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ちょっと危険な捕物劇

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第8章・再 会


「ふふふ……残念だったわね、キメラはこの亜璃珠様がいただいていくわ!」
 高らかにそう宣言する亜璃珠の足元では、朝野 未沙(あさの・みさ)がスモークボールの煙をミニ扇風機であおいで、特殊効果をつけていた。
 その左斜め後ろの方には、複雑な顔のレイディスが付き添う。
「おい、アリス。本気でやる気かよー?」
 レイディスの言葉に、亜璃珠は厳しい視線を向けた。
「何を今更。もう立派な共犯ですわよ、覚悟をお決めなさい!」
「……何でこんな目に」
 共犯という嫌な響きの言葉の重みを、レイディスは噛みしめた。
「さあ、やっておしまいなさい下僕たち! しくじったらお仕置きよ!」
 亜璃珠は携帯につながっている光条兵器の鞭でパシンと地面を打つ。
「お遊びはそこまでにしてもらおう」
 レオンハルト達がミリアと共に現れた。
「キィちゃん〜!」
 ミリアは網に絡まり、ぐったりとしているキィちゃんに駆け寄った。
「皆、生きとるかぁ?」
 社も一緒だ。彼は、誘導を交代した後、ミリア達を捜してここまで案内して来たのだ。
 亜璃珠をレオンハルト達にまかせ、ジュリエット達はキィちゃんとウィルネストに掛けられた網を取っていく。

 形勢不利とみた朝野 未羅(あさの・みら)が、小型飛空艇から降りて来た。先ほど上空から網を放ったのは彼女だった。その未羅に、シルフェノワールが戦闘態勢を取る。
 狙撃手のクリスフォーリルは、少し離れたところで未沙を狙った。
 レイディスがそれに気付き、未沙を庇って前に出ると、レイディスの前にイリーナが立ちはだかった。
 じりじりと緊張が高まる。

 そんな中、空飛ぶ箒で高い木の上の特等席を用意していたメニエス・レイン(めにえす・れいん)が、まさにこの時を待っていた。
「皆、混乱すればいいのよ」
 暗い笑みを浮かべたメニエスは、両手いっぱいに抱えたパラミタヒツジのぬいぐるみを投下する。
「きゃっ」
 下では、もふもふと降ってくる白い塊に襲われ、ミリアが悲鳴を上げた。それに反応したキィちゃんが、疲労で混濁した意識の中、ミリアを守るために炎を吐く。その炎は、ぬいぐるみを火の玉に変えた。
 騒然とする下の様子を、メニエスはにやにやと眺めていた。

 さらに離れた場所では、ニコラ・プリンシバル(にこら・ぷりんしばる)リリル・リーフェンシュタール(りりる・りーふぇんしゅたーる)が、一団を見ていた。
 ニコラがリリルの手を握ってきた。こういう時、リリルの胸はちょっぴり高鳴る。頬を染めてリリルが目を閉じると、彼女の身体が淡く輝く。ニコラは空いてる方の手で彼女の胸から現れたグリップを握った。
「リリル、私に光を」
「キミにボクの想いを」
 互いの気持ちを確かめるかのように言葉を交わし、ニコラは光条兵器を彼女の胸から一気に引き抜いた。
「まずは、小手調べと行きますか」
「視界良好、風良し!」
 リリルが観測手となって狙撃銃を構えるニコラに状況を伝える。
 ニコラはターゲットに集中して、引き金を引いた。

 ポスッという音がした気がして、メニエスは周りを見た。変わった様子はないが、傍に置いていた紙袋が消えていた。
「あたしのひつじがないわっ!!」
 メニエスは、紙袋を必死に捜した。あの中には、第2弾のぬいぐるみが詰まっていたのだ。きっと下に落ちてしまったのだろうと思うと無念でならない。
「もっと混乱が見たかったのに……」

 和原 樹(なぎはら・いつき)は、じゃれつくパートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)を追い払いながら騒ぎの様子を見に来ていた。腕の中にぬいぐるみを抱きしめているところからして、キィちゃんを捜していたようだ。
「もう、フォルクス、いい加減にしろよ!」
「人のペットなど放っておけばよいではないか」
 嫌がる樹が可愛くて、その髪をつんつんといじるフォルクスの頭に、ぼすっと紙袋が落ちて来た。
「何奴だ! 無礼な!」
 フォルクスが見上げるが、彼の位置から紙袋の主の姿は見えなかった。
「おぉ! すげぇっ!」
 樹がうれしそうに紙袋を拾った。袋には彼がほしがっていたパラミタヒツジのぬいぐるみがぎっしり詰まっていた。
「やったぁ、もーらい♪」
 森に来た理由も、見に来た騒ぎも忘れ、樹はフォルクスと共に町へと戻って行った。

