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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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 東の大滝の滝上ではチーム「数奇兵」が二手に別れて戦っていた。
 「スペードの4」を倒した後にチームリーダーでナイトの白砂 司(しらすな・つかさ)が指示を出したからである。
 第一班は司とパートナーのウィザードロレンシア・パウ(ろれんしあ・ぱう)、そしてプリーストの和原 樹(なぎはら・いつき)とパートナーのウィザードフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)の4人である。
 ターゲットは「スペードの7」、樹を除く3人は空飛ぶ箒に跨って追っていた。
 先頭はロレンシア、数字兵が大きく右に逃げようと向きを変えたので、火術を放ちて兵の進路を直線に戻した。
 数字兵の後方を滑り飛んだフォルクスは、兵の背中を横切る際に手足の関節だけに氷術を放った。すれば兵は駆ける事が出来なくなる訳で、降下する勢いを利用して司がランスで貫けば、煙をあげてトランプに戻って舞った。
 トランプの元に集まった時、司だけが、ため息をついていた。
「やはり、俺が止めを担当するのは気が引ける」
「立派だったぞ、司。さすがはリーダー」
「我は氷術のコントロールを実戦で試してみたいのだ。担当してくれると助かるのだよ」
 言われてもやはり、司は、ため息が出た。自分は裏方、囮を担当しても良いとまで考えていたと言うのに。班分けを誤ったか、そう思い、第二班へと思慮を巡らせた。
 第二班はローグのガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)とパートナーのセイバーシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)であった。ここだけ見れば個人で動いているのと同じに思えるが、それはチームにおいて二人の能力とコンビネーションが認められている事に他ならなかった。
 こちらはスパイクバイクで「スペードの8」を追いている。バイクの速さならば幾ら数字兵が逃げようともに追いつけぬ訳がなかった、それだけに、如何に数字兵の走路を一定に保たせるかどうかだけが課題であり、肝であった。
 細かく動かれるのが厄介である為、二台で挟み込むように並走した。直走が幾つか続いたのを見て、ガートルードが鬼眼が放った。
 数字兵は背中に打撃を受けたように仰け反ると、途端に足を止めて行くのが見えた。
 自然に縮まる距離とバイクの速度を利用して放ったウィッカーのソニックブレードは正に音速の斬撃そのものだった。一瞬で兵をトランプへと戻していた。
「戦力は充実している。数字兵を狙う以上、班を分ける事こそが目的を達するためのチーム戦略である」
 司の指示は適切であろう。メンバーの個々の能力が高い為、一つの的を狙うのは逆に非効率に思えたのだ。
 チームの目的、能力と戦略。全てが交わり、戦術が決まるのである。


 西の森中、チーム「PLANT」の一人、ローグの柳生 匠(やぎゅう・たくみ)の仕掛けた罠エリア。
 プリーストの鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)とパートナーのセイバー、紅 射月(くれない・いつき)
茂みに隠れて匠からの合図を待っていた。
「柳生さんの罠は、幾つもの石を同時に放つ事で数字兵の進路を制限、誘導するというものです」
「あぁ、確かそんな事を言ってたな」
「となれば、程度の問題はありますが、少なくとも数字兵が宙を舞うという状況が予想できます」
「宙を舞うって……、ジャンプするって事だろ?」
「その通り。だとすればその瞬間を狙ってアタックをするという方法がベストだと考えるのですが……」
「何が言いたい……」
 虚雲が言った時、視線のずっと先の木の幹が光を放っていた。匠の仕掛けた蛍光ペイントの合図である。
 二人は身を潜めると共に茂みの中から標的を確認した。「クラブの9」である。
「先ほどの続きですが」
「何だ」
「爆炎波を使おうと思うのです。」
「爆炎波? この森の中でか?」
「大丈夫ですよ、確実に彼の体に当てますし、力は抑えます。そうですね、1/10といった所でしょうか」
 虚雲は歩み来る数字兵を見つめ見た。匠の仕掛けた罠が発動するまで、あと数歩のようだった。
「いかがです? クラブの9は確実に仕留めた方が良いように思いますが」
「わかったっ。さっさとやれ」
 匠の罠が発動した。ボディを狙って小石の弾群が襲いかかる。察知した数字兵はそれを避けたが、足元を狙って次の弾群が迫っていた。
 それを避ける為に兵が空中に身を投げ出した。その瞬間を狙いて射月飛び出し、カルスノウトを振ったのだった。


