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リアクション
◆
「遊園地なんて本当に久しぶり、小学生の頃以来だなぁ……。うーん、それにしてもあたし、過激な乗り物はだめかも……」
ジェットコースターを乗り終えた歩は、疲れた表情を見せながら舌を出す。
「セオさんは平気なんですか?」
「あれくらいなら全然問題ありませんよ」
「わー、やっぱり軍人さんってすごいですね!」
「楽しかったねーっ! 次はなに乗ろうか?」
真希がノリノリで尋ねる。
「次はメリーゴーランドとかが良いかも」
「……自分は流石にこの年であれはご勘弁願いたいので、あそこのテラスでユズィリスティラクスさんと軽くお酒でも飲んでいます」
セオボルトはやんわり断った。
「じゃあ私と乗ろうよ、歩ちゃん」
「うん」
セオボルトとユズはブランデーの小ボトルとショットグラスで乾杯した。
「七瀬さん、遠鳴さん達はいい子ですね〜……周りの人達が優しく見守られているお陰もあるんじゃないかと思いますが」
「そう言って下さると、とても嬉しいです」
メリーゴーランドに乗ってはしゃぐ歩と真希を眺めながら、静かに酒が進んでいく。
突然、ユズはセオボルトの耳を噛んできた。
「ユズィリスティラクスさん!?」
驚いてセオボルトは飛び離れる。
「少し……飲みすぎたようです」
大人の色香を漂わせるユズは、妖艶な感じがして、正視するのに困難だった。
「──さ〜て次はお土産買いにいくよ〜!」
場所を移動して入った土産店では、真希が一番はしゃいでいた。
友達の物を買っている最中に、セオボルトが何を勘違いしたのか、自分へのプレゼントを買っていると思いこんでしまった。
「えぇ? これは友達にあげる物だよっ」
「ぁあ、そ、そっか……」
セオボルトの背中が、少し寂しそうに見えた。
ジェットコースターを二度ほど立て続けに乗って消耗した体力を回復するために、今度は落ち着いた乗り物で遊ぶことにした。
アリスの一番好きな乗り物、コーヒーカップ。
やっぱりゆったりとした乗り物が一番だ。
「コーヒーカップってさぁ」
ミーナが言った。
「一度はやりたくなるよね」
「え? ──わっ!?」
ミーナがハンドルをぐるぐる回し始めた。
「ひ、ひぃ!」
「あははは、そ〜れ、そ〜れ回れ〜〜〜回れ〜〜〜〜〜」
「と、とと、止めて! 止めて!」
「そ〜れそ〜れ!!」
嬉々として回しつづけるミーナの顔は、写真でしか見たことの無い関羽の恐ろしい怒り顔によく似ていた。
誕生日だというのに参拝に行かなかった呪いだろうか……
「今日はお疲れ様」
秋月 葵がぺこりと頭を下げる。
観覧車の中に、夕日が柔らかく差し込んできていた。
「ジェットコースターにも乗れたし、メリーゴーランドも……あ! お弁当、とっても美味しかったっ」
「その笑顔が見れただけで十分です」
エレンはにっこりと微笑んだ。
その笑顔にドギマギして、葵は夢中で話し続ける。
「高い所から見える景色は好きだよ。だって普段見てる世界とは違って、遠くまで見渡せるし!」
「…………」
「……んーとね、エレンには本当に感謝してるんだよ。パラミタに連れてきてもらって、毎日が新鮮で楽しくて……あと葵、何も出来ないからいつも迷惑かけててゴメンね」
「葵ちゃん……」
「あ、あとね………大好き……」
顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で言った。
エレンは葵の手を握ると。
「もちろん私もです」
二人の頬が赤く赤く染まっていった。
「この遊園地はーわたしがーいただたいたー」
愛は怪獣の着ぐるみを着て、棒読み調で台詞を叫ぶ。
「そうは行くか!」
声がする方を振り向くと、そこには正義の姿があった。
「誰だ貴様はー」
……力の抜ける芝居だ。
「通りすがりの正義のヒーロー! パラミタ刑事シャンバラン!!」
のろのろと攻撃を開始する。
だが乗り気ではなかったはずの愛も、次第にヒートアップしてきて、私怨も混じった攻撃が正義に繰り出された。
「君達の応援が俺に力をくれるんだ!」
正義は観客席に声をかけて、応援要請をするが、みんな無反応。
「ええいっ! ──爆炎波!!」
赤い爆撃の中で、またしても力の抜ける叫び声。
「やられたー」
「……パラミタの平和は俺が守る!」
正義が舞台中央で決めポーズをしている最終、裏では愛が涙を流していた。
「なんであたしばっかりこんな目に……」
岩造はストッパーを握り締めていた。
嫌だ、叫びたくない、かっこわるい! せっかくの両手に花以上の4人デートで、無様な姿はさらしたくない!
