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リアクション
地は今も揺れている、岩塊の数も減らない、むしろ増えているようにも思える。
「教諭、何か方法はないんですか?」
葉月 ショウ(はづき・しょう)はライトブレードにして岩塊を迎撃しながらにノーム教諭に訊いていた。
「推測の域だったが、これは決まりだねぇ。君が抉った片岩の傷に『ヒール』を唱えてみると良い」
「ヒール? 岩に?」
教諭はただ笑みを浮かべて立ち見ている。その口が言葉を足すとは思えない佇まいをしていた。
「アク、岩の傷にヒールだ」
「本当に? 信じて良いの?」
言っている間にも岩塊は襲いかかってくる。会話をするのも困難な状態にあって、ショウは思わずパートナーでウィザードの葉月 アクア(はづき・あくあ)に声を荒げていた。
「? 何が!」
「だって、さっきは教諭の言われた通りにしたら、こんな状況に……、きゃっ」
「アクっ!」
アクアに向かってきた岩塊を、間一髪でショウが斬りつけた。しゃがみ込んだアクアの肩を持って、ショウは真っ直ぐにアクアを見つめた。
「教諭じゃなくて、俺の言葉を聞け」
見つめ合っていた時間は瞬間なれど、アクアは立ち上がり、片岩の傷に瞳を向けた。
岩弾を避けて片岩に寄りて傷に触れる。真っ二つにしようとしただけあって、広範囲に抉られているが、アクアは瞳を閉じてから、優しくヒールを唱えた。
無機質な岩にヒールをかけている、それなのに、片岩の傷は見る見るうちに塞がり回復していった。
全ての傷が塞がり、息を零したアクアが瞳を開いた時、地の揺れも岩塊が襲ってくる現象もピタリと止んだのだった。
「一体、どういう事です?」
パートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)と共に、空飛ぶ箒から降り立ったナナ・ノルデン(なな・のるでん)はノーム教諭に問いたてた。
「双岩の傷を治す事が、どうして洞窟の荒激を鎮めるのに繋がるのです」
「青刀の双岩と洞窟は共鳴体となっているからさ。双岩がダメージを受ければ洞窟はその原因を排除しようとする、防衛機能が働くわけだねぇ」
「防衛機能?」
「双岩と洞窟は生命力を持っているんだ。双岩が核、洞窟が外殻というわけさ」
「核を破壊しようとしたために、洞窟の岩々が襲いかかってきたと……」
「そういう事になるねぇ」
ノーム教諭が双岩の片岩に手を添えた時、既にそうしていたのはソルジャーの清泉 北都(いずみ・ほくと)であった。
「あのまま続けていたら、洞窟の意思で、この洞窟を埋めてでも双岩を守ろうとしたかも知れないって事なのかぃ?」
「そぅさ、双岩を破壊すれば黄水龍の封印は解ける、でもそれをするなら外殻は核を守ろうとより強固な蓋をしてしまう、だからフラッドボルグは封印を解く為の正規の方法を取らざるを得なかったという訳さ」
「それが『憎しみ、悲しみ、血によって遺跡と水を汚す』事……」
ウィザードのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)とプリーストの和原 樹(なぎはら・いつき)は続け問いた。
「しかしそれでは、なぜわざわざ魚人同士の争いを仕組んだのかの解にはならない。血によって遺跡を汚すなら、鏖殺寺院が直接魚人たちを襲っても同じ事だろう」
「ルファニーを操り、彼女に魚人たちを操らせるなんて、面倒すぎるよな」
「一度に大勢を操るには彼女の歌の力を利用した方が効率が良いという事、そして何より、真の目的は魚人たちの自由を奪う事なのさ。魚人と人魚の「別体共鳴歌唱法」による唄が黄水龍の暴走を止めたのを見ただろう、揃って抵抗される事を恐れたからこそ、両者を引き離したのさ」
「女王器がこの遺跡に封印されていたのも、それが理由かい」
桐生 円(きりゅう・まどか)の問いに、ノーム教諭は一つだけ指を立てた。
「双岩と洞窟、そして人魚と魚人の力。これらの要素があったからこそ、青龍鱗の女王器はこの遺跡に封印されていた、というわけさ」
「遺跡を修復したら、女王器は再封印すると……」
「いいや、それは出来ないだろうねぇ」
