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リアクション
第三章 押さえつけるは負担が大きい
「ちょっと、ちょっと何なのよ、この揺れは!」
岩壁の外に飛び出してしまった青刀の双岩の片岩は、神殿内の地に落下して刺さった。その衝撃が洞窟内に大きな揺れを起こしたのだった。
「もうっ、ジャックのせいでこんな事になったんだからねっ!」
「そんな事あるか! そんな事……、あるかぁ! あるかなぁ?」
鬼の形相で玲奈が顔を寄せて来たものだから、ジャックはいつもの荒い口調を保てなかった。イルミンスール魔法学校のウィザード、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とパートナーでゆる族のジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)は、迷子なのである、洞窟内を彷徨っているのである、そしてその原因がジャックの判断ミスから成っていたのである。故にジャックは圧されて然るであった。
「あら? ジャック、まだ体が濡れてるようね、乾かす必要があるわよねぇ」
「おい、待て、火術は駄目だぞ、絶対に駄目だぞ」
「どうして? 暖かくて良いじゃない。私もう寒くて我慢できないの。火達磨になって私を暖めて♪」
「火達磨って、おい、可愛く言っても可愛くないぞ、おわぁっ」
「あっ、こら待てぇ」
ジャックが走って逃げまして、玲奈がそれを追いました。そんな事をやっている内に、2人は男に出会ってしまったのだ。忍び足で移動しながら岩と岩の間に頭を突っ込んでは辺りを見回している波羅蜜多実業高等学校のソルジャー、国頭 武尊(くにがみ・たける)に出会ったのである。
「……、何してるの?」
武尊は体を跳ね上がらせて、続いては硬直させたまま振り向いた。玲奈とジャックの姿を見て、武尊はどうにかこうにか言葉を発した。
「ここ!! ここが怪しいんだよな、怪しいんだよ」
「怪しい? 何がだ?」
「あ、いや、何か感じるんだよ、ここから、ほら、ここだ」
武尊が指差したのは岩と岩の間にある壁だったが、玲奈とジャックは言われたままに壁を覗き込んでいた。魚人たちの住み処のお宝を捜して頂いてしまおうという訳だ、何て言える訳がない、言える訳がなかった。今だ、逃げようと武尊が思った時、
「ジャック、壊しなさい」
「言うと思ったぜ」
「へっ?」
武尊が壁に目を向けた時、ジャックが全身で跳んで足から壁を蹴破っている所だった。大きな音と共に岩の壁は見事に壊れた。
「あん? 人魚……?」
壁の先に現れたのは小さな空間、空洞になっていて、数人の人魚が体を震わせているのが見えたのだ。
海中を行く一行の右部を見張るは薔薇の学舎のローグ、黒崎 天音(くろさき・あまね)とパートナーでドラゴニュートのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)である。
魚人たちの姿は見れなくなっていたが、2人に襲いかかってきたのは巨大なシーサーペントである。口を大きく開けて直線に向かって来ていた。
ブルーズが大きな牙を受け止める。その瞬間に天音はリターニングダガーで切りつけると、シーサーペントの動きが止まる、その機にブルーズがドラゴンアーツで強化した拳で殴りつけてから自身を軸に回転させてから投げ飛ばした。
「やはり水の中は動きづらい。ダガーの切れ味も悪すぎる」
「それは仕方がない……、諦めるしかないだろうな」
「気が乗らないけど、僕もドラゴンアーツを使うしかないか」
「何を言う、ドラゴンの力は素晴らしいぞ、力が漲るのを感じられる」
「はぁ、肉弾戦に興味は無いんだ僕は……」
天音がシャツの腕ボタンを外している時、一行の左部を見張っているのはイルミンスール魔法学校のウィザード、佐伯 梓(さえき・あずさ)とパートナーでプリーストのカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)である。彼らにもシーサーペントが襲いかかって来ていた。
