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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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 北の山脈、頂上付近。空気も大分薄く感じる程の環境下においても、薔薇の学舎のナイト、藍澤 黎(あいざわ・れい)の闘志は弱まるどころか燃え滾っていた。
 対峙するのは「スペードのジャック(11)」、黎は対戦を心待ちにしていたのだが、出会えたのは偶然である。
 この場所で出会えた事も運命だ、なんて黎が言ったとしてもパートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)は信じると決めた。黎のそれだけの決意をフィルラントは知っているからである。
 ランスを構えた黎が言う。
「今回ぜひ戦ってみたいと思っていた。我が騎士道がどこまで通用するのか」
 黎の闘気に当たっても、ジャックはピクリともせずに向き合っている。
 対する黎も表情を変えないように。戦いは既に始まっているのだ。
「ランスを心の刃とする者として、いざ」
 呼吸と間合せ、仕掛けるタイミング。
 フィルラントが二人の間にホーリーメイスを投げ上げて、地面に触れたその瞬間。
 二つのランスが弾け突かれた。


 チーム「トランプハンター」も絵柄兵と対峙中であった。
 西の森の中、イルミンスール魔法学校のナイト、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がドラゴンアーツを用いて突きを放っても、「ハートのジャック(11)」は切っ先をぶつけて軌道を往なした。
 間髪入れずにイルミンスール魔法学校のウィザード、姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)がジャックの足元へ氷術を、クロセルのパートナーでドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)がジャックの体を目掛けて炎術を放ったが、ジャックは地面を叩き砕くと、その破砕の衝撃を利用して氷術を防ぎ、炎術は避けるのに十分な時間を剣圧で作り防いで避けた。
 反撃を受けたわけではないが、集まった3人は肩で息をしていた。
「さすがに強いですね」
「あぁ、地面を破って氷術を防ぐとは」
「連続攻撃を完璧に処理されると、ちょっとショックね」
 ジャックは3人から距離を取って、じっと3人を見つめている。そうして分析しているのかも知れない。良く出来た兵士だ。
「姫北さん、行けますか?」
「あぁ、だがやはり正面からではキツイかも知れないな」
「罠、頼ってみますか?」
「岩造の罠か…… 、不安ではあるがな」
「えぇ、満面の笑みでしたからね」
 クロセルと姫北が思い出すは、罠は自分に任せろと言ったシャンバラ教導団のセイバー、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)の嬉しさ溢れた顔だった。
「ふっふっふっ、やはり必要なようですね、罠が」
「罠? あぁ、ここにあるロープ、使うんだろう? はぃよ」
 イルミンスール魔法学校のウィザード、シルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)がロープを岩造に渡そうとして、瞳を疑った。
「相手の足を取れば良い、ならば使うのは、もちろんバナナだぁ!!」
「わぁぁっ、バナナを使うの? 画期的でございますわね」
「…………」
 岩造のパートナー、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)は感動称賛したが、シルエットは顎の力すらも抜けていくのを感じた。
「あ〜、え〜と、待て岩造」
「よぉし、姫北に連絡だ。こちらに誘導するよう伝えるんです」
「はい、かしこまりましたでございます」
「なぁ、おぃ、ロープを使った方が……」
「シルエット、もういい」
 シルエットのパートナー、ドラゴニュートのエルゴ・ペンローズ(えるご・ぺんろーず)が、提言しようとしたシルエットを止めた。
「彼らの罠は、彼らに任せるネ」
 エルゴの真っ直ぐで真っ赤な瞳がシルエットを見つめていた。
「わかった、私たちの罠は私たちで、だな」
 笑みを交わす二人、ロープを手に持つ。戦闘班が苦戦しているならば、サポート班が画策する。バナナを用いるという不安要素はあるものの、チームの雰囲気は良いようである。


