空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
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閉会式 結果発表


 2020ろくりんスタジアムこと空京スタジアム上空。
 閉会式を上空から撮影する為、レポーター修行中の六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は撮影スタッフと共に、小型飛空艇ヘリファルテに乗り込んでいた。
 すでに空は夕焼けが消え、夜の闇へと近づいていた。
「スタジアムが光り輝くステージのようにぽっかりと浮かび上がっています。
 ここで勝利を告げられるのは、東シャンバラか、西シャンバラか。発表の時が迫っています!」
 優希はレポートを終えると、小型飛空艇ヴォルケーノに乗った麗華・リンクス(れいか・りんくす)が、ふたたび中継がまわってくるまでに、新たな撮影ポイントへと飛空艇を導く。
 麗華の飛空艇が蛇行して進むので、優希が聞いた。
「飲んでませんよね?」
「……有事の際の為に、酔ったフリこそしているが飲んではないぞ?」
 麗華は答えて、にやりと笑う。
 優希は信じるしかないと、眼下のスタジアムに注意を向けた。
「閉会式が何事もなく終わるといいのですが」



 ろくりんピックの戦いが終わり、ついに結果が発表される時が来た。
 会場内にドラムロールが響き渡る。
 アナウンサーが興奮の面持ちで語り始める。

「それでは、東シャンバラと西シャンバラの得点と勝者を発表させていただきます!



    東シャンバラ…………366点!














    西シャンバラ…………209点!






  東シャンバラの勝利です!!! 」



 東シャンバラのエンブレムが描かれた旗がスタジアムにあげられ、夜空にはためいた。

 勝利した東シャンバラチームからは、次の三人が代表して表彰を受ける。

・東シャンバラチーム団長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)
・東シャンバラチーム応援団長クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)
・東シャンバラ代王セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)


「やりましたよ、イーシャンの皆さん! 我々の勝利です!」
 クロセルが高らかに宣言すると、東シャンバラチームの応援席から大歓声が起こる。
 プレゼンターであるシャンバラろくりんピックの役員と、月桂樹の草冠を載せた盆を持つリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)、花束を抱えたレイ・パグリアルーロ(れい・ぱぐりあるーろ)ら少女たちが進み出る。
 東チームの三人には、月桂樹の草冠がかぶせられ、花束が贈られた。
 実は、月桂冠を作成したのは、リュースである。
 大会で上位入賞者に贈られる花束は、彼の店「T・F・S」で卸していた。
 今、三人に渡された花束も、この店のものだ。トルコ桔梗を中心に、夏向きの涼しげで綺麗なブーケに仕立てられている。
 三人のうち年少のエリザベートには、赤や黄色、紫と、色とりどりで可愛らしい花束が贈られていた。
 いずれもリュースとレイが、花を一本一本選別し、リボンで綺麗に止めて作った花束だ。
 セレスティアーナは不思議そうに、花束を見る。
「この花や冠は、何かすごいものなのか?」
「この世界が、花を愛でる世であってほしい……そうした想いを込めて作った花束です」
 リュースはテロで両親を喪っている。出来ることなら、戦がない世界でいて欲しい。たとえ現在の情勢では、難しいとしても。
「そうか。では、大切にしなければならんな!」
 セレスティアーナはうなずきながら、花束を両腕でそっと抱えた。