 こちらも西の森の中、チーム「カードバスターズ」は「クラブの8」に対して飛び出して行った。
 まず飛び出したのはナイトの菅野 葉月(すがの・はづき)とセイバーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)、それぞれにパートナーへ言葉を置いてから駆けた。
「ミーナ、ちゃんと力を抑えるのですよ」
「芳樹もよ、いいわねっ」
 駆ける速度も加え、葉月はランスを突きに構える。ヴァルキリーであるアメリアは低空ながらも翼を用いて高速飛行で迫って行った。
 葉月の突きを紙一重で避けた数字兵は、木の幹に飛びつくと、そのまま周辺の木々の幹と幹を跳び回った。
「速いですわ」
「任せてっ」
 二人を撹乱するような数字兵の身のこなしに驚きは得たが、アメリアはすぐに翔び追った。
 数字兵の動きを見て、ソルジャーの比島 真紀(ひしま・まき)はパートナーのウィザード、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)に声をかけた。
「サイモン」
「わかってる、行くぜ」
 サイモンは一帯の木の幹に向けて氷術を放っていった。凍った木の幹は素早い跳躍を防いでみせ、真紀がアサルトカービンで狙う事で数字兵を空中に跳び上がらせる事に成功した。
 そこへ再びアメリアが翔び追ったのだが、
「危ないっ」
 翔び上がったアメリアの体にパートナーの高月 芳樹(たかつき・よしき)が飛び着き抱きしめた。
「ちょっとっ! 何よ!」
「がっ」
 アメリアを抱きしめたまま、芳樹は背を木の枝に叩きつけられた。
「芳樹っ!」
 芳樹はそのまま地面に落ちるも、この時もアメリアを庇い守った。この瞬間と同時にプリーストのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は芳樹の元へ、パートナーのメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は着地した数字兵の元へと駆け現れた。
「わふぅっ」
 メイベルの放ったバニッシュが数字兵を襲う。光輝の波動に数字兵の動きが止まった所へ詰めの一撃はウィザードのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の雷術であった。
 トランプの舞いと同じに座り込んだのはメイベルであった。
「はぁ、怖かったぁ」
「タイミングも良かったわよ、戦闘もイケルんじゃない?」
「いぇいぇ、そんな。あっ、芳樹さんは?」
 芳樹の耳元でアメリアが必死に呼びかけており、セシリアがヒールで治療していた。
「アメリア、大丈夫だっての」
「馬鹿っ、どうしてあんなっ……」
「場所を考えて翔べっての。つーか…… うるさい」
「馬鹿っ、ばかっ」
 芳樹の頬にアメリアの涙が零れて落ちた。この涙を受けるだけの存在になれているのか、芳樹は嬉しきを得ながらも歯を喰いしばっていた。


 東の大滝、滝壺付近ではイルミンスール魔法学校のメイドナナ・ノルデン(なな・のるでん)とパートナーのウィザード、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が「スペードの9」を追い詰めていた。
 今まで素早く逃げていた数字兵だったが、仁王立つナナの威圧感に足を止めさせられていた。
 ナナは瞳に鋭き輝きを灯すと、仕込み竹箒で空中に円陣を描いていった。
「冥土戦技、行きますわ」
 ナナが飛びだした時、辺りに霧が生まれ広がった。
 箒に跨り上空を飛ぶズィーベンがアシッドミストを放ったのだ。
「滝のおかげで水分は十分、だから良く効くんだよね〜」
 視界が霧の厚みを感じ始めた、数字兵はナナの姿を捉えきれない。
 冥土戦技の基本動作、視界の死角を利用したフットワークに霧の効果が加わった事で、数字兵には迫ってくるナナが複数現れては消える様に見えて、見えていないのだろう。
 一切に動くことなくナナの一閃が数字兵を斬り裂いていた。
「ズィーベン、やりましたよ」
「ナナ〜まだイケる?」
「もちろんよ、行きましょう♪」
 トランプを素早く拾い上げて、ナナは再びに箒で空へと舞い昇ってゆく。
 空の色は今も、ナナの瞳の色の如くに青く澄んでいた。