 火の玉騒動が治まると、すぐに事態は動いた。
 シルフェノワールが、ドラゴンアーツを使って未羅に攻め込む。幼く見える彼女がそれを受けて耐えられたのは機晶姫だからに他ならない。
「未羅!」
 未沙が未羅に駆け寄ろうとすると、その足元にクリスフォーリルのゴム弾が撃ち込まれる。
「ミサ、下がってろ!」
 メイドの未沙を気遣い、レイディスが未沙を庇う。
「レイちゃん!……あたしの為に、命を掛けてくれるなんて」未沙が感激する。
「当たり前だろ、仲間だもんな!」
 ここにも乙女心のわからない男がひとり。

「キィちゃん」
 ミリアの声に亜璃珠が目をやると、キィちゃんが網からようやく解放されるところだった。
「未羅!」
 亜璃珠に名を呼ばれた未羅が、シルフェノワールに拳を繰り出すと、シルフェノワールは待っていましたとばかり、未羅をはじき飛ばす。
 未羅は着地点から小型飛空艇に走り、網を取り出すとキィちゃん目がけて投げつけた。
「お待ちなさいっ!」
シルフェノワールは間に合わない。
 クリスフォーリルが網を狙撃するも、ゴム弾では、網の一部の軌道を変えるにとどまった。
 再びキィちゃんに網が降り注ぐ。抵抗するキィちゃんに、亜璃珠の鞭が振り下ろされようとした時、淡く光る
刃渡り1m程の片手半剣が鞭を絡め取った。レオンハルトの光条兵器だ。
「くっ」
 亜璃珠が悔しそうに唇を噛むと、その背に堅い銃口が押しつけられた。
「ここまでだな」
 イリーナはレイディスと未沙、未羅に抵抗をやめるよう指示した。
「さすがだな」
 レオンハルトの褒め言葉に、イリーナが笑みを見せる。
 投降の一瞬の隙をついた未羅が、いざとなったら煙幕代わりにして逃げようと背負っていた小麦粉を、あたり一面にぶちまける。げほごほとせき込む声の中、
「お姉ちゃん達、逃げよっ!」
 未羅が仲間を連れて逃走を図る。視界の悪さにクリスフォーリルの狙撃も役に立たなかった。
「おぼえてらっしゃーい!」
 遠くから亜璃珠の遠吠えが聞こえた。

「きゃ〜っ!」
 視界がぼんやりと開けると、ミリアが悲鳴を上げる。
「俺はフォレストと添い遂げるッ! 人の恋路を邪魔するヤツは、箒でくすぐられて悶えちまえ! ヒャッハー!」
 いまだ正気に戻らない誠が、ミリアを抱きかかえて連れ去ろうとする。
「クリス!」
 イリーナの声に、クリスフォーリルがゴム弾で誠の後頭部を狙う。視界が開けたその時、運悪く、舞い散る小麦粉が彼女の鼻をくすぐり、気がそがれた。しかし、引き金は予定通りのタイミングで引かれる。
 銃声がして、誠がふらりと揺れると、ミリアごと箒から落ちた。
「外した…のに?」
 クリスフォーリルに手ごたえはなかった。
「ミリア嬢!」
 レオンハルトが彼女を救おうと滑り込む。が、その腕の数十センチ上で、ミリアはシルヴェスター・ウィッカーの腕に抱かれていた。
「大丈夫かいのぉ」
「は、はい〜。ありがとうございます〜」
 ウィッカーは、ミリアの極上の笑顔を手に入れた。

 キィちゃんが網から助け出され、その場にいた唯一のプリースト、フローレンスがキィちゃんにヒールをかける。
 元気と正気を取り戻したキィちゃんを、ミリアが抱きしめた。
「キィちゃん、放っておいてごめんなさいね〜。これからはもっといっぱい遊んであげるわ〜」
「それは原因じゃないよ」
 七海が、ミリアに声をかける。そこには、丘でハーブを取っていた者達が集まっていた。
「ミーちゃん…に……って…
 晶がピクニックシートいっぱいのハーブをミリアに差し出す。
「あら〜、これは〜。昨夜、私が足りないって言っていたハーブだわ〜」
「キィちゃん、ミリアさんに喜んでもらいたくて、ハーブを探してたのです」
 栗が、キィちゃんの心情を代弁する。
「そうだったの〜。キィちゃん、ありがとう〜」
 キィちゃんが嬉しそうにミリアに顔を寄せた。
「それじゃ、さっそくハーブを作った料理をごちそうするわ〜」
 一行は、笑顔でカフェへの帰路についた。

