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お祭りなのだからっ!? 

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お祭りなのだからっ!? 
お祭りなのだからっ!?  お祭りなのだからっ!? 

リアクション



○ ● ○ 『待ったなし!』 ○ ● ○

 祭りの開催日が近づくに連れて、イベント会場の方の忙しさも日に日に増していく。
「ハイハイ。これがイベントの流れですねぇ。明るく元気に、と……それ以外に注文はありますかねぇ?」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は主催者側から当日の流れを確認する。彼女はイベント会場の司会進行役を担当することになっていた。
 当日ミスがないように、出し物の内容を細かくメモ取りながら頭に叩き込むレティシア。すると会場設営の手伝いを行っていたミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が機材を抱えて駆け寄ってきた。
「レティ、申し訳ないんだけど私の担当内容も聞いておいてくれる? ちょっと手が離せないの!」
「承知しました。ここはあちきに任せてください」
 胸を張って応えるレティシア。ミスティは当日落し物や迷子の連絡を放送で行うことになっており、その待機場所や注意事項をレティシアが聞いておく。
「他には何か――」
「すいません」
 レティシア達が話していると、黒いコートに白い手袋をした魔法 博士(まほう・はかせ)が話かけてきた。
「私の順番を確認できますか?」
「はい、いいですよ。名前は?」
魔法博士
 レティシアは主演予定者が順番に並んだリストに目を通していく。
「魔法博士……魔法博士……ありました! 最後の方ですねぇ」
「そうですか。ありがとう」
 レティシアがリストを見せると、魔法博士はほとんどリストに目をやらず、口元に薄ら笑みを浮かべて立ち去っていった。
「……変な人」
 首を傾げるレティシアだったが、主催者側に呼ばれため深く考えないことにした。

