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快晴開催! ヴァジュアラ湾の感謝祭!!

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快晴開催! ヴァジュアラ湾の感謝祭!!

リアクション

「それでくっつくんだから、面白いよなー」
 洞窟の修復組である和原 樹(なぎはら・いつき)は、『ヒール』を唱える清泉 北都(いずみ・ほくと)の手元を見て言った。
「うん、やってる僕も、不思議な感じがするんだ」
 岩と岩が一体となってゆく。早回しで見ているような、それでも最後は接合部が分からなくなる程に、見事に一つになってしまうのだ。
「そう言えば樹、お前、『リカバリ』を使えたはずだな」
「ん? あぁ使えるぜ…………、あっ!」
 樹は、パートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)に言われて気づいた、そう、気づいたのだった。
 大きく崩れた岩の壁、その前に樹は立つと、両手を広げて『リカバリ』を唱えた。
 すると壁は『ヒール』と同じように見る見るうちに修復されていった、しかも『リカバリ』の方が範囲が広い!
「おぉー、何て事だ! なぜ気づかなかったんだ」
「喜ぶのは良いが、消費は『ヒール』以上に激しいのだぞ」
「あっ、そうか。使えて、あと一回かな……」
「捜すとするか」
「あぁ! もちろんだ!」
 最も必要とされる箇所を捜しに2人は駆け出した。それを目で追った北都に、パートナーのソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が心配そうに歩み寄った。
「北都、無理してねぇか?」
「大丈夫、まだまだやれるよぅ」
 開始から今までのずっと、北都が真剣な表情を崩す事は無かった。
 ソーマは背後から、そっと北都を抱きしめようとしたが、北都の隣にドカッと座り込んだ。
「北都がやるっつーなら、俺もトコトン付き合うぜ」
 ようやく北都の頬が緩んだのを見て、ソーマは小さく安堵したのだった。


 ヴァジュアラ湾内の東側、「島の主は我であるゲーム」会場では、白熱した戦いが繰り広げられていた。
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)たちの戦い方を見ていたとは言え、バトラーの駈銘 輪駒(かるめ・りんく)は見事に魚人を海に落とすに成功し、島の主候補となっていた。しかし彼にとっての試練はここからであった。
 参考にしたレキと、パートナーのミア・マハ(みあ・まは)は、ミアが挑戦者の攻撃を見極め、指示を出し、避ける事を徹底した上で反撃をしていた。
 太ももと水着の効果もあると輪駒は思ったが、何よりも役割が分かれている事、そしてそれを見事に務めた2人の連携が良かったのだろう、2人はあっさりと挑戦者を連続で退けるに成功していた。
 そんな輪駒の挑戦者は、何と魚人であった、魚人が向かってくるのが見えた。ゲームに挑戦するのは生徒だけとは言っていないわけだから…… それよりも輪駒を追い詰めていたのはパートナーのアダレイド・フォウンテイン(あだれいど・ふぉうんていん)であった。アダレイドは輪駒に協力する気が全くに見えないのだ。
「あぁぁどうしよう、連携の方法は出来ないし、自分で考える? でも魚人なんてどうやって倒したら良いんだよぅ、あぁぁもう」
 体を震わせ、慌てふためいている輪駒を見て、アダレイドは、じっと拳を握っていた。
「貴殿なら出来るはずだ。追い詰められた状態こそチャンスなのだから」
 呟き言ったアダレイドの視線の先では、飛び出してきた魚人が輪駒に襲いかかろうとしていた。
 輪駒は身を竦めるように見えたが、魚人の拳が直撃する瞬前に目を強く見開いて、体の震えを抑えたのであった。
 一つの浮島、その島の上で、向かい合い睨み合いをしているのは主候補の黒霧 悠(くろぎり・ゆう)と、挑戦者のソウガ・エイル(そうが・えいる)である。
「まったく、何を考えているんだか」
 ソウガは足元を、浮島の地を見て、ため息をついた。
「何をって、気に入らないかぃ?」
 悠は自分が撒いたローションを見て笑った。今や、悠とソウガの足元以外がローションでギトギトになっていた。
「こんな戦場は、見た事がない」
「俺だって無いさ、思いついてやってみたんだがな」
「自分も動けなくなった、と」
「そうなんだよな、あぁ〜、まいったぜ」
 声を上げて笑う悠を見ても、ソウガは笑ってはいられなかった。
 海から島へ上がった際には地を蹴り砕いて足場を確保したが、相手と向かい合った今現在は迂闊には動けない。足場を作る事は、同じく足場を作る事になるからである。
「さて、どうするか」
 パートナーのアリア・エイル(ありあ・えいる)の姿は見えないままだ。ソウガが「島の主は我であるゲーム」に参加したいと言った時、アリアは頑なに「別体共鳴歌唱法の体験会」に参加したいと言ったため、湾内において別行動を取る事にしたのである。
 嬉しさ、そして決意を秘めた瞳を見せられては、ソウガは何も言えなかった。またその瞳に反発して頑なになった自分がいた事もソウガ自身気づいている、反省していた。
「俺は早く行かなきゃならないんだ」
「おぃおぃ、焦りが顔にも出てるぜ、そんなんじゃあ足元と一緒に心意気も滑っちまうぜ」
 ソウガは顔を歪めて苛立ちを噛みしめた時、声が聞こえた。
「…………、アリア?」
 「別体共鳴歌唱法の体験会」に参加しているはずのアリアの声が聞こえてきたのだ。
 ソウガが湾を見渡しても、アリアの姿は無い。それなのに。
「記憶を失っていた私を、私を救ってくれた、守ってくれていること。ありがとう、これからも、ありがとう、これからも、よろしくね、ありがとう」
 アリアの歌声にはアリアの感謝の気持ちが込められている、そう感じた、そう聞こえた。
「私の光条兵器は片刃の長剣。真っ白な刀身をしているの。何も持っていなかった私、真っ白な私、真っ白な刀身は私自身が表れたもの、だから、ソウガと一緒に過ごす日々が私に色を加えてくれる。いつか刀身は色を帯びてくる、どんな色になるのか私も楽しみ。だからそれまで、それからも、ソウガ、ずっとずっとによろしくね」
 たくさんの感謝の気持ちが届いた。
「バカだな。こんな…… 魚人の腕の中からじゃなくて、直接言えなかったのか」
込み上げてくる想い、熱い想い。
「遊んでる場合じゃないぜ!」
 ソウガは勢いよく飛び出した。
 アリアのソウガへの想いは、歌を聞いた悠にも伝わっていた、つまりそれが悠の判断を遅らせる事になったのだが。
 飛び出したソウガは二歩目を踏む直前に『バーストダッシュ』を唱えると、素早く宙を蹴り、左右に撹乱。悠が気づいた時には両肩への打撃が入っていて、悠の体は海へと飛ばされていた。
 悠が海に落ちるのと、ソウガが再び『バーストダッシュ』を使いながら地を蹴った後に着地したのが同時であった。息つく島もなくソウガは直ぐに立ち上がった。
「さぁ、次の相手は誰だ、早くしろ!」
 称号を手に入れて駆け付ける、そしてそれをアリアに捧げる。固く決心したソウガは、正に情熱に包まれていた。