 南の別荘地帯、小屋の陰に隠れて機を窺っているのは蒼空学園のソルジャー、カライラ・ルグリア(からいら・るぐりあ)と、パートナーの機晶姫、ティファナ・シュヴァルツ(てぃふぁな・しゅう゛ぁるつ)である。
「ねぇ」
「ん?あぁ、もう少しだけ、だよ」
 二人が追っているのは「ハートの3」、自由に歩かせていた、見守っていたかのように。そしてついに数字兵は別荘地帯の端に辿り着き、別荘地帯から出て行こうとしていた。
「さぁ、そろそろ行くよ」
「ねぇ」
「ん?あぁごめん、説明するよ。この別荘地帯には他の生徒たちも多く見られたからね、一応数字の小さい兵を狙ったけど、ターゲットが重ならないかを見極めてたんだ。それと」
「行ってしまう」
 数字兵が別荘地帯を出てゆこうとしている。カライラは拳程の石を二つ取り出して笑みかけた。
「左右に別れて奇襲をかけるよ。合図は二つ目の石が落ちる直前だ」
 カライラが一つ目の石を数字兵の上空に投げ上げた。続けて二つ目、こちらは先程よりも手前に、そして高く投げ上げた。
「よし、行こう」
 掛け声と共に二人は小屋の陰から飛び出した。
 数字兵は背中を向けている、別荘地帯の外れには生え並んだ木々も、無作為に生えた木々もある。このエリアで仕掛ける為に追跡を続けてきたのだ。
 一つ目の石が数字兵の後方に落ちる。その音に体をビクつかせ、振り向いた時、二つ目の石が数字兵の顔の前を過ぎ落ちた。
 瞬間であるが、数字兵の体は完全に硬直していた。そこへティファナのカルスノウトが右足を、カライラのアサルトカービンが左足を襲撃した。
 倒れこむ数字兵、その足を素早くティファナがロープで縛り上げた。
「終了」
「うん、上手くいったね」
 ティファナからロープを受け取ったカライラは小さく首を傾げた。
「でも良いのかぃ? トランプに戻さなくて?」
「足を縛っておけば逃げられない。戦闘は短く少ないが良いわ」
「……、でもこれだと、邪魔になるね」
 言わずにティファナは小森の中へ。木々の陰に座り込んだ。
「待ちましょう、さっきみたいに」
 笑みを見せるティファナを見て、カライラも肩の力を抜いた。
 実戦が楽しめれば良い、そう思って参加した。でもティファナが笑っているのなら。
 ロープを引いてカライラも、ティファナの横へ向いて歩いた。


 別荘地帯の小屋小屋の間、逃げる兵は「ハートの6」、左手には今も扇子を持っている一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)が、追い駆けていた。
「ちょっと待ちぃ、こっちもそないにそないにバーストダッシュ使えんのやから」
 ようやく追いついて一閃を放っても、避けられたなら、そのまま駆け出す。「走る」以外の動きをしている分、どうしても遅れてしまっていた、故に捕らえられずに今に至っている。
「紫織はんっ」
 数字兵の走る先を読み、回りこんだ燕のパートナー、宮本 紫織(みやもと・しおり)が数字兵の前に飛びつくように飛び出していた。
「はぁぁぁぁっ、やあっ」
 紫織が放つは爆炎波、それを数字兵にではなく、数字兵の足元に叩き放った。
 破砕音と共に地面が爆ぜ、数字兵の体も宙に投げ出された。
「燕さんっ」
「おぅ、任せぇな」
 言うと同時に燕が放ったソニックブレードが数字兵の体を斬り裂いた。
 舞い降りたトランプを拾いあげて、燕は紫織にそれを手渡した。
「いやぁ、爆炎波をあないに遣うなんて、やるやんなぁ」
「いえ私は、まだまだです」
「またそないに謙遜して。褒められとる時は調子に乗ったらえぇんや、折角のチャンスやからな」
「あ、はい、えぇと…… 、それがしのアイディア勝ちです」
 トランプを顔の横に並べて恥ずかしそうに笑み言った。クールな紫織が照れている。
「あっはっはっはっは、えぇで、それや、可愛いでぇ」
 言われてますますに顔を赤らめる。燕が扇子で扇いでいたが、紫織は当分、火照ったままであった。