百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

関帝誕とお嬢様を守れ!

リアクション公開中!

関帝誕とお嬢様を守れ!

リアクション


第四章 祭りの賑わい2

「こうやって……風次郎さんと二人で、話すのも……久しぶり、ですぅ……」
 日奈々は懐かしむように語り始めた。
 もう陽の光がオレンジ色に変わり始め──日奈々の顔を赤く染めていた。
「昔にも……こうやって、お祭り、来たこと……あったよね……」
 風次郎はゴマ団子を頬張りながら、頷いた。
 日奈々の見えない目にも、その動きは伝わっているようだった。
「……如月とは家が近所で家付き合いもある幼馴染だからなぁ……学校が違ってきて、疎遠になりかけたけど……やっぱ、なんだかんだで付き合いは続くわけだよ」
「そうだね……」
「不思議な関係だよな、幼馴染って。一緒に縁日行って、飯食って……なんか、良いよな。そういうの」
「……うん」
 祭りの喧騒とは別に、ゆったりとした穏やかな時間が、二人の間に流れていた。

 ルミナがユウの腕を引っ張った。
「あれ……」
 ルミナが指差した方向には、子供が泣き喚いている姿があった。
 二人は側に行って、優しく語り掛ける。
「お嬢ちゃんどうして泣いてるんですか? お名前は? どこから来たのでしょう?」
「お母さんとはぐれたのでしょうか?」
 頷く子供を見て迷子だと知り、警備員の元へと連れて行った。
「──この子、迷子なんですけど」
 ユウとルミナは、親が迎えに来るまで一緒にいてあげようと思った。
「今、呼び出してもらったからね。お家の人、すぐに来るから」
 数分後。
 髪を振り乱してやって来た母親は、頭を何度も下げて出て行った。
「ありがとう、お兄ちゃん。お姉ちゃん!」
 振り返りながら、子供が人ごみの中へと消えていく。二人は笑って手を振り続けた。
「さてと、花火に行きますか。自分のお気に入りの場所で」
 子供を見送ったままの状態で、ルミナは頷く。いなくなったことに、一瞬だけ寂しさを感じる。
「……来年もまた来れるんでしょうか」
 思わずぽつりと呟いたルミナの言葉は、ユウの胸に届いた。
「来れますよ必ず、もちろん一緒に。──ほら、急ぎましょう! 花火が始まります」
 手を引っ張られて、ルミナは幸せな気分で駆け出した。

「あの時計なんて、良いんじゃないですか?」
 カインの提案で射撃の標的は決まった。
 屋台の店主はシャンバラ教導団のお祭りに射撃の屋台を出すほどの度胸のある持ち主だ。
 景品を取られないように対策を行っているかもしれない。
 クロスとカインは二人で一つの物を狙うことに決めた。
「行きますよ、カイン!」
「はい!」
 弾丸の雨を時計に浴びせる──なんだか哀れな気がする。
 やがて。
 カランと言う音と共に、時計が崩れ落ちた。
「やったぁ〜!」
 二人は手を取り合って喜んだ。
「あ……」
「仲の良いカップルさんにやられたよ。持ってけ〜」
「…………」
 時計を受け取ると、二人は無言で歩き出した。
 なんだか妙に意識してしまう……
「バカップルは〜いねぇが〜! ガオー!!」 
「!?」
 突然。
 おかしな姿で仁が現れた。
 その後ろからミラも一緒になって。
「バカップルは〜いね〜が〜! がおー!」
 明るい声で、半ば楽しんでいるようにも見える表情で、ミラは叫ぶ。
「えっと……何やってるんですか?」
「ぐっ!」
 呆れ顔でカインが呟いた。
「もしかして、ずっとそんなことしてたんですか……?」
「俺は……俺は、バカップルが……憎いんだ!! ガオー!!」
「…………」
 クロスとカインの哀れみに満ちた目が、仁に注がれる。
「な、なんだよその目は! やめろ、見るな! う、ううぅ……チクショー!! 覚えてロー!」
「覚えてろ〜♪」
 ミラも仁にあわせてそう叫ぶと、一緒になって逃げ出した。
「……暑さのせいですね」
「きっと……」
 クロスとカインは、走り去っていく二人の姿が見えなくなる迄見つめていた。

