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1・「一日舞妓体験」はじまり
参加を希望した百合園生徒は、旅館の一室に案内される。
100畳をはるかに超える大広間には、名札の付いた色とりどりの着物が用意されて、それぞれに担当の着付け師が控えている。
百合園女学園では事前に着物のアンケートをとっていた。
事前に柄や簪の指定があったものは、それぞれの好みやサイズに合わせての用意がなされている。
また、この修学旅行に合わせて着物を誂えた裕福な親も多い。子供に内緒で、とんでもない高価な着物を作ってしまった親もいる。
中には、舞妓衣装でなく普段の巫女姿を希望した橘 柚子(たちばな・ゆず)や舞妓の髪型を嫌がったものもいたが、上機嫌のラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が非常に寛容だったため、今回はほとんどの生徒が好きな衣装を着ている。
専用の化粧師も控えている。
まさに、いたれりつくせりだ。
これから着物を選ぼうという生徒たちのために、呉服屋から専門の番頭さんが来ている。全て女性だ。
また、お嬢様のわがままに慣れている名家の執事たちは、準備した着物が気に入らなかったための予備も大量に用意している。
とにかく、準備は万端だ。
事前に用意していた生徒は、名前を入り口で告げるだけで、執事が着物の場所まで案内してくれる。
それ以外の生徒にも万事滞りなく準備がなされている。
ここは日本。
百合園女学院は日本でも有数のお嬢様学校なのだ。
つつがなく髪が結われる。
髪の長さが足りないものには鬘が用意されている。
化粧も、勿論基本は舞妓風だが、嫌がるものには現代的な化粧が施された。
着付けにしてもかなりの自由が許されている。
2・まずは着付け
大広間の一斉での着付けが始まってしばらくしたころ、あちこちで悶着が起っている。
ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)は、この日のために自分で着物を購入している。普段のドレスと同じ赤、そして予算がなかったために、紙製の着物を購入した。
着付け師がロザリィヌに丁重にお願いしている。
「あっちの西陣織のきものを着てくれへんかな」
「わたくし、やっとお金をためて、これを買ったのですわ・・・」
ジュリエットの涙目に着付け師が折れた。
「しょうがおへんなぁ」
着付け師三人がかりで、髪の着物と帯をロザリィヌに丁寧に巻きつける。
「濡らしたら、あきまへんよ」
着付け師は、ロザリィヌの涙を拭いた。
桐生 円(きりゅう・まどか)はどれを着てもサイズが合わない。
「かんにんしておくれやす、今、ええサイズ持ってくるからなぁ」
しばらくして、円の希望した黒ではあるが愛らしいリスの裾模様の着物がやってくる。
「かんにんしておくれやす」
どうも子供用らしい。
清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、京都育ち。自分で着付けが出来る。
「そないに姐さんたちに見られると恥ずかしいわぁ。そやさかい、別の部屋、貸してしておくれやす」
たまたま知り合いの呉服屋さんと出会ったエリスは無理をいって、個室を用意してもらった。
パートナーのティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)と邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)とともに、着物の入った行李を抱えて、別室にうつる。
別室までの道すがら、三人だった百合園制服の生徒は四人に増えている。
パタン。
ドアが閉まると、ツインテールの髪型に百合園制服を着た生徒が、にやっと笑った。
イルミンスール魔法学校の生徒織機 誠(おりはた・まこと)だ。
「他にも個室で着替えている人はいるのでしょうか。いるとすれば、私と同じ、オトコの娘かも?」
ティアが苦笑して答える。
「襦袢まで自分で着替えれば、着付け師にはオトコか女かなんてわからないですわ。その考えは少し浅はかですわよ。でも、せっかくですから、早くお着替えになったら」
誠、改め、マコトの制服を剥ぎ取る二人。
「なんだか、楽しいですわ」
ティアは嫌がるマコトを無理やり裸にしている。
着付けが終わる。
エリスのセンスの光る装いとなった。
エリスは、髪色に映える瑠璃色に白で抜いた花柄が可愛らしい着物に、帯は髪からの流れを重視して菜の花色。
ティアには、銀髪が映える黒系、普段肌の色と相俟ってあまり身に着けない色だけに良い機会と考えて、帯は桃色にした。
壹與比売は、元来の高貴さを考慮して京紫を中心に金色や萌黄色で、帯はバランスを取って翡翠色とした。
マコトは、ひたすら可愛らしく。桃色の着物にふんだんの花とレースをあしらった現代的な着物に、赤系の帯を締めさせた。黒系では男らしさが見えてしまうのではというエリスの配慮だ。
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