 勝者を表彰するセレモニーが一段落ついた時、
 突然、会場のスピーカーが大音響を響かせた。

「 We wre RAKE!! 」

 続いてグラウンドに、一団のバイクの軍団が現れる。
 その中の一台、ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)の背中に乗せられ、高木 陽子は目が点になっていた。
(なんだか、スゴイ事になってる……)
 陽子信者の南 鮪(みなみ・まぐろ)が、会場からブン取ったマイクで宣言する。
「ヒャッハァ〜! どけどけェ〜! 陽子さんが世界をRAKEしに参られたぜ」
(いや、あの……))
「P−KOライブ巻き起こし、彼女らが神を超える神、新時代の支配者である事を知らしめるのだーッ!」
(………………)
 そしてバイクは表彰台のステージ前で止まった。
 小倉 珠代(おぐら・たまよ)は飄々とした調子でバイクを降り、唖然としている陽子を、振り返る。
「さあ、これから『P−KO』ライブよ」
 渡部 真奈美(わたなべ・まなみ)は表情を輝かせている。
「サプライズにこんな大舞台でライブなんて、最高だぜ!!」
「あの……本当に……ここで演奏するの?!」
 陽子は、収容人数20万人の超巨大スタジアムを呆然と見上げる。さらには、数え切れない数のテレビカメラがこの会場を中継している。
 すぐ近くでカメラを構えていた女性クルーが、彼女達に向き直る。
 よく見れば藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だ。珠代がこれから演奏するので、彼女の代わりにカメラを預かるのだ。優梨子はこの為に、大会開始時から珠代のアシスタントして仕事を学んできている。
「ヨーコさん、『P−KO』は東西双方からチア枠で呼ばれました
 やはり『P−KO』は汎シャンバラ的存在。東西の垣を越え、神をも越える神なのです!」
「ええぇ?!」
 驚く陽子に、真奈美が言う。
「あんなにたくさんの人が演ってくれっていうなら……ヤッてやろうぜ!!」
「う、うん。それは、とてもありがたいよ」
 会場から、大きな歓声が沸きあがる。
 見ると珠代が先にステージにあがって、おだやかに観衆に手を振っている。
 真奈美は陽子の腕をひっぱって、ステージに駆け上がり、待っていた珠代の元へ。
「大丈夫よ、ヨーコ。マナだって最初に話を聞いた時は、足がガクガクのブルブルだったのよ」
「たまちゃん……この瞬間に、言わなくてもいいだろっ」


 ヨーコはギターを、たまちゃんはベース、マナはドラムに。
 それぞれの武器を装備し、戦闘配置につく。
「さーあ、巻き込まれちゃってポカンとしてる奴も、待ち焦がれてた野朗どもも!
 つきあってもらうぜー! RAKE! RAKE! RAKE!!」
 彼女達の代表曲となった、その曲が高らかに始まった。

『アイツにRAKE(Full Ver.)』




 このライブは乱入ゲリラライブの様相だったが、実はマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)があらかじめシャンバラろくりんピック委員会と交渉、さらには入念な打ち合わせを重ねたゲリラライブ形式である。
 つまり、演出上はゲリラライブの体裁であっても、警備に混乱をきたさないようにスケジュールに組みこみ、関係各方面に手配をしているのだ。
 なお鮪には、その事はまったく伝えていない。彼だけは本当に、乱入だと思いこんでいた。
 ステージのソデでは宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が見守る。
(さあ、次の仕事は、早着替えの手伝いとか、ウェヘヘヘ、ひょっとして役得? ……ごめんなさい)
 蕪之進はその場にひれ伏した。カメラで撮影に忙しいはずの優梨子が、異様な気配を放ったのだ。
 蕪之進は、今日もボロ雑巾のように働くしかなかった。
 カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)も別のカメラから映像を撮っている。後々編集してネットで世界中に配信するつもりだ。
「病床の某S少年や、どこにいるともわからない女王陛下に、天の岩戸的に歌声が届くといいねっ」
 一方マリーは少々、浮かない表情で白熱するステージを見つめる。
(できることなら秋葉原四十八星華として、ここに立ちたかった)
 マリーはアイドルらしく憂えた。
 弁髪でもアイドル。髭でもアイドルだ。

 そして、あっと言う間にフィナーレがやってくる。
「このステージを実現させてくれた仲間達に、大きな拍手を!!」
 ステージ上にメンバーから、優梨子に蕪之進、マリー、カナリーと呼ばれていく。
 マリーは思わず足を止めるが、カナリーがその背中を押した。
「マリちゃん、出たいなら出ちゃえばいいんだよ!」
 なお鮪はと言うと。
 誰に呼ばれずとも、勝手にステージにあがって、ハーリーを乗り回していた。
 マリーが手配した(ドラマ用)パトカー数台が走ってきて、車内から飛び出した警官(役者)が、鮪を捕縛しようとする(芝居)。
「ヒャッハァ〜! 新時代の幕開けだぜぇ〜!!!」
「ドルン!ドルン!ドルン!(RAKE!RAKE!RAKE!)」
 鮪とハーリーは追手をかわすと、ドップラー効果を巻き起こしながら空京スタジアムを飛び出していった。