「ポミエラちゃん、洋服の順番ってもう決まってる?」
 ファッションショーの間司会進行役を担当させてもらうことになった遠野 歌菜(とおの・かな)は、企画者であるポミエラ・ヴェスティン(ぽみえら・う゛ぇすてぃん)にショーの内容を詳しく窺った。
「はいですの! 最初は少し落ち着いた感じの秋物ファッションから入って、少しずつインパクトのあるものを……」
 ポミエラは瞳を輝かせ楽しそうに語りだす。その様子からショーを心底楽しみにしているのが伝わってきた。歌菜はその気持ちに応えて思い出に残るショーにしてあげたいと思った。
「了解。後で羽純くんにも伝えておくね。音楽も洋服の雰囲気に合わせたほうがいいからね♪」
「御願いしますわ」
 二人が話終わると、まるでタイミングを見計らったのように出かけていた月崎 羽純(つきざき・はすみ)が帰ってきた。
「ただいま」
「グッドタイミングだね。さすが、噂をすれば羽純くん♪」
「なんのことだ?」
 歌菜は音響と照明の指揮をとることになっていた羽純に、観客に見せる洋服の順番について伝える。
「わかった。曲をいくつか選んでおくから、洋服を撮影した写真を渡してくれ。その方がイメージしやすい。他の裏方には俺から伝えとく」
「おねがいね」
 歌菜は紙コップに麦茶を注いで羽純に手渡す。
「ミッツさんとジェイナスさんには連絡ついた?」
「ジェイナスは病院にいたから連絡がとれたよ。でもミッツの方は連絡がとれなかったな。病院抜け出してどこで何をしているのやら」
 冷たい飲み物がカラカラに乾いた羽純の喉を潤していく。
 すると、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の手を引いてやってくる。
「ポミエラ、セレンを連れて来たわよ」
 ポミエラがセレンフィリティに駆け寄る。
「もう! どこに行ってんですの!?」
「ん? あたしに何か用だった?」
「当然ですわ! まだサイズ測っていませんもの!」
 ポミエラは頬を膨らませて両手をブンブン振りまわしていた。
 セレンフィリティとセレアナは、ファッションショーのモデルに申し出てくれていた。アイデアが降りてきたポミエラはその構想をまとめる。そして、いざ二人のサイズを測ろうとした時、セレンフィリティの姿がなくなっていた。
「ごめんね。裁縫は手伝わなくいいって言われたから……」
「あら、セレン。それは私のせいってこと?」
 腕を組んだセレアナが目を細めてセレンフィリティを見つめていた。
「だって手伝おうとしたら『セレンは大雑把だし、そういうの苦手でしょ』って言ってたじゃない」
「事実でしょ。サイズくらいは測ってから行くのは当然。せめて一言くらい声をかけていきなさいよ」
「むぅぅ……」
 セレンフィリティが不服そうにしていた。
「測りますからじっとしていてくださいの」
 メジャーを手にポミエラが測定を行う。結果は手元のメモ用紙に記入されていった。
 測定が終わり、さっそく洋服作りが始まる。
「もう大丈夫よセレン。後は私とポミエラでやるから戻っていいわ」
「はいはい。わかりました。邪魔者は退散しますよ」
 セレンフィリティはむすっとした表情のまま、イベント会場の設営に戻って行った。
 ポミエラとセレアナは協力して洋服を仕上げる。
「ねぇ、ポミエラ。どんな物を出す予定なの?」
「色々考えてはいるのですが、ワンピースをもう何着か用意してみようかと思っていますの。けれどあまり日数もありませんので、今から新しく作るよりは用意してある物のサイズ調整が、当日までの主な仕事になると思いますわ」
 そう言いながらポミエラは新しいワンピースの細かなデザインを決めていく。すると、机の向かい側に座っていたセレアナがふっと微笑んだ。
「もしよかったらセレンの分も作ってもらえないかしら? 出来るだけ華やかで可愛らしい感じで。そういうの嫌いじゃないはずだから」
「もちろん、いいですわ。セレアナさんの分はどうしますか?」
「私はいいわよ。でも作ってもらえるなら控えめな感じがいいわね。……そうだ。私が作った服を持ってきているんだけど、よかったら後で見てくれないかしら?」
「え、そうなんですか!? ぜひ参考にさせてください!」
 身を乗り出して喜ぶポミエラに、セレアナはそんな大層なものではないと謙著に応えていた。
 二人はアイデアを出し合いつつデザインを完成させていく。お互いの好みを語りながら、談笑を交えて進むトークはなかなかの盛り上がりを見せていた。
「あ、いたいた!」
 そこへ想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が大手を振ってやってきた。
「ポミエラちゃん探したんだよ」
「瑠兎子さん、こんにちは。わたくしにご用でしょうか?」
 首を傾げるポミエラに、瑠兎子は白い歯を見せて笑いかける。
「うん。ワタシ達にも協力させてよ。友達としてポミエラちゃんの手伝いがしたいの!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
 ポミエラ嬉しそうに瑠兎子の手を握り締めた。
 すると、ポミエラは瑠兎子の背後に隠れる女の子の存在に気づいた。
「ワタシ達ということはそちらの女性もですの!?」
「!?」
 女の子の肩が脅えたように震える。
「ほら隠れてないで出てきなさい!」
 瑠兎子は腰が引けている女の子の襟を掴むと、ポミエラの前へと突き出した。
 薄い茶色の長髪に柔らかそうな肌、クリクリした緑色の瞳を持った可愛らしい女の子だった。
「……久しぶり」
 女の子の口から男の子みたいな低めの声が聞えてきた。聞き覚えのある声だったが、ポミエラには女の子が誰だかわからないかった。
「どこかでお会いした事があったでしょうか?」
「あ、あれ、気づいてない……すす、すいません。やっぱり初めてまし――」
「ウソをつかないの! この子は夢悠。私の義弟の想詠夢悠よ!」
 慌てる女の子の頭を、瑠兎子が思いっきり平手で叩いた。
 ポミエラは『想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)』の顔を思い出す。そして――

「ええええええええええええええええええ!!」

 大層驚いた。
 夢悠は桃幻水で外見を女の子に替えて長髪のカツラをつけていた。ポミエラは困惑した表情で夢悠を見つめる。
「ご趣味とかでは……」
「違うからっ! あ、あくまで人助けの時にしかしないんだよ! 本当だから!」
 顔を真っ赤にして夢悠は必死に言い訳をしていた。

