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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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第6章 青年(アレックス)の霊 
 
 樹月刀真はゴザルザから連絡を受けた直後、メアリの家の元の持ち主を訪ねていた葉月ショウからも連絡を受けていた。青年の名もわかった。樹月はショウに礼を言い、他のメンバーにも伝える。
 樹月達はアレックスが目撃される大きな木の前で待機していた。樹月のパートナーである剣の花嫁の漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)、ナイトのクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)とパートナーでドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)、ウィザードのリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)とパートナーで剣の花嫁のユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)、ナイトの天黒龍(てぃえん・へいろん)とパートナーで剣の花嫁の紫煙葛葉(しえん・くずは)、バトラーの椎名真(しいな・まこと)とパートナーで剣の花嫁の双葉京子(ふたば・きょうこ)がいる。
「いよいよご対面ね」
 双葉は椎名に言うが、椎名は頷いただけだった。
 双葉は街を出た時から、何かを考え込んでいる椎名の様子に、胸騒ぎがしていた。
「何を見ているんですか?」
 樹月は漆髪がアレックスが出現する大きな木の上を見ているのに気づき声を掛ける。
「……大きな木」
「そうですね。どれくらいの樹齢ですかね」
「なんで……青年……アレックスはこの木をグルグルまわっているんだろう?」
 漆髪は首を傾げて樹月に尋ねるが、樹月も首をひねる。
「もしかしたら、アレックスの大切な物がこの木にあるのかもしれないな」
 二人の背後からリリが言う。右手には空飛ぶ箒を持っている。
「だから、離れられないのだろう。指輪はアンデッド盗賊団が持っている可能性が高いだろうが、リリは他にアレックスをここに縛り付ける物がないか調べてくる」
 リリはそう言うと、空飛ぶ箒に乗る。リリは不安そうに見ているユリに言った。
「リリが戻るまで、ユリはアレックスの説得を頼んだよ」
「はぅぅ……頑張ります」
 ユリは日本茶の入った水筒を握りしめ、気弱な返事をする。
「出現したぞ」
 黒龍は注意を促す。
 アレックスは胸と抜き身の剣に血をべったり付け、木の周りをぐるぐる回り出す。
 樹月は初めて見るアレックスの身なりを見て呻く。
「うーん、血まみれの体に剣……幽霊が苦手な人じゃなくても結構きついですね」
 黒龍と紫煙が前に出ようとするが、頭の上にマナを乗せたクロセルが二人の前を塞ぐ。
「まあまあ。まずは俺が悩めるアレックスの話を聞きましょう」
「その通り! クロセルはダメだろうが、この頭脳派の私がいるから大丈夫であろう!」
「マナ……俺がダメだろうがって……」
 クロセルはマナの言葉に引っかかるものを感じたが、
「さあ! 悩めるアレックスを救いに行くのだ!」
「いたたたっ! わかりました! マナ、髪が抜けてしまいますよ!」
 マナに髪を引っ張られて、慌ててアレックスの前に出る。
 クロセルは咳き払いを一つして、敵意がない事を示すためにも、武器を抜かずに笑顔で話しかける。
「やあ、アレックス。何かお探しですか? このみんなのヒーローたる俺が微力ながらも力を貸しますよ?」
 ……アレックスはクロセルの言葉が聞こえていない。ひたすら木の周りを回る。樹月はその様子を見て、あることを思い出す。
「……そういえば、青年の霊は行商人が見えていないようだった。という、永夷さんの情報がありましたね」
「むぅ! 生きている者の存在を認知してないのか! では、どうするのだ!」
 マナは八つ当たり気味に、クロセルの髪を引っ張る。
「あいたたた! マナ! 髪を引っ張るのは……」
「ハッハッハッハッ! ヒーローを助けに、スーパーヒーローの俺様が来てやったぞ!」
「デジィ! スピードの出し過ぎですよ」
 空から甲高い笑い声とともに、デスモンド・バロウズが空飛ぶ箒に乗って、凄まじいスピードで突っ込んでくる。その後ろをアルフレッドが叫んで止めようとしていた。
 デズモンドは驚いているクロセルの頭上に来ると、何かを落としてそのまま飛んで行ってしまう。アルフレッドも後を追って飛んで行くが、通り過ぎた後に振り返って叫ぶ。
「その指輪はアンデッド盗賊団の頭領が持っていたので、おそらく『死霊の指輪』です!」 
 呆然としたままクロセルが落ちた物を拾うと、深緑の石が埋め込まれた指輪であった。
「おお! これは!」
 喜んだクロセルはアレックスの前に立ち、指輪を掲げて見せる。
「ほら、これが探し物の……」
「……俺の指輪! 返せ!」
 今まで虚ろだったアレックスの目に、初めて光が宿る。しかし、それはぬらりとした狂気の光だった。
「葛葉!」
 黒龍が呼びかける前に、紫煙はすでに青龍刀の形の光条兵器を発動させていた。黒龍は紫煙から受取り、
ギィン!
