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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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the another travels 黒羊郷へ

「……迷ったんじゃないのか?」
「……」
 明け方には草原地方に入った、騎凛 セイカ(きりん・せいか)と教導団生徒達。
 馬車の速度なら、日中に谷間の宿場を越えることもできた筈なのだが……今、一行がいるのは、薄暗い森の中だった。
 すでに、馬車を急がせるわけにはいかないくらいには木々が密になってきている。
 これまでに、茶店の一つにも行きあたっていない。
「なんか、最初から全然違う方向に来てたんじゃ……」
 馬車を下り、不安げに辺りを見回す朝霧 垂(あさぎり・しづり)
「……騎凛教官? 大丈夫か」
「……ん。んー」
「教官! ……寝てたな」
 一行は、馬車を止めた。
 ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)柳生 三厳(やぎゅう・みつよし)ルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)サクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)が辺りを少し見回りに行っている。
 森の中はしんとしており、ときおり虫の音がかすかに聞こえる。
 時間もよくわからない。そびえる樹冠にさえぎられた空、隙間から見ると、濃い灰色のような、闇のような。
「時計は? 携帯は?」
 カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が馬車から顔を出す。
「あれ、誰も持っていないのか?」
「今回こちらの旅は、ゴシックなファンタジーでいきたいようですね」
 ルゥ・ヴェルニア(るぅ・う゛ぇるにあ)が冷静に言い放つ。
 やがて、ユウ、ルイスらが戻ってくる。
「明かりの一つも見当たりませんね。月も見えないとは、不吉な」
「(ユ、ユウ……それは言いすぎな気がするよ。まあ決め台詞言えないのはわかるけどさ)」
「……」
 ルイスは、無言だ。
「じゃあ皆、ご飯にしようよっ」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が、元気に言う。



 火を焚いて、持参した食料で、ライゼとルゥが簡単な夕飯を作った。
「垂はいいからっ。垂はいいからっ」
「あのな……二回も言わなくていいからさ……」
「さあ皆さん。できましたよ」
 夕飯を食べる間は、皆無口だった。
 深夜の内に出たので疲れもあったし、どの辺りかもわからない森に迷い込んでしまった不安もある。
 一通り食事を終えると、
「では、ユウとルイスが交代で見張りをするであります!」
 マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)がびしっと指示を出した。
「……ええ。……そうですね」
「……」
「騎士ルイス。どうしたであります返事がないでありますぞ!」
「いえ、服従致しますよ。騎凛殿の命であれば」
「ルイスさん……私と行くのは、いやですか?
 私は、ルイスさんと行けることは、嬉しく思いますよ」
 ルイスは少し間を置いて、
「教官の上に淑女とあれば、貴女に逆らえる理由はありませんよ。忌々しいことに僕は騎士ですから」
 肩を竦めると、ランスを持ち直し、闇の方へ歩いていった。
「……」
「では、自分はあちらの方で見張ることにしますので」
 ユウも、盾とランスをしっかり持つと、ゆっくりこの場を去った。
「……。さあ、寝ようか? 疲れをとって、明日は近辺の村を探さないとな。お風呂にも入りたいし」
 ライゼを、馬車の方にやる朝霧。「騎凛教官。明日はまた、早いだろ」
「ルゥ。ボク達も行こうか。おーいユウ。見張りは、ボクも代わるからね!」
「ルゥはユウにくっついてます」
「あっ。なんだよっ、待ってってば」
「あとで代わってくださいね。ルゥは、ユウと一緒に寝ますから」
「そ、そんなぁ。……」
 三厳らのやり取りを、クスっと見ていたサクラ。
 真剣な面持ちで、騎凛に向き直り、
「主が失礼を致しました。……あれで、教官を尊敬しているんです。
 今回の旅でも色々教わりたいと、自分から護衛を志願しています」
 サクラはそう言って主ルイスの性格を思い、どうしてああ捻くれているのか……とため息をついた。
「ルイスさん……」
 マリーとカナリーは騎凛を見た。
「カナリー、新たなライバル出現かも知れませぬぞ」「……。ええっ??」



 しばらくすると、ユウとルイスに代わって、二人を気遣う三厳、サクラと、夜にはとことん強いマリーが見張りに着いた。
「三厳、大丈夫ですか?」
「うん。今はボクがユウを、……皆のことを守るから。安心して」
 ユウとルイスは、火を焚いた辺りで、うつらうつらと眠る。
 馬車の中では……
 ライゼ、ルゥ、カナリーはすでにぐっすり眠り込んでいるようだ。
 疲れてはいるんだけど、何となく眠れない朝霧。それに騎凛も。
「……朝霧さん?」
「……ああ。起きてるぞ。
 ……。
 そうだ。騎凛教官とアンテロウム副官との出会いや、契約したきっかけって何なんだ?」
「きっかけは……何となく幼なじみに似てて。出会いは…… ……」
「(ほ、本当か??) あれ騎凛教官? ……寝たのか?」
「起きてます」
「それからさあ、騎凛教官の話を聞いて思ったんだけど、パートナー契約が解約されることってあるのかな?
 また、事故ではなく、寿命でパートナーを失った場合は、障害は発生するんだろうか? ……正直なところ、人間の寿命なんてわずかなものだぜ?」
「……そうですね。……儚いものですよね、…………」
「あ、……寝たか」
「そのときはそのとき。今は今を大切にして、楽しく過ごしていければと思うよ」
 ライゼの声だ。暗がりで、表情は見えないけど……
「ライゼ。……。寝言か?」
「起きてます」「起きてる」
 騎凛とライゼが同時に言う。
「……」
 ルゥが、皆に気付かれないように、すっと馬車を抜け出す。
「ユウ」
「……どうしたのです? やっぱりしがみつきながらじゃないと寝れませんか」
「……(しがみつきながら、寝る……しがみつきながら寝る……??)」
 そっと薄目あけるルイス。
「……何だ。皆起きてるんだね……」
 馬車から覗いて、カナリーが呟いた。