 ポミエラのファッションショーは解消つつあったが、他の所では人材不足が続いていた。
「そういうわけで妃美さんにお手伝いを頼みたいのですが、駄目でしょうか?」
 富永 佐那(とみなが・さな)は弓彩妃美に祭り当日の協力を要請していた。妃美はファッションショーの手伝い以外に当日予定はなかったので、引き受けることにした。
「いいけど、佐那達は何やるの?」
「『猫娘娘』のライブをやります☆」
「ねこにゃんにゃん……というとまた朝斗が?」
「そういうことになりますね♪」
 楽しそうに笑う佐那。すると、少し離れた場所で機材を運び込むアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)榊 朝斗(さかき・あさと)の姿が目についた。
「朝斗。これはここでいいのよね?」
「うん。そこに置いといて」
 住民に感謝されながら作業を手伝う朝斗の表情は嬉しそうだった。
「あのルシェンが街の復興のために手伝いをしたいなんて言い出すとはね。こういう手伝いなら僕はいつでも歓迎なんだけどな」
 朝斗は次の機材を取りに、駆け足で立ち去って行く。
 その後ろ姿を見送った妃美は、眉間に皺を寄せていた。
「あれは自分がライブに出ること知らないんじゃない?」
「大丈夫ですよ。ああ見えて本番には強いタイプなんですから☆」
 佐那はぺ○ちゃんみたいに舌を出して笑っていた。

「よいっしょっと。この辺でいいかな」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は自分達のショーに使う冷蔵庫や自動車を会場の裏手に運び込んだ。その上に緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が雨よけと目隠しの意味も兼ねてブルーシートで覆っていく。
「ありがとう陽子ちゃん」
 感謝の言葉に、箒の乗った陽子は笑顔で微笑み返す。
 すると透乃の横で月美 芽美(つきみ・めいみ)が腕を回しながらため息を吐いた。
「疲れたわ」
「芽美ちゃんもありがとう」
「どういたしまして。でも次からは重い荷物運びは他の人に頼んで欲しいわね」
「ごめんね。今度からはそうするよ」
「あの芽美ちゃん。私、スキルを発動させてましたよね?」
 眉根を寄せて尋ねる陽子に、芽美は肩を竦めてみせた。
「お〜い、透乃。手が空いてるなら手伝ってくれよ!」
 謎の魔法少女ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))が声を張り上げる。ろざりぃぬもトラックからショーに必要な物を運び込んでいる最中だった。
「わかった、今行く!」
 自分達の仕事が終わった透乃は、重そうな物を中心に同じく会場の裏手へと運び込む。
「プロレスの道具?」
「まぁね。今回もみんなが可笑しく笑えるような内容にする予定だよ!」
 楽しそうに笑うろざりぃぬ。そこへ鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がやってきた。
「ろざりぃぬさん、ちょっといいですか? 『泣いてうなぎマンを斬る』について確認したいんですけど」
「いいよ」
「ないてうなぎまん……?」
「ちょっとしたパフォーマンスだよ」
 ろざりぃぬは透乃に一言謝り、貴仁と打ち合わせのため、一端その場を離れた。
「着ぐるみを着た俺が斬られて相手に圧し掛かる。でいいんですよね?」
「そうそう……」
 一方、ろざりぃぬ達はプロレスをより多くの人に見てもらうため、宣伝にも力を入れていた。
「ふふん♪ ぬるぬるのぉ〜、むちむちなのじゃ〜♪」
 医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)は鼻歌まじりに配布用ビラを作っていた。選手の写真を加工して作ったプロレス宣伝用ビラ。
「出来上がりじゃ!」
 完成した物を持ち上げて正面から見据える。すると、房内が苦笑を浮かべた。
「おなごがちと少ないのが残念じゃな」
 それは何故かエロティックな印象を受ける仕上がりになっていた。