カデシュが一人、全身の力を抜いて水中を漂えば、シーサーペントが口を開いて向かってくる。その直線上にを梓は見極めてからハーフムーンロッドをシーサーペントの体に触れさせると、極微力の雷術を放った。巨体を持つシーサーペントも、通電、感電を受けてゆっくりと海面へ向けて力なく浮かび始めていた。
「凄いよ、カデシュの言った通りだ、効果はバツグンだねー」
「今の所、上手くいってますが、力の加減には気をつけて下さいね。危険な策であるのに変わりはないのですから」
雷術をロッドの先から放つ事で、距離をかせいでいる。それでも水中で雷術を使っているのだ、僅かな加減の色合いで自らをも危険にさらしてしまう。それでも梓がこの策を実行している事が、カデシュへの信頼が表れているのである。
一行の左右で戦闘が行われている最中、ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)と早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が人魚たちが身を潜めている横穴を発見した。横穴の左右はこれまで通り黒崎 天音(くろさき・あまね)と佐伯 梓(さえき・あずさ)が、そして上下と正面をウェイルと呼雪が固め、穴の内部へは呼雪のパートナーでドラゴニュートのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)と機晶姫のユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が向かった。
「人魚さん、人魚さん、いますかぁ?」
「助けに来ましたよ。人魚さん」
横穴の先には洞窟に繋がりがあり、そこには30人以上の人魚たちが肩を寄せ合っていた。
「アリシアさんに言われて来たんだ」
「安全に誘導します」
アリシアの名を聞いて、人魚たちは2人への警戒の色を解いた。そう思えた瞬間、洞窟奥の水場から数名の人魚が慌てて飛び出してきた。何かに驚き逃げているような仕草に見えて、そして続いて姿を見せたのは追っ手とされてしまった国頭 武尊(くにがみ・たける)であった。
「うおっ、人魚がいっぱい居る!!」
「はぁ、せっかく乾いたってのに、また濡れたじゃねぇか」
「海に来たんだから濡れて当たり前なのよ。って、あれ?」
続けて如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)も姿を見せると、ファルたちとの対面を果たしていた。
アリシアが構えた本陣に、「軟殻舞い舞い火ラメ」が舞い降りた。火ラメが閉じた軟体を開いてゆくと、生徒、魚人、そしてノーム教諭が姿を見せた。
教諭はすぐに湾内と上空へ目を向けた。
「黄水龍と彼は……、離れてるね。双岩はやはり、壊れてしまったようだねぇ」
「申し訳ございません。防ぐ事が出来ませんでした」
アリシアが言った時には教諭は笑みを浮かべていた。
「彼の方が早かっただけ、それだけだよ、それよりも」
「アリシアさん」
駆けよって来たナナ・ノルデン(なな・のるでん)は、教諭の言葉を遮った事に一礼をしてから、無事に保護した人魚たちが到着した事を告げた。
「良いタイミングだ。皆に言おう、協力してもらうよ……、桐生クン」
名を呼ばれた桐生 円(きりゅう・まどか)は動きを止めて振り返った。円はだいぶ離れた所から更に離れようとしていた。
「協力ってのは、龍を倒す事だろうね?」
「違うよ、龍を女王器に戻すんだ、頭数が必要なんだ、協力してもらうよ」
「冗談じゃない、ボクはあの龍に興味があるんだ、悪いけど」
そこまで言った円は急に肩の力が抜けていた、自分の意志では無く、肩の力が全て一斉に抜けてストンと落ちていた。
「ルファニー」
「はい」
教諭に呼ばれたルファニーは顔を俯けていた。顔を上げられないようであった。
「「巡情の唄」を龍に聴かせるには魚人の力が必要になる、それで良いかな?」
恐る恐る顔を上げたルファニーは、教諭の笑みを瞳に映した。
「は、はい。魚人さん達の体をお借りして、音と効力を強める事が必要、です」
「よろしい。だそうだ、アリシア、準備だよ、生徒諸君にも「巡情の唄」を歌ってもらうよ、くっくっくっ」
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