空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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リアクション



テロリストとの非戦闘的攻防


 時間は遡り、ろくりんピック最終競技前日の事。
 警備やセレモニーに関わるスタッフは、実際に会場でリハーサルやブリーフィングを行なっていた。
 教導団員の如月 和馬(きさらぎ・かずま)が、警備資料として会場である空京スタジアムの見取り図を警備スタッフに配る。
 だが、その地図からは一部の扉や通路が意図的に抜かれていた。
 和馬は、教導団の先輩であるジャジラッドから誘われて今回のテロに参加した、鏖殺寺院の協力者だったのだ。
 だが、その参加理由はメニエスのような「シャンバラの文化を侵略する地球への抵抗」ではなく、また近親縁者がシャンバラの犠牲になったという事でもない。
 単に、面白そうだったから参加しただけだ。
 和馬は警備の立場を利用して、メニエス達の脱出路を探して確保していた。
 さらに彼が警備陣に配った見取り図からは、その経路が消されている。
(種は撒いた。後は勝手に踊ってくれるのを待つだけだな)
 ブリーフィングを終えて、和馬はひそかにほくそ笑んだ。


 同じ頃、和馬のパートナーエトワール・ファウスベルリンク(えとわーる・ふぁうすべりんく)は、空京のとある建設現場に来ていた。
 この日は工事が休みで、現場には誰もいないはずだった。
 エトワールに対峙していたのは、あきらかに色々な意味で一般人ではない男達だった。
 メニエスの人脈でどうにか探し当てた、鏖殺寺院地球支部の連絡員である。
 しかしエトワールは和馬と別行動すべきではなかった。
 もっとも彼と二人で来た所で、結果は変わらなかっただろう。だが怪我の程度はずっと軽かったはずだ。
 エトワールは彼らに、自分たちの計画と要件を話す。
「……万が一の時の為に、寺院のイコンパイロットであるカミロ・ベックマン氏にイコンでの逃走を考えて待機しておいてもらいたいんです」
 彼女の言葉に、連絡員はいっせいにあざ笑いを浮かべた。
「このクソ女、カミロ様をタクシー扱いする気だぜ?!」
「しょうがねぇよ。頭、馬鹿だから、自分が何言ってるかも分かんないんだろ」
 周囲の反応にエトワールは驚き、聞きただそうとする。
 そのとたん背後で控えていた男が、彼女に向けてサブマシンガンを発射した。エトワールが吹っ飛ばされて地面を転がっても、弾が尽きるまで撃ちつくす。
 仲間が呆れたようにボヤく。
「おいおい、せっかくの女なんだから、楽しませろよ」
「うるせえな。俺は能無しが大嫌いなんだよ。ダークヴァルキリーを封印されやがって、チクショウめ!」
 サブマシンガンを掲げた男は、血まみれの肉塊に向けてツバを吐いた。

 銃声を聞きつけて、建設現場に忍び込んで猛暑をしのいでいたホームレスがやってくる。
 もはや連絡員の姿はなかったが。
「ひいいいい!! し、死体だーっ!」
「……た……ぁ……」
 エトワールは虫の息で助けを求めようとするが、ホームレスはパニックに陥って、悲鳴をあげながら逃げ去っていった。
 その後、大騒ぎするホームレスから話を聞きだした警官が現場に駆けつけ、救急車を呼ぶ事になる。


「あれぇ?」
 VIPルーム近辺の警備を担当するクイーン・ヴァンガード特別隊員渋井 誠治(しぶい・せいじ)は首を傾げた。
 納得いかない、という顔で自身の銃型HCとブリーフィングで配られた見取り図を見比べている。
「どうしたの?」
 ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が聞くと、誠治は地図の一点を指した。
「この地図、乱丁じゃないか? 非常口が書いてないし、抜けてる通路もあるし」
「警備スタッフの打ち合わせで配った地図なのに? 勘違いではないの?」
 誠治は今度はHCで、自前の地図を表示させた。蒼空学園が開発したハンドヘルドコンピュータには、マッピング機能もある。
「オレが実際に歩き回って作った周辺マップだ。比べてみてくれよ」
「……確かに、抜けてるわね。しかもルートになってるわ」
「これ、想定される逃走経路のひとつなんだよな」
 ヒルデガルトは真剣な表情で誠治を見た。
「確認が必要ね」
「ああ!」

