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のぞき部だよん。

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のぞき部だよん。

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第6章 糸口 【放課後】

 のぞき部部長を呼び出したのは、薔薇の学舎の明智 珠輝(あけち・たまき)だ。
 儚げで紳士的な美少年だが、内面は何を考えているのか得体の知れないところがある。今もここ放送室で「ふふ」と妖しい笑みを浮かべていた。
「おや……」
 物音に気づいた明智が物置を開けると、そこには裸にされ、ロープでグルグルに縛られた天瀬 悠斗(あませ・ゆうと)がいた。天瀬は立つのがやっというほど憔悴している。
「のぞき部部長さん……では、ないのかな?」
「ち、違います……」
 明智は天瀬を抱きかかえて横にしてやる。
「誰にこんなことを?」
「わかりません。急に背後からやられたので……ただ、おそらくのぞき部の放送をした人かと……」
 放送室に沙耶が入ってくる。
「うわ。めっちゃ修羅場。いや、濡れ場?」
 明智が冷静に否定する。
「誤解ですよ。彼はここに閉じこめられていたんです。私が今、救出しました。犯人は……誰かわからないようです」
「あんたかもしれへんな」
「ふふ。面白い人ですね。それより、あなたこそこんなところに何をしにいらしたんですか?」
「のぞき部部長に会いに来たんや。どっちや?」
「ふふ……」
 明智が含み笑いで流していると、沙耶の背後からまた一人やってきた。小鳥遊美羽だ。
「わ。なんかまた私の知らないところで面白いこと起きてるじゃん!」
 どういう神経なのか、悔しがっている。
 明智が廊下をのぞいて、首をひねる。
「不思議です。ここに来るのは、女性ばかり」
 高務野々とエルシア・リュシュベルがやってきた。野々は裸で横たわっている天瀬を見て目がキラキラと輝き出す。
「まあ! 困りますわあ」
 などと言いながら、わかりやすいほどチラチラと見ていた。

 明智は、集まった女性陣に落ち着いて話して聞かせる。
「みなさん。私はのぞき部の部長ではありません。今、放送をかけた者です。おそらく、この男性を縛った者こそ、のぞき部部長かと思われます」
「オレはそんなことしてないぜ。あれ? なんで沙耶さんがここにいるんだ?」
 のぞき部部長の弥涼が現れた。
「部長を怪しいSM野郎から守らなあかんからね」
「おやおや。私は確かに怪しいですが、SM野郎ではありませんよ」
 と答えながらも弥涼の顔をのぞき込む明智。
「私は明智です。あなたはのぞき部の部長さん……ですか?」
「ああ、オレがのぞき部部長だ」
 一瞬の静寂。
 いとも簡単に首謀者を見つけたことによる戸惑い。疑い。
 その沈黙を破ったのは、野々だった。
「ちょっと! 貴方なのね!」
 野々はズンズンと弥涼に迫る。
「いいですか。女性だって、女の子をのぞきたいと思ってる人はいるんですよ!」
「え?」
「のぞき穴からのぞくなんて、きっと不躾で素敵な体験ができたはずなのに、どうしてそれを、男子更衣室から行うのですか! 私が入れないじゃないですか!」
 野々はクレームをつけるだけでは足りず、改善要求まで突きつけた。
「今度は女性も気軽にのぞける場所にしてくださいね」
「は、はい……」
 弥涼もタジタジである。聞いていたみんなも、唖然として何も言えなかった。
 野々のパートナー、エルシアはガックリ。
「そういうことでしたか……。いえ、わかってましたよ……キミがそういう人だって。でも、あたしはキミが心配ではるばる百合園から飛んできたのに……あまりにも今回は理不尽すぎます!」
 エルシアは説教を続けながら、野々を引っ張って帰っていった。説教はあまり伝わってないようだったが……。

「えっと……」
 弥涼は気を取り直して明智に話しかける。
「オレがのぞき部部長だけど、何か用か? お前だろ、放送したの」
「そこをどいてください」
 何の意味があるのか、明智は弥涼を少しだけ押しのける。そして、弥涼の耳元で囁いた。
「見てください。あの短いスカートに潜む美脚。そして、ああ、その奥が見えそうで見えませんね!」
「え? びきゃ――」
 明智が慌てて口を封じる。
「本当にデリカシーがないんですね。部長さん」
 明智が言っているのは、天瀬をしゃがんで介抱している美羽のことだ。超ミニスカートでしゃがんでいるため、男性陣を惑わすセクシー指数はメーターを振り切っている。明智が弥涼を押しのけたのはベストポジションを奪うためだったようだ。
「いいですか。大勢でのぞくなんて、デリカシーがありませんよ。例えば対面し、当たり障りのない会話をする女性の肩からブラ紐がチラリ! それを女性に悟られることなく目に焼き付ける! それがのぞきです。のぞきとは、チラリズムの延長戦ですよ」
「えっと、広い意味では仲間だと思っていいんだよな」
「違います。壁にのぞき穴を開けるなんて、そんなのぞき方は、私は認められせん。美しくありませんから」
「わかった。わかったよ……」
 のぞき観の相違による溝は埋まりそうになかったが……
 そのとき!
 何かしゃべり出した天瀬に反応して、今度は沙耶がしゃがんだ。胸の谷間が、最高の角度で見えるではないか!
 弥涼は苦しい。まさかのぞき部部長のオレが、部員の胸元をのぞくことになろうとは……! 明智とか言ったな。たしかに、気持ちはわかるぜ。……だが、チクショウ! 俺は仲間を裏切れねえ!
 なんだかすっかり青春ドラマの主人公に成りきっている弥涼は、涙をこらえて去っていく。弥涼の声が、廊下に響いた。
「オレは、のぞき王になるんだ……!」

 バカな部長はほっといて、みんな、天瀬の声に耳を傾ける。
「彼は……違います。あの声ではありません……」
 天瀬は、首謀者の顔は見てないが、生の声を聞いていたという。
「僕がここに来たのは、あの放送があった直後です。放送委員に訊けば何かわかると思って、来たんです。そしたら、いきなり……」
 天瀬は縛られただけでなく、相当こっぴどく暴行を受けたようだ。思い出すのが苦しそうだ。
 美羽が慎重に訊く。
「そいつは、何か言わなかった?」
「言いました……『昼休み、プール前にいたな』と……そのあと……あああああああああ!!!!!」
 天瀬はついに意識を失った。
 ヒールは傷を治すが、心の傷は治せない。もっと話を聞くには、しばらく待つしかないようだ。天瀬を医務室に寝かせた。
 沙耶は、昼休みのプール前にいた生徒に事情を訊こうと校内を探しに行く。
 美羽は、実行犯をどうにかしようと女子更衣室へと急いだ。