 クロセルに斬りつけようとしていたアレックスの剣を弾く。
「こいつは正気ではない! 下がれ!」
 黒龍はクロセルに怒鳴りながらも、激しいアレックスの斬撃を受けている。
「で、でも……」
 クロセルは指輪を手にして戸惑う。どうすればいいのかと悩んでいる時、ユリは木から小さなボロボロの巾着が落ちたのに気づく。木を見上げると、リリが箒に乗ってこっちを見下ろし頷いている。
「どうしたの?」
 巾着の中を覗いて固まっているユリに、双葉が不思議に思って横から巾着の中を覗く。
「これって……」
 双葉も言葉を失う。そこにはひと房の金髪が入っていた。アレックスは黒髪である。袋には「メアリ」と刺繍がされている。
「きっとメアリさんの髪ですよね。御守りでしょうか」
 ユリが呟き、双葉も頷く。双葉はさっきから何か考え事をしている椎名に声を掛ける。
「真くん」
 椎名は巾着の中を見て、何かを決意した顔になる。椎名は巾着をユリからもらうと、
「ちょっとの間、貸して」
「え? どうする気ですか?」
 黒龍の後ろで悩んでいたクロセルの手から指輪を取る。
 そして、光条兵器のクロスボウを発動させる。
「痛いだろうけど、我慢してくれよ」
 椎名は小さく呟き、アレックスの背後から右太腿に矢を射った。
「ぐぅ!」
 アレックスは憎しみのこもった目で、振り返る。椎名はその顔に巾着を投げつける。
「メアリさんがお守り代わりに、自分の髪を君に渡したんだろう?」
 アレックスの目に狂気の色が薄れていき、代わりに涙が溢れてくる。
「メアリ……メアリ……」
 アレックスは巾着を自分の額に押し当て、泣き崩れる。黒龍の手から光条兵器が消える。黒龍は椎名が持っている指輪を見ながら、紫煙に訊く。
「『死霊の指輪』は、死霊は触れないのだったな?」
 紫煙は無言で頷く。
「そうか……。結局、救われないのか!」
 黒龍は吐き捨てるように言うと、アレックスから顔を逸らした。紫煙はそっと黒龍の背を撫でる。
 重くしい空気の中、アレックスの呟きと嗚咽だけが聞こえる。
 椎名はクロスボウを消すと、自分の持っている全ての装備を双葉に渡す。
「真くん?」
 双葉は怪訝な顔で受け取る。他のメンバーも椎名を見つめる。
「京子ちゃん……ごめん。やっぱりこれが俺に出来る精一杯のことだと思うから」
 椎名は済まなそうに言うと、泣き崩れているアレックスの前に屈み言った。
「生きている俺の身体を借りれば、指輪をメアリさんに届けることができるだろう?」