いやだ、いやだ!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!!」
開けた口の中に、強い風が吹き込まれる。
ひぃいいぃ! めっちゃ楽しいけどやっぱり怖い〜〜
歯を食いしばりながら隣を見ると。
「ひゃっほぉ〜〜〜!!」
フェイトがストッパーから手を離して万歳をしている姿が目に入ってきた。
「ものすごく早いわぁ〜〜〜っ!!!!」
(つ、強い……)
岩造はハンドルを握り締めて両目をぎゅっと瞑った。
──絶叫マシンを乗り終えると、コーヒーカップに乗り、そしてメリーゴーランドにやって来た。
パートナー同士で乗り合わせてチャンバラごっこをしている岩造とフェイトの少し後ろで、有栖とミルフィは穏やかな空気を醸し出していた。
二人乗り用の黒馬に、有栖はまるでミルフィに守られるような形で乗っている。
「心地良いですねミルフィ。やっぱり私、こういうゆったりできるのがいいです♪」
「ふふっ、お嬢様ったら」
有栖は安心したように、目を閉じ、後ろのミルフィに身をまかせた。
「お嬢様? うふふ、お疲れ様ですか? ……今日の白のチュニックワンピース、お似合いですわよ」
聞こえているのかいないのか。
柔らかで幸せな時間が流れていった。
「セシリア、次々! ジェットコースターに行きましょう!」
乗り物が初体験なメイベルは、見るもの全てが楽しくてたまらない物に写って、はしゃぎまくっていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜」
息も絶え絶えになりながらもセシリアは必死に追いかける。
そのとき。
「──っ!? ご、ごめんなさい!」
肩が軽くぶつかった。
セシリアが顔を上げると……弥生とヴァーナーがそこにいた。
「あ、こっちこそごめんなさい。──あれぇ、もしかして、今からこれに乗るんですか?」
「ええ」
「私達も一緒していいですか? こういうのは人数が多い方が心細さが消えて良い気がして」
メイベルとセシリアは笑顔で頷いた。
「良かった〜……あなた達は、百合園生ですよね。シャンバラの人が全然捕まらなくて、ずっと二人でいたんだですよ」
「こんなに可愛い女の子をほっといて、後で絶対後悔すると思います〜」
「ほんとだよね〜」
四人は声をそろえて笑った。
「じゃあ行きますか。ジェットコースター『絶叫番長』!」
「はい!」
「誰も握手をしたがりに来ない……」
大目玉を免れ、正義と愛はステージ入り口付近に机を出して待っていた。
「俺のこの格好目立たないか!?」
「いえ、十分すぎるほど目立っているかと……」
「むぅ……」
場所が悪かったのだろうか?
あの後、係員によってステージから引き摺り下ろされた為に、舞台上での握手会は無くなってしまったが……
「ごめんよ、ちびっこ達……『僕と握手!』出来なくて──」
その言葉を本気で言っている正義に、改めて、色んな意味で、凄いと思う愛だった……。
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