 その様子を、離れて見ていたニコラの顔をリリルが覗き込む。
「誘拐犯を狙撃してお姉さんを助けたのニコラなのに」
 誠がミリアを連れ去ろうとした時、クリスフォーリルと同時にニコラも誠を撃っていた。クリスの弾は当たっていたが、わずかばかり急所を逸れ、ニコラの弾が誠に止めを刺していた。
「皆と一緒に行かないの?」
「一緒に行きたいんですか?」
 リリルの問いにニコラが問いで返すと、彼女はうーんと考え込んで、首を横に振った。
「ボクは、皆とじゃなくて、ニコラと一緒に行きたい!」
 リリルの言葉に、ニコラは愛用の白いロングマフラーで口元を覆った。



第9章・おかえりなさい


「お帰りなさい」
「お待ちしていました」
 カフェの制服を着た津波とナトレアが、ミリア達を出迎えた。店の中はきれいに飾られ、美味しそうな料理が用意されている。
「まあ〜、美味しそう〜」
 ミリアを始め、探索から帰って来た面々は、すぐに料理や飲み物に手を伸ばした。もちろん、キィちゃんの為にデコレーションされたパラミタヒツジの肉もてんこ盛りだ。
「はーい、ハイビスカスティーですよー」
 いつの間にかカフェの服に着替えた優菜が、自慢のお茶を給仕する。
 皆がひと通り騒いで飲んで食べて、慰労会が落ち着いたのを見計らって、魅世瑠が口火を切る。
「ところで、報酬…じゃなくて、サービスなんだけどさ」
「忘れていたわ〜。それじゃ皆さんに〜」
 フローレンスが剥き出しの肌をミリアに寄せる。
「まさか、食券…じゃないよな?」
 ぎくりとミリアの身体が硬直する。
「あたし達の希望としては、もっと色っぽいものがいいんだよね」
 ミリアの耳に唇を寄せながら、魅世瑠が囁いた。
「そ、それはさすがに〜…」
「そうねぇ、じゃ、いつでも食べ放題…くらいに負けといてあげてもいいよ?」
「分かりました〜。向こう一か月、店に来た時は、必ずサービスさせていただきます〜」
 ミリアは観念したように、魅世瑠とフローレンスに食券を渡した。
「やったー、さんきゅ!」
 結局、それはミリアがサービスとして用意していた食券だったのだが、2人にはうまく誤魔化せたようだ。

「それじゃ、皆さんにもお配りしますね〜」
 ミリアはひとりひとりに食券と感謝の言葉と頬へのキスを贈る。ヴァーナーがお返しにミリアの頬にキスするのを、シルヴェスターがうらやましそうに見ていた。
 中には、パラミタヒツジのぬいぐるみを希望する者や、キィちゃんのたてがみをもふもふしたい者、キィちゃんと友達になりたいという者もいたが、それらは概ねミリアが快く承知してくれた。
「ミリアさん、キィちゃんのぬいぐるみ作ってもいい?」彩がミリアに尋ねる。
「もちろんよ〜。出来上がったらカウンターに置かせてね〜」
「うんっ!」彩は早速、マスコット作りを開始した。
「お姉ちゃん、僕はサービスより、キィちゃんと時々遊んでもいい権利が欲しいんだけど」陽平がミリアに頼む。
「権利なんかいらないわよ〜。いつでも好きな時に遊びにいらっしゃい〜」
 陽平は嬉しそうに頷いた。

「それじゃ〜、皆、うちのお風呂にはいっていく〜?
 一日中森をさ迷った者達を気遣い、ミリアが提案する。
「ついでにキィちゃんもお風呂に入れてくれるかしら〜?」
 それについては希望者多数の為、男女に分かれ、キィちゃんは2度お風呂に入る事になったが、皆と一緒に入れない理由のある者は、とても悔しい思いをした。
 色々大変だったが、終わってみるとなんてことない気がするのだから不思議だ。


 夜も更けた頃、イルミンスールの森では織機 誠がようやく目を覚まし、正気を取り戻していた。
「なんとなく、こうなる予感はしてたんですよ……」
 誠は大きなため息をついた。

担当マスターより

▼担当マスター

玉野 晴

▼マスターコメント

この度はご参加いただき、本当にありがとうございました。
皆様のおかげで、キィちゃんはミリアお姉さんと、もっと仲良くなれました。

 さて、アクションについてのお話しです。
道具を使うというアクションをかけられた方の採用・不採用の基準ですが、ホームセンター(生徒達が用意出来る範囲の目安)で売っているレベルの物かどうか、または、その道具を用意出来るプロフィールなのか、都合が良過ぎる物でないか、となっています。
それと、ガイドに無い情報を捏造したり、ストーリーに関係ない行動をとるなどは没の対象ですので、ご注意下さい。
あと、キメラは個体差の激しい生物ですので、キィちゃんとキャンペーンのキメラは同一のものではないと考えて下さいね。

皆様に支えられて初回シナリオを終える事が出来、感謝するばかりです。
とても楽しかったです。ありがとうございました。またお逢い出来る日を楽しみにしております。
皆様の行く手に、女王のご加護がありますように。