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吸血鬼の恋、魔女の愛

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吸血鬼の恋、魔女の愛

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chapter.12 We know a part of love 


 帰りの船内。優斗の相方であるテレサたちが負傷者にヒールで治療を施している中、小さくなっていく島をぼんやりと見つめていたのは、カメラを首からぶら下げている勇だった。パートナーのラルフが後ろから声をかける。
「今日は、あまり写真を撮っていませんでしたね。今回のことで記事は書かないのですか?」
 勇が振り返って返事をする。
「うん、今回だけは、もうちょっと人に知られてない島のままがいいのかなあ、って」
 そんな勇の言葉に、ラルフは柔らかな笑みを浮かべた。
「少し大人になりましたね、勇」
「あ、ボクがいっつも子供っぽいみたいな言い方だ」
 軽く頬を膨らませる勇を見て、またラルフは口元が緩むのだった。

「あれ、お姉ちゃん何してるの?」
 柱の影で愛美を見ていた未沙に、未羅が話しかける。
「あ、分かったなの。お姉ちゃん、またいつもみたいに愛美さんのとこに行こうとしてたの」
 が、未沙は首を横に振った。
「あたしだって、たまには機械の設計図以外のものも読む時があるのよ」
「……? お姉ちゃんの言うことは、時々分からないの」
「愛美さんが好きだからこそ、今はやめとこうってこと」
 ハテナマークを浮かべたままの未羅の背中を押しながら、未沙はその場を後にした。

 当の愛美は、ただぼうっと船から波の動きを見ていた。その横に、マリエルがすっと並ぶ。
「……マナ、こんな時まで明るく振る舞わなくてもいいのに」
 出航の確認の時あたりから、愛美が笑顔で周りと接しているのをマリエルは見ていた。そしてそれが無理につくった笑顔であることを、彼女は分かっていた。愛美は小さく「うん」とだけ呟くと、マリエルに肩を寄せた。
「マリエル……私、マリエルのことが好き」
「うん、あたしもマナのこと、好きだよ」
 愛美は、知っていた。守護天使という種族の寿命が、地球人のそれよりも長いことを。愛美はロイテホーンの涙を思い出すと、なんだかとても悲しい気持ちになった。そんな愛美を見て、マリエルがすっと愛美の手を握る。
「あたしは、マナのパートナーでほんとによかったって思ってる。だから、そんな顔しないで」
 心の内を読んだかのようなマリエルの言葉に、愛美は少しだけ顔を伏せた後、マリエルに笑顔を向けた。それは、マリエルがいつも見ている彼女の本当の笑顔だった。
「マリエル、ありがと! マナミンも、マリエルと一緒にいれて嬉しい」
 これからもずっと一緒だよ、とはあえてふたりとも口にしなかった。終わりのない命を持った者同士が愛を持ち寄っても、終わりは来る。「ずっと」という言葉が持つ危うさを、彼女たちはもう知っていた。それでも愛する人と少しでも長い間一緒にいたいという気持ちがあるのは、愛に触れることの喜びも知っているからかもしれない。



 ロウンチ島にある鍾乳洞。
 ロイテホーンがその中の奥まったところに膝をつく。彼の前には、小さく簡素につくられたお墓があった。墓前には指輪や花束、線香、そして絵本が置かれている。
「何百年生き続けても、愛を知り尽くすということはできないのだな」
 ロイテホーンは少しの間目を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
「これから何百年もかけて、知らなかった愛を知っていけばいいんだよ」
 不意に声が聞こえた気がして、ロイテホーンは後ろのお墓を振り返った。もちろんそこに彼女の姿はない。代わりに彼の目が映したのは、外から吹き込んできた風でめくれた絵本の最後のページだった。
 そこには、手を繋いでいるロイテホーンとリーシャの絵が描かれていた。


担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加していただきありがとうございました。
前回、前々回と全体的にほのぼの系やコメディー系の話を書き、今回初めてシリアス路線で書いてみました。
それで分かったんですが、シリアスに書こうとすればするほどアクション判定が厳しくなってしまう傾向があるようです。
できる限りアクションやキャラをきちんと描写しようと心掛けていますが、今回のような話だとどうしても全てを拾うことは難しかったです。
たとえば、行方不明者捜索班の方々は想像以上に人数が多かったため、2つに班を分け片方にはコメディー担当になっていただきました。
また、吸血鬼(魔女)を説得すると書かれていた方がかなり多くいて、その全てを採用してしまうと50〜60人が吸血鬼を説得するという、
吸血鬼からしたら「そんなに何十人も話しかけてこないでよ」みたいな感じになってしまうため、
アクションが魅力的だった方、話の流れを的確に予想し、それに沿った説得を書いていた方などを中心に採用させていただきました。
また、他の場面である程度出番を設けることができそうなキャラはそちらを優先的に描写させていただきました。
ほとんど採用された方もあまり採用されなかった方もいるかと思いますが、
これもシリアス系リアクションの楽しみ方のひとつと考えていただければ幸いです。主に私が幸いです。
ちなみに今回の称号は、シナリオ上欲しかった役回りのアクションを送ってくださった数名の方を中心に付与させていただきました。

あ、そうそう。梅村マスター、柳川先生をちょっとだけお借りしました。いいですよね柳川先生。僕も好きです。
というか前回のマスターコメントで「他シナリオとあまりリンクさせない方が〜」とか書いといて、
自分がリンクさせてるという。ちょっとした遊び心というか、悪ノリみたいなものなんで許してください。同じように、
以前自分が担当した話に参加されたキャラを描写する際、軽く前回のことを持ち出したりしてますが、それも遊び心の一種と考えてもらえれば。

長くなってしまいましたが、このへんで言い訳を終えたいと思います。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。

それと、ついでにちょっとだけ告知させてください。
次回は今回と違い悪ふざけ全開でやる予定です。9月30日頃ガイドが公開される予定ですので、そちらもご覧になっていただければ嬉しいです。
もうひとつ告知。菜畑マスターに便乗する形になりますが。
告知・後書きメインのブログがあります。「萩に地鶏身」で出ると思います。
今回のリアクションの裏設定とか島の地図とか載せたりしてますので、もし興味のある方がいましたら覗いてやってください。
そんな感じで、長文に付き合っていただきありがとうございました。最後に梅村、菜畑両マスターさん、勝手に名前出してごめんなさい。