「食べなさい」
 ティアがサド気質たっぷりの空気を醸し出して、エリスに詰め寄る。
「い、いやどすぅ」
「あたしの命令が聞けないの? 食べなさい」
 エリスが首をぶんぶん振る。
 ティアの手には、ゲテモノ店の巨大な皿の上にてんこ盛りにされていた何かのから揚げ? のような物が握られ、エリスの目の前にちらつかせていた。
「はい、あ〜ん」
「ん〜ん〜ん〜ん〜」
 必死で口を閉じているエリスを押さえて、唇に押し付ける。
……可愛いお口が、油まみれ……。

(ふふ……ふふふふふふふふふ……た〜のし〜いぃいいい〜〜♪)

 逃げ惑うティアを羽交い絞めにして無理やり口の中に押し込む。
「はい、もぐもぐもぐごっくん。ごちそうさま〜おいしかったでちゅか〜?」
「……ひどいどすぇ〜〜〜〜!」
 泣きじゃくるエリスを見ながら、更なる高揚感を覚えるティアだった。

「お嬢さん、一人ですか? たこ焼きはいかがですか?」
 亮司はたこ焼きをくるくるひっくり返しながら声をかける。
「たこ焼きですか……」
 フィルは考えると、大きく頷いた。
「頂きます」
(あ、あぁあぁぁぁあ! 男がフィルに近づいている!)
 正確に言えばフィルが男に近づいていっているのだが、セラの目にはそう映っていた。
 男装して後をつけてはいるが、声をかけることも出来ない。
(なんだか仲良く話しているし!)
 しばらくして、フィルは店から離れていった。
 セラは、どがどがと亮司の前に行った。
「何を話していたの?」
「え? お、オカマ??」
「違う! あの子と何を話していたの?」
「いや、別に。他愛ないことで……」
「…………」
 嘘はついていないと判断して、駆け出そうとすると。
「あ、ちょっと!」
「?」
「たこ焼き──買ってってよ」
「…………」

 孫 紅麗は真っ白くふかふかで湯気の出ている中華まんの前で唸っていた。
「これだけ種類があると、迷います……」
「わしは、これなんて良いと思うのじゃが」
 マリアルイゼの指差した中華まんの具は、餡子とツナとマヨネーズ。
 これは……
 おいしいのだろうか?
──しばらく、色んな種類の中華まんを食べ続けていたら。
「う、ううぅ〜ん。お腹いっぱいです〜〜〜」
 今にもはちきれそうなお腹を抑えながら、紅麗は言った。
「こんなに食べたの、久しぶりですねぇ」
 二人は背中を合わせながら、邪魔にならない路肩に腰を下ろしている。
「何食べましたっけ? 中華まんでしょ? フランクフルトに、駄菓子に焼きそば、タピオカミルクにカキ氷……」
「思い出させないでくれぇええぇえ〜〜〜う、ううぅ〜ん。お腹がいっぱいじゃ〜〜〜」
 マリアルイゼも苦しそうな声を出す。
「でも……楽しかっですね」
 返事の代わりに、苦しみの中から笑みを浮かべて見せた。

「ちょっとあなた、占いに興味はな〜い?」
 オリヴィアが野々に声をかけた。
「無いです」
 即答。
「ま、待ってよ! 当たるんだよ、ここの占い!」
 野々が訝しそうな顔を見せた。
「……あなた……百合園の生徒ですよね?」
「っ!!」
 なぜそれを!? という言葉が顔全面に浮かび上がる。
「どうして、お二人はこんな所で占い屋なんかを? ……あっ」
「え?」
「ご、ごめんなさい! 色々ありますよね。色々。お金が必要なんですよね。えっと……」
 野々はごそごそとポケットを漁ったが、ため息をついて。
「今日はもう持ち合わせがほとんどありません。だから──」
「な、なに?」
「さっきそこで買ったんです、たこ焼き。二人で仲良く食べて下さい。じゃあ、また学校で──」
 言うが早いか走り去って、もう姿が見えなくなった。
 一体何を誤解したのか。
「……なんか……興ざめしちゃった。今日はもう弊店にしようかな」
「もう終わらせるの?」
「だって、お客もほとんど来ないし」
「いかにも怪しいから、かなぁ?」
「そんなわけないでしょ!」
 円はもらったたこ焼きのパックをあけた。
 食欲をそそる匂いが辺りに漂う。
「食べよう!」
「うん」
 野々の優しさが詰まったたこ焼きは、ほっぺたが落ちそうなほど美味しかった。