収した暴れるトランプを自身のマントの中に抑え込み、落ち着いた所でマントを広げると、再びばら撒かれたトランプと共に次々に控えていたバンドメンバーが現れた。
 再び拍手で沸く中、トランプの花吹雪とバンドメンバーに目がいっていた観客の視界から、魔法博士の姿が消えていた。
「あ、あれ? 魔法博士さ〜ん」
 レティシアが呼びかけるが返事がない。バンドメンバーも周囲をキョロキョロしていた。
「……えっと返事がないようなので一端休憩を挟みまして、次の出し物に移りたいと思います。入退場はその間でお願い致します」
 幕が降ろされ、客席には妙なざわめきだけが残った。
 その様子を魔法博士は人気のない路地から見つめていた。
「アピールは出来たな……」
 魔法博士は変装を解くと、四代目 二十面相(よんだいめ・にじゅうめんそう)が姿を現れた。
「ヴィ・デ・クルの諸君。また会おう」
 二十面相は愉快そうに笑いながら路地の奥へと消えていった。

 魔法博士に続いて、住民達によって結成されたバンドメンバーの演奏を行われている。そんな中、舞台裏手の控室ではイベントの最後を飾る『猫娘娘』のライブ準備が行われていた、はずなのだが……。
「街の復興と活気付けするにはこういう催しは必要なのはわかる。だけど……だけどやっぱり納得できるかぁぁぁぁぁぁ!」
 控え室で榊 朝斗(さかき・あさと)が叫ぶ。叫び声が室内で反響して、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は耳を塞いでいた。
 イベント会場の手伝いにきた朝斗は、本人の意図しない形で猫耳メイドあさにゃんとしてステージに立つことになっていた。
 こんなことではなかった。こんなはずではなかった。ただ、街の皆のためにお手伝いが出来ればと思っていたのに、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の所為で……。
 あさにゃん(朝斗)の口から低い笑い声が漏れる。
「ルシャンめ。何でもうまくいくと思うなよ。アイビス!」
「なに?」
「反撃だよ。ルシャンに反撃を開始するんだ!」
 既にあさにゃんが登場することは宣伝されていて、今更なしにはできない。だからせめて、こんなことにしたルシャンに仕返しをしてやろうと思った。
 あさにゃんはアイビスに作戦を説明すると、海音☆シャにゃん(富永 佐那(とみなが・さな))に協力を頼んでくるように指示をだした。
「そうね。少しお灸を据えるのもいいわね。じゃあ、声をかけに行ってくるわ」
「ショーに間に合うように頼むよ」
 若干自暴自棄になったあさにゃんから黒いオーラが溢れて出ていた。

「あれ、何やってるの?」
 廊下を歩いていた弓彩妃美は、話をしている海音☆シャにゃんとアイビスを見つけた。アイビスは妃美を見つけると、何も言わずに立ち去った。
「何を話してたの?」
「ん、ん〜なんでもないです――あ、そうだ」
 顔を背けてはぐらかそうとしていた海音☆シャにゃんが、急にご機嫌な笑顔を向けてくる。
「妃美さん、悪いんだけど控室にいるあさにゃん呼んできてくれる? 私だと声がかけにくい雰囲気なのです」
「え、まぁ別にいいけど」
 何だか嫌な感じがしたが、妃美は断らず指示された控室に入っていく。だが――
「あれ……控室は?」
 そこは控室ではなく、簡易更衣室になっていた。その時、背後から口元を抑えられ、急激な眠気が襲ってきた。