「どうして? どうして出来ないのさ」
如月 玲奈(きさらぎ・れいな)の見上げる瞳に笑みかけながら教諭は続けた。
「封印が解かれた事で、双岩の力が弱まっているんだ、それに洞窟とのバランスも崩れているからねぇ、正常化するまでにどれだけの時間がかかるのか、良い研究対象ができたよ」
「つまりしばらくはアンタが持ってるって事かい」
「ふふふぅん、誰かに預けても良いんだけど…… 決めかねていてねぇ。それまでは持っているつもりだ」
円の笑みを横目に、黒崎 天音(くろさき・あまね)が鋭く見つめて訊ねた。
「女王器とは一体何なのです、先日見つかった「朱雀鉞」との関係も教えて頂きたい」
朱雀鉞の言葉に、桐生 円(きりゅう・まどか)、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)、樹月 刀真(きづき・とうま)はアトラス遺跡での記憶を蘇らせていた。
「女王器については…… 6学校も調査を行っているとも聞いている。近々公表されると思うからねぇ、こまめにチェックするんだねぇ」
「6学校が動いているという事は、まさか首長家も?」
「こまめにチェックするんだねぇ、くっくっくっ」
「………… 答えになってない…………」
「さぁて雑談はここまでにして、修復作業をしてもらうよ。聞いていただろう? 『ヒール』が使える者は壁の修復を。使えない者は力仕事だ、崩れ砕けた岩塊を集めておくれ、場所は指定するから指示を待つといい」
「教諭、我々から一つ提案があります」
チーム「真実の探索者」の一行から、イルミンスール魔法学校のメイドであるザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が教諭へ申し出た。
「我々は修復だけでなく、改修作業も並行して行いたいと思っています。具体的には」
「ザカコ、改修案についての詳細は発案者のルカルカにしてもらう方が良いんじゃないか?」
「あっ、そう? あっ、じゃあ」
「ん? 俺もか?」
ザカコのパートナーである強盗 ヘル(ごうとう・へる)に名指されたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、無言でパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の腕を掴んで共に一歩前に出た。
ルカルカは大きく呼吸をしてから、瞳を見開いた。
「私達は「ハーモニーホール」の建設を提案します」
「洞窟内に小型の音楽ホールを建設する、というものです」
「そう、人魚さんと魚人さんたち、それから私達も一緒に楽しめるようなホールを作りたいんです」
「保管庫や連絡機器を備えた事務室も併設致します」
改修案は事前に聞いていたはずに、セイバーの五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は湧き上がるイメージに浸りながら零して言った。
「コンサートをしてもヨシ。美男美女コンテストをしてもヨシ。ダンスバトルや品評会とか…… あっ、ノーム教諭の発明品の発表記者会見みたいなのもやれば盛り上がるよね、あとあとっ」
「お待ちなさい、理沙。それ以上はマイナス要素になりかねませんわ」
「しかし、イベントを行える象徴的施設は集客性を高めます、それは湾と学園とをより深く結ぶ事に繋がると信じています」
理沙のパートナーでヴァルキリーのセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)とザカコのフォローも含めて聴いて。ノーム教諭は、あっさりと笑みを増した。
「「ハーモニーホール」の建設は君たちが中心となってやると良いよ。この広間に造っておくれ、力仕事組の諸君はこの場所に岩を集めるんだ、いぃね」
「はい」
喜怒哀楽がそれぞれに色を見せている返事が、一つに集まって響き渡った。
洞窟の通路と棲み処、そしてハーモニーホールの建設が一斉に開始された。
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