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リアクション
道を切り開け
大きな障壁のひとつ、ルークは焼け焦げ、小さな塊となって終焉を迎えた。ルークに飲み込まれ、消えうせるかと思われたクイーンも無事契約者たちに救出されたらしい。待機していたアラムはストークの動作チェックをもう一度軽く行った。ゼロとの間のポーンやイレイザーは、駆逐部隊が動いてくれるようだ。今度はアラムが、自身の存在意義のすべてをかけてゾディアック・ゼロを停止すればいい。彼はどこか憂わしげな表情を浮かべてゆっくりと協力してくれるメンバーのイコンをスクリーンで一機ずつ見た。そのとき、携帯がメールの着信を告げた。なんだろう?
発信者はジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)とあった。アラムの脳裏に、ぼんやりと金髪に、晴れた日の青空のような蒼い瞳のの活発そうな少女のイメージが浮かぶ。
『出会ってからほんの短い間だったけど、一緒に旅をしたり、ご飯を食べたりして少しは楽しかったのではない?
いくばくかでも、記憶が戻らない不安を紛らわせることができたのではないかしら?
わたくし達が感じた、楽しさ。
もしも、その1024分の1でもアラムくんがその楽しさを感じ取っていてくれれば……。
この先もみんなとやっていけると思うのよ。
私たちとの絆を信じてみない?
それにね、それを信じたからってアラム君に損はないと思うのよ』
メールはもう一通着信していた。ジェニファのパートナー、マーク・モルガン(まーく・もるがん)からだ。
『アラムさん、本当は記憶喪失じゃなくて、全部憶えていたの?
前、聞いてみたかったんだけど、会う機会がなかったから……。
もし、覚えていたのに嘘だったら……って、今はちょっぴりアラムさんに裏切られたような。
そんな気持ちが心の隅にあることは否定できないんだ。
でも、マークだってアラムさんに全部正直に話してたわけじゃない。
ごめんなさい。
アラムさんが帰ってきたら、もう一度、いろんなことを話せたらいいなと思うんだけど……だめかな?
待ってるよ』
アラムはふっと微笑み、何も言わずにもう一度そっとメッセージを指でたどった。
(帰ってきたら……か)
ゾディアック周辺にはまだインテグラル・ポーンとイレイザーが残っているが、アラムの瞳はすでにゾディアック・ゼロだけを捉えていた。
「アラムくんの操縦技術のすごさはこの前見たけど、アレを止める要となるなら、ゼロまで無傷で行かなくちゃ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)のルドュテから通信が入った。クナイ・アヤシ(くない・あやし)も重ねて言う。
「そうですよ、さすがに少しは片付けないと、強行突破は無理です」
「あまり時間がないんだ……」
「闇雲に突っ込むよりは、ここはあたしたちにザコを任せて少し待ったほうがよっぽど早い」
アラムの返答にウルヌンガル、アカシャ・アカシュに機乗するグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が返すと、前方の様子を探っていたアルシェリアから佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)の声が同意を示す。
「最悪、アラムさんの機体から気をそらすくらいはできると思うのですぅ」
アラムは少し考えて言った。
「わかった」
3機のイコンを中心に、対イレイザー、ポーン部隊が展開する。遠距離攻撃がメインで高機動の機体であるアルシェリアは主として索敵と支援攻撃を行っていた。ルーシェリアはロングレンジライフル、ウィッチクラフトライフルによる攻撃をどこに見舞えば効果的かを検討しながら支援攻撃を行っていた。
「弾も十分ありますしねぇ。遠距離からの攻撃ですから幻惑効果もあると思うんです」
アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は敵の位置はもちろん、味方機の位置もすべて把握するべく奮闘していた。
「確かにね。視野外からの攻撃は有効ですよ。ですが、十分注意して行きませんと。
敵の奇襲で『アルシェリア』や味方機が落とされては、援護どころか逆に救援を請う、になってしまいます。
それでは本末転倒ですからね」
北都のルドュテがソウルブレードをフェンシングの選手の様に構え、襲い掛かるイレイザーやポーンの攻撃を高速機動、加速を使い最小限の動作で回避、痛烈なカウンター攻撃を見舞う。クナイが禁猟区ですばやく敵の攻撃を察知できるからこその技だ。アルシェリアからの援護攻撃で不意を突かれた敵にも、そのスキをついて華麗に襲いかかる。
「イコンで剣舞をしてるみたいな動きですねぇ」
ルーシェリアが感心したような声を上げる。
「うっとおしい」
グラルダは眼前の敵の群れを無表情に見つめて呟いた。
「引き際を過ち、よくもまぁ……これだけの大群をけしかけてきたものね。
知略も戦略も感じられない。虫の大群。ようやく理解したわ、アンタ達にどう接すればいいのか」
いったんそこで言葉を切ったグラルダの声音が響きを変えた。
「アンタ達はアタシの興味の対象から除外された。とても残念だわ」
普段無表情かつ冷静さを崩さないシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が、僅かに目を見開いた。それはグラルダから絶対引き出されてはならないはずの台詞だった。相手の存在そのものへの否定。グラルダが人間らしいさを放棄した証だ。
「ああ……、獣が野に放たれてしまった」
再び無表情に戻ったシィシャは呟く。
(作戦は上手くいこうとも、私たちが得るものは……何一つないでしょうね)
アカシャ・アカシュは巨大なカナンの聖剣を振り回しながら、イレイザーとポーンの群れに突っ込んでゆく。剣で叩き切り、背後から取り付いた飛行型のイレイザーを無造作に掴んで目の前のポーンに叩きつける。真紅のウルヌンガルの戦いぶりは怒れる鬼神そのものだった。無表情に、無造作に、害虫を駆除するかのようにイレイザーたちを駆逐してゆく。
「……グラルダさんの機体に、敵が集中し始めました。援護を」
アルトリアが告げる。北都がアラムに呼びかけた。
「アラム君、こっちは任せて。大丈夫。皆でザコをを引き付けて倒していく。
キミも自分の成すべき事をしに行って」
「援護します。皆さん、後をよろしくお願いします。アラム様が何をしようとしているのかは分かりません。
ですが、それがこの窮地を救えるものならば、私はそれに賭けます」
そう言ってクナイが熾天使の力を発動した。大天使が翼を広げてアラム機と、アラムの援護機を包みこみ、ゾディアック・ゼロ目指してすべるように移動していった。