「……ここは」
 妃美が次に目を覚ました時、周囲は真っ暗だった。後ろ手で自分が座っている椅子に縛られているらしい。妃美はどうにか両手が自由にならないか暴れてみるが、一向に外れる気配はなかった。
 『誘拐』の二文字が脳裏によぎる。
 正面の方から微かに話し声らしき物が聞える。叫んでみるが誰かが気付いてくれる気配はない。
 その時、横の方から女の人の声が聞こえた。
「その声はルシャン姉さん?」
 話を聞くとルシェンも偽の控室となっていた簡易更衣室におびき寄せられ、拉致されたとのことだった。誘い出したのはいずれも海音☆シャにゃん。彼女が関わっていることは間違いない。
 二人は縄を外す方法を模索し始めるが、なかなかうまくいかない。
「まったく何を企んでいることやら――ん?」
 そんな時、足元に光が射した。機械音が鳴り響き、正面の幕がゆっくりと持ち上がったのだ。
「お待たせしました! こちら猫娘娘(ねこにゃんにゃん)新メンバーのお二人です!」
 マイクを通した海音☆シャにゃんの声に拍手が重なる。眩しいくらいに当てられるライトに目を細めたルシェンと妃美。ようやく慣れ始めて開いた時、そこがイベント会場の舞台上だと気づいた。
「え、え!? ここ舞台?」
「ちょっ、姉さん、服!?」
 訳が分からず戸惑うルシャンの服装を見て、妃美が目を丸くする。ルシャンは身に覚えがないにも関わらず、見ている方が恥ずかしくなるような衣装に身を包んでいた。
 腰の所から入ったスリットがルシャンの細い生足を露出させ、上半身は胸をギリギリで隠し、おへそ丸出しの大胆仕様。衣装と同じカラーの薔薇がなんともいえぬ妖艶さを引き出していた。
「そういう妃美さんだってその服は……」
「え!?」
 自分の服を見て驚く妃美。ジャージ姿で手伝いをしていたはずが、いつの間にかおとぎの国にでも居そうな可愛らしい服装になっていた。
「『猫娘娘(ねこにゃんにゃん)NEXT』始動っ☆ 本日はこちらの新メンバーと共にライブスタートなのです☆」
「「はぁ!?」」
 海音☆シャにゃんの言葉にルシャンと妃美の声が重なる。新メンバーとして参加させられるだけでも初耳で嫌なのに、ライブということは歌って踊らなくてはならない。そんなの絶対無理だと、妃美は思った。
 あさにゃんとアイビスが括り付けてあった縄を解いてくれる。
「ねぇ、アイビス。なんで妃美さんがいるの?」
「シャにゃんさんが巻き込んだみたいよ」
 縄が解かれて椅子が回収されると、音楽が流れ始めた。期待に満ちた観客の視線が向けられ、ガチガチになる妃美。すると、前奏の間左右に身体を動かしてリズムをとってた海音☆シャにゃんが、妃美に近づいてきた。
「ほら、黙って突っ立てた方が恥ずかしいですよ」
 視界の隅にテレビ局のカメラが映る。
 逃げ場はなかった。ここで逃げたらそっちの方が明日からの学校生活でよっぽど恥ずかしい思いをする。
 妃美の中で何かがプツンと切れた。
「あぁ、もう! いいわ! やってやるわよ!」
「私も限界です……」
 顔を真っ赤にしてあさにゃんに文句を言っていたルシャンの中でも何かが切れる音がした。ルシャンの口から高笑いが流れ出る。既にテンションが可笑しい状態だった。
「あなた達! この私に酔いしれなさい!! 魔法少女ダークローズ★ルシェンの美貌に、美声に、心を捕らわれ、胸焦がしなさい!!」
 吹っ切れたルシャンはノリノリで観客を魅了する。妃美も負けじと笑顔を振りまいた。
 海音☆シャにゃんは慣れない二人のサポートに回りつつ、しっかりと歌と踊りをこなす。今回は目立たなくて済みそうと思っていたあさにゃんだが、ルシャンと海音☆シャにゃんのに引っ張られ、そうもいかなかった。

 ――全ての曲を歌い切ると、会場は盛大な拍手で包まれた。気力を使い切った妃美は、脱力してその場に座り込む。
「も、もう立てない……」
「さすがに、疲れました」
 ルシャンは大量の汗を流しながら今にも倒れそうな勢いだった。
 すると、海音☆シャにゃんが――
「それではルシャン室長。そろそろ本番と行きますか?」
「はい?」
 ルシャンが不思議そうに首を傾げていると、舞台を白煙が包む。その間に、舞台脇からアイビスがやってきて、海音☆シャにゃんの長髪ウィッグの後ろに隠れていたファスナーを降ろす。すると、中から――
「あさにゃ〜ん☆」
「ひぃ!?」
 笑顔以上のものを感じさせる、高圧的な印象と妖美を兼ね備えた服装をした佐那が現れる。その足元には、ゆる族の抜け殻を改造して作った海音☆シャにゃんの着ぐるみがあった。
 悪寒を感じて後ずさるあさにゃんに、佐那は飛びかかると服をひん剥こうとする。
「ぎゃあああ、ややや、やめて! 人前だから、脱がさないで!」
 しかし、片方の肩を露出させて涙目になりながらで訴えるあさにゃんに、佐那は余計に興奮している様子だった。
 その様子をぼんやり眺めていたルシャンが急に笑いだす。
「ふふふ――アイビス! 佐那さん!」
 指を鳴らすと、アイビスが黒い修道服と鞭を投げ渡し、佐那が【風術】でルシャンの周りに風を巻き起こす。風に隠れて姿が見えなくなったルシャン。
 それが収まると、中から修道服に着替えたルシャンが現れる。背後のセットも入れ替えられ、舞台があさにゃんを弄る空間、ルシェンの懺悔室モードとなった。
 佐那に捕まったあさにゃんにルシャンが近づく。鞭で床を打ちつけるたびにあさにゃんの肩がビクリと跳ね上がった。どうにか絞り出したあさにゃんの叫び声が会場に響き――あさにゃん弄りが始められた所で、幕が下りた。
「えっと……」
 戸惑った様子で袖からレティシアが現れる。舞台の上からだと困惑した観客の様子がうかがえた。親は子供の目を隠し、顔を真っ赤にする人もいた。
 レティシアは咳払いをして無理矢理に締めくくる。
「これにて全ての出し物を終了とさせていただきます! この後は花火の打ち上げも予定されています。そちらもよろしくお願いいたします」
「やめっ、やめて……」
「あはは……ありがとうございました!」
 幕越しに聞こえた声を無視して、レティシアが深々とお辞儀をすると、大量の拍手が巻き起こった。
 そんな中、観客席でのんびり鑑賞していた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は慌てだす。
「花火!?」
「まずいですよ! 急いで戻りましょう!」
 二人は食べかけのたこ焼きを袋に戻して、周囲の人に謝りながら会場を急いで後にした。