 祭りの運営本部では源 鉄心(みなもと・てっしん)が携帯電話で通話をしていた。
「――はい。よろしくお願いします。失礼いたします」
 話し終えると、緊張から解放され深く息を吐き出した。彼は先ほどまで空京のテレビ局に祭りのことを取り上げてもらえないか頼んでいた。根気あるお願いの結果、朝のニュース番組で紹介してもらえることになった。
「朝のニュース一つ程度ではまだまだだろうけど、まずは一歩かな。とりあえずネットの方をどうにかしないと……」
 鉄心は作りかけのホームページの編集を再開する。紹介分を書きこみ、見やすいデザインに仕上げる。さらにデジタルビデオカメラで撮影した祭りの準備をする住民や生徒達の様子を配信できるようにする。宣伝のためにやっておきたいことは山ほどあったが、時間との関係で優先度の高い物から処理する必要があった。
 人が出払って鉄心だけになっている室内に、キーボードを叩く音が反響する。外から聞こえてくる熱気に満ちた声。それに対して室内は静寂そのものに思えた。
 そんな時――
『月見うどん』只今戻りました」
「ただいまですの……」
 静けさを破って、ウサギとネコのケモ耳で可愛らしい格好をしたティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が祭りの宣伝から戻ってきた。
「おかえり。ゆっくり休んでくれ」
 鉄心は画面に視線を向けたまま二人に声をかけた。
 イコナが冷蔵庫に駆け寄り、ティーが鉄心に近づくとデジタル一眼POSSIBLEを差し出した。
「鉄心。カメラをお返ししますね」
「ああ、ありがとう。良い写真はとれたか?」
「おそらく大丈夫だと思います」
 鉄心はティー達が宣伝ついでに撮影してきた写真を確認する。そこには傷ついた街の現状と、夏祭りに向けて意欲を燃やす人々が映されていた。
「これなら使えそうだな」
「良かったです。それじゃあ私はポミエラちゃんに試着が出来るようにお願いしてきます」
 ティーは微笑みを向けると本部を後にする。彼女はより祭りの楽しみを増やすため、ポミエラにファッションショーで使用する衣装を後に試着できるよう、頼みに行った。
 鉄心は写真のデータをパソコン取り込み、ホームページに使えそうなものを選別していく。何百もある中から、見た人の興味を惹くもの、印象に残る物を探す。
 すると、突然キーを叩く音とは違う楽器による音色が室内に鳴り響いた。
 怪訝に思いながら鉄心が振り返る。すると真剣な眼差しでイコナがフルートを練習していた。ポミエラのファッションショーで披露する予定なのだが、時折音が外れている。
 どんなに外れても諦めず頑張るイコナ。その光景が微笑まして、鉄心はビデオカメラを向けて撮影していた。暫く黙って見守っていたが、ふいにイコナにカメラの存在を気づかれてしまう。
「ちょっ、なに撮っているんですの!?」
「――ん」
 テーブルにフルートを置いて駆け寄ってくるイコナに、鉄心は立ち上がってカメラを持つ手を天井に向けて伸ばした。
「か、かめらぁ〜」
 イコナは飛び跳ねながらカメラを奪い取ろうと必死だった。
「失礼します」
 そこへ鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が部屋に入ってきた。白羽は鉄心とイコナを見て困惑した。
「すいません。ここでホームページ作成をしていると聞いたのだけど……」
「それなら今やっていた所ですけど?」
 鉄心の背後には確かにホームページを作成中らしい画面が見えていた。白羽がその事に気づくまで数秒かかった。
「……うん、まぁ、いっか。じゃあお願いがあるんだけど、ボク達のプロレスショーを宣伝してもらえないかな?」
「私達のライブもお願いします」
 白羽に続いてルシャンも自分達が作ったポスターを手に迫ってくる。イコナも含めて三人の女の子に壁際に追い詰められた鉄心。
「わ、わかったからとりあえず離れてください!」
 イベント宣伝を了承した鉄心。その後も多くの出店者から宣伝のための記載を要求され、鉄心は数日の間パソコン画面に貼りつくような形になってしまった。