 誠治とヒルデガルトは、配られた地図にない防火扉をくぐって、広い非常用階段を進んでいく。
 やがて突き当たりの扉を開けると、外に出た。スタジアムの裏手で、観光客やスタッフが通らない場所だ。
 誠治が空を見上げると、ちょうど警備スタッフの藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)が小型飛空艇で建物上空を巡回中だった。
 天御柱学院生の裄人は、コリマ校長を守る為にとスタジアム周辺の警備に参加していたのだ。
 イコンパイロットの裄人にとって飛行艇での警備は心もとないものだったが、それでも自分にできる限りの事をしよう、と注意を払っている。

「おおーい、ちょっと聞きたいんだけどー!」
 誠治は、上空の裄人に大きく手を振る。飛行艇が下りてくると、誠治は聞いた。
「この扉あたりで怪しい奴とか見なかったか?」
「怪しいかは分からないが……一人でここをチェックしていた者ならいた。こちらの飛行艇に気付いて、すぐに建物内部に戻ったのが、どうも引っかかっていた」
 裄人は携帯電話を取り出して開く。
 ソートグラフィーで記録しておいた、その人物の映像だ。
「仲間を疑うのは嫌だが……もしもの事があるからな」
 そこにサイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)が駆けてくる。彼は隠しカメラや爆発物が仕掛けられていないか捜索していたのだが、裄人が珍しく見知らぬ人と話しているのを見て、興味を引かれたのだ。
「皆さんで何を見てるんですかー。
 うん? なぜ如月さんの写真を?」
「知ってるのか?」
 サイファスはうなずく。着任にあたって、他のスタッフにも挨拶周りした際に見た顔なのだ。
「警備スタッフで教導団員の如月さんですよ」
「地図を配ったのも彼ね」
 ヒルデガルトが指摘する。誠治は懸命に思索をまとめた。
「テロリストが使うかもしれない通路をわざわざ確認しときながら、あえて、そこを抜いた地図を皆に配る……。こいつは何かありそうだな!」


 誠治たち四人は、警備スタッフの幹部である教導団第一師団憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)のもとに報告に向かった。
 如月和馬がスタッフに配布した地図、HCでマッピングした地図、裄人がソートグラフィーした画像を、大尉はまじまじと眺める。ただでさえ、厳しいコワモテが、よけいに怖い表情になる。
「……如月がルート確保役なら、他に鏖殺寺院の主要部隊がいるはずだ。ここで奴をしょっぴいたところで、別ルートでの侵入の恐れがあるな。
 この通路内部を警備班で固め、侵入にも脱出にも備えるとしよう。如月には尾行をつけ、仲間と呼応した動きを見せ次第、確保だ。軍規破りの常習犯として前々から目をつけてはいたが、テロリストに通じていたとはな」
 教導団としても、和馬を疑いの目で見ていたので、話は早かった。
 玄豺は腹心の部下である憲兵たちに、次々とそうした指示を飛ばす。
 一段落つくと、彼は苦々しく言った。
「しかし我が軍に潜入したテロリストのスパイを、蒼空のQV隊や天御柱のパイロットが発見するとはな……。東側生徒でなかっただけ、マシか。
 ともあれ貴君らの協力には、深く感謝しよう」
 いかめしい顔で言われても、誠治も裄人も逆に戸惑ってしまうのだが。裄人は黙りこくって、サイファスの後ろに下がっている。
 憲兵の一人が、彼らにそっと囁いた。
「すごいですね。鬼の灰大尉に褒められるなんて。うらやましいです」
「そうなのか?」
 誠治は実感が沸かずに、首をひねった。