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第七章 希望を運ぶ

 大きなバケツを抱えて、メイドのプレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)が町を走っていた。
「はあ、はあ、急がなくっちゃ!」
 彼女の運ぶバケツの中身は、採ってきたばかりのハチミツである。
 たっぷりとハチミツの入った重いバケツ。プレナはそれを教会に運ぶ途中だった。
「わわっ!」
 だが、角を曲がったところで、プレナは足を止めざるを得なくなる。
 進もうとしている道の先にハチの一団が待ち構えていた。
 すぐに角に隠れたおかげで、今のところ気付かれていないが、プレナが通ろうとしているのは見晴らしのいい大通りだ。
 出て行けば確実に見つかり、襲われてしまうだろう。
「うう〜、ここを通ればすぐなんですが〜」
 プレナはしばし逡巡するが、意を決して足を踏み出した。
 掃除で鍛えた足で以って、ハチの群れを突っ切ろうと試みる。
「いたたた! いえ、痛くない、痛くないですぅ〜! ど根性ですよぉ〜!」
 案の定刺されまくるプレナ。
 両手がバケツで塞がっているため、足で蹴って応戦しようとするが、空中にいるハチにはほとんど当たることはない。
「こっちです!」
 ピンチに陥ったプレナを助けたのは、教会の警護をしていたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)だった。
 周囲の様子に特に目を光らせていた彼女が、プレナに気付いて駆けつけたのだ。
 ロザリンドが手当たり次第にハルバード振り回す。
 プレナからハチを引き剥がすことに成功し、ロザリンドは彼女と一緒に走り出す。
「ふう、なんとかなりました」
「あ、ありがとうございます〜。おかげでハチミツも無事でした〜」
「そ、それはハチミツだったのですか?」
 バケツの中身に、ロザリンドが目を丸くする。
「大丈夫ですよぉ〜、お掃除とかに使ったものじゃありませんから〜」
「そういう問題では……いえ、とにかく教会へ届けましょう」
 追ってくるハチをロザリンドが撃退しつつ、ふたりは教会へ急ぐ。
 教会の扉は